#17 大部屋に戻る。本手術までの長い三日間。
ものすごく汗をかいた。
朝になっていた。止血していた脚は動かしてOKな位に時間が経った。ICUから大部屋に戻れるようだ。
手際よくストレッチャーに乗せられ何度も廊下の角を曲がる。いつも寝た状態で移動しているので建物の全貌は掴めないままだ。
主治医は「お変わりないですか」と尋ねてくる。
「大丈夫です」と応える。
「でも、かなり痛かったです。脳血管撮影ってやったことありますか?」と聞いてみる。「僕はー、ないんですよ」(だろうね!)と心の中で突っ込む。「ほんっと、痛いですよ!」とちょっと怒りが混じってしまった。
とはいえ、手術する側で経験者の方が少ないのだろう。
翌日には尿道バルーンを抜き、本手術を待つ身となる。眠り過ぎて朦朧とする中、地震が起きた気がした。何事もなかったけれど、こんな状況で大地震が来たらと思うと気が気じゃない。
緊張感が走ったのは突然院内で「コードブルー!コードブルーです!」とアナウンスがかかった時だ。ドラマじゃない、現実なんだよな。
生々しい響きに、ここが大きな病院で様々な手術を控えている人がいることを再認識する。
この三日間は本当に気持ちが沈んでいた。
だって、「頭」を「切る」んだよ?
で、脳の悪い部分を取り除くって。
倒れた時は、なってしまったものは仕方ない。
とってもらうしかないなら、そうするしかない。そう、思ってはいた。
けれど実際近づくと、そりゃ怖いよ。食欲が一気に落ちる。
身体が動かないより、こころが動かない方が嫌だ
「手術が怖い」と思えることは幸せなのだ
ノートに走り書きした字が、薄くて細い。かき消えそう。不安。
看護師が来る度「気分が優れないんです」と伝える。伝えたってどうなるもんでもないのに吐きださずにはいられない。そんな中、とある看護師の言葉に救われた。
「そりゃ、ウキウキはしないですよね。
……考えようによっては早く見つかってラッキーですよ。ここにいてもっと、色々な状態の人を見てきましたから。術後、全力でサポートしますからね!」
泣きそう。
寝る前に主治医が再度来た。
また訴える。落ち着かない、気分が悪い、食欲はない。
「今、本当に不安でしょうけど…全力を尽くしますから」。
頼りなさは正直ある。執刀医はさらに上の立場であろう大先生だ。
それでも、その言葉に少し気持ちは落ち着いた。
眠れない。不安。それが普通。それで良い。
きっと、上手くいく。全力を尽くす。その言葉を信じる。
朝はもうすぐ。