#14 【入院8日目】12/10 脳血管撮影は続く
右足の付け根から、カテーテルを刺すのだと言う。私の場合は以下のパターンにあたる。
(入院した病院ではありません)。
腫瘍に繋がっている血管に詰め物をすることで、腫瘍が今以上に大きくならず、摘出しやすくなる。
しかし、繰り返しになるけれど手術中に何かあるかもしれないよ、と。そこは、覚悟を決めて信じるしかない。
準備が整い脳神経内科の先生が来る。姿は見えない。
「担当の田中です。宜しくお願いします」と名乗り腰のあたりをトントン、と軽く手で触れてきた。ほっとした。緊張が高まっていたことに気がついた。触れるのは、マニュアルで決まっていることなのかもしれないが人の手に触れられると安心するのは本能だと実感した。
腕の点滴からは造影剤が入る。また一時身体が熱くなるような感覚。
右足の付け根に、太い注射のようなものが刺さった。
そこから、細い管のようなものを通していく。少しずつ身体の中を進んでいるようだが、あまりわからない。
…と、急にあご付近に違和感があった。中から突かれている。次は頬、頭、何かが当たっているのが解る。チャリ、チャリ…と音すら聞こえる。思わず
「何か当たってます」と伝えると「そりゃそうです。入れてるんだから。大丈夫」と平静なテンションで返される。ちょっと冷静になった。
「では、撮影します、目を閉じていて下さい。熱く感じたり痛みもありますがそういうものです」と言われる。
撮ります、の声のあとに物凄い光が焚かれたようだ。目を開けていたらつぶれそうだ。残光が瞼の裏に映る、右顎にきしむような痛み、じりじりと顔全体が焼けるようだ。これ、本当に大丈夫なの?思った以上にずっしりとくる。
場所を変えて、また繰り返される。針金が顎を突く。撮ります、ジリジリと焼け付く、痛みと光。
言ってもどうしようもないと思うが「痛いです」と伝える。耐えられるけど、痛いものは痛い。何度繰り返したのか分からなくなってくる。
のどが乾燥してせき込みそうになる。動いたら針金が刺さるんじゃないかと不安になり「咳してもいいですか?」と尋ねる。
たまに喋らないと自分がいるのかいないのか分からなくなりそうだ。
…これは、地獄が呼んでいるのあのシーンじゃん。あと30秒くらい長く撮影していたら、身体ごと消えてしまいそう。
馬鹿馬鹿しいと思うと同時に、こんなことを考えられるほどに慣れてきたのかもしれないと冷静さを取り戻す、急に頭がはたらき始める。
辛い、マジで辛い!
なんで、こんなことをやんなきゃいけないんだ?一体何なの?これよりしんどいことあったか…?走馬灯のように巡る過去の思い出。
あった。これより、辛かったこと。あの時目が覚めた時誰もいなくて、わんわん泣いたことを思い出した。本当に忘れていた、今の今まで。以前思い出したのは、父親が倒れた時だった。意気消沈していた姉に比べて、私は冷静だった。はっきりと母に言った。あの時に比べたら、耐えられる。まただ。あの時の辛さは、これから来る苦しさを耐えるために必要だったことなのかもしれない。
思い出していた。いなくなったあの子のことを。
絶対に「燃え殻」の映画を観たせいだ。昔のことをこんなに鮮明に思い出してしまうなんて。地獄が呼んでいるといい、手術前に見た映画のセレクトが変に効いてる。苦しくて苦しくて絶対に。耐えると誓った。
多分、8割くらいは終わったのだろうと予想して「半分くらいは終わりましたか?」と聞いた。「それくらいは終わりました」と言われ、落胆した。まだ撮影は続く。
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