#02 ママ、しんじゃうの?
「人がいるところで倒れたのはラッキーだよ」
とは、医療従事者である姉のことば。
あの日、スーパーに寄っていなかったらと思うとゾッとする。
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頭にホチキスが何十本もぶっ刺さっている。でも、幸せだ。だって生きている。考えて感じたことを言葉に出来る。
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入院中、ノートに書き殴ったこと。
あのとき体験したこと、考えたことを残しておこう。そう思えたことは確実に入院中の私を救った。
2021年の年末に、脳腫瘍(髄膜種)で3週間ほど入院した。
家族は、夫と子ども二人、小2と年中。何となく頭痛は続いていたが、市販薬を飲めば収まっていた。まさか、だ。
幼稚園の迎えの帰り、スーパーに寄った。もち米を探して探していた時だ。
(目が乾いたな)と、瞬きをしようとしたが、瞼が全然動かない。コンタクトがくっついちゃった、マズい!と目薬を出そうとしたが手が思うように動かない。身体も動かない。視界には豆腐のコーナーが入る。ここはもち米無さそう、違う列だな、と思ったが娘に伝えられない。
積まれた在庫の段ボールにもたれるように座り込んだ。見上げた天井の蛍光灯が くの字 に曲がっていた。
あ、頭痛の原因これか。全部つながった。今、私、やばい。
「ママ、動きが変だよ。どうしたの!ママ、しんじゃうの?」
店内の人が気づき店員を呼ぶ。
救急車を呼んで下さい、と言いたいのだが出てきたのはひゃうひゃうししゃをよんえくあああ。
呂律が回らない。スマホを取り出して渡そうとするが、ポーチのスナップを外せない。
「救急車呼びますか?呼びますよ」
という、店員さんの問いかけに傾いたまま頷くしかなかった。
娘の声がまだ聞こえる。
ママ、しんじゃうの?どうしたの?
誰でもいいから手を握りたかった。怖かった。えんじ色のジャンパーを肩にかけてくれた店員の手を必死で掴んでいた。
もし、店の中じゃなくて、横断歩道の真ん中で。重たい自転車ごと倒れていたら。頭の打ちどころが悪かったら。車が突っ込んで来ていたら。私だけじゃなく……。
あの日スーパーに寄っていなかったら。娘がおもちつきしたい、と言わなかったら。
想像もしたくない。