#10 【入院5日目】12/7 手術の説明、もしも…の話。
7:00時に起きた。
朝食は、大抵食パンが2枚におかずが2品、フルーツ、スープ、牛乳。
「全部食べ終わりましたか?」
看護師がチェックしにくる。大抵、食パン一枚以外は食べ終わりました。となる。毎回思うこと、「量…多くないですか?」「ですよね。」
看護師の担当は日々変わるので、何人かに聞いたけどやはりそうみたいだ。
普段の朝食なんて、バナナ一本、ヨーグルト。パンは無くても良いけれど、娘が8枚切りの半分だけでいい、と言うのでその残りを余らせたくないから食べる。あとはコーヒー。そんな程度だ。
こんな、健康的な朝食をフルでたべられるわけない。動いてもいないんだし。でも、食べるのが今は大事かも、と思いなおし出来るだけ食べてみる。
食べ終わって歯磨きを済ませると、8:30に院内に音楽が流れる。始業の合図か。
しばらくすると先生たちが回診が来る。名前を呼ばれカーテンが開く。
「変わりないですか?」と聞かれてもズラっと並んだ先生たちのなかでアレコレ聞く気にもならない。
この日は特に人数が多かった。
主治医の先生、大先生らしき人、また別の先生っぽい人とその下の人、看護師、学生さん?さらに若そうな人。なんでこんなに?と。
12時頃、検査の説明があります、と予定を聞く。
主治医とは別の先生のようだった。
何か予定があったほうが気がまぎれる。夫も同席してくれるとLINEが来た。
スケッチブックと色鉛筆、ノートを持ってきてくれるようにお願いした。何かを書き、描きたい。
私が入院しているのは、脳神経“外科”だ。
昼に説明があるのは脳神経“内科”、の先生だった。
聞けば、開頭手術の前に「脳血管撮影」を行うのだという。
その結果によっては、「カテーテル手術」をするとのこと。脚の付け根の太い血管から、カテーテルを挿入し脳の血管まで届かせる。開頭手術をする前に、腫瘍の近くにある血管に詰め物をするのだそうだ。
想像もつかない。
開頭手術中に、血管に傷がついた際に大量に出血することもある。そうなると、取り除くべき腫瘍が見えづらくなったり、出血多量で輸血が必用になったしすることもある。
詰め物をすることにより、それを防止する役割があるのだと。
脳血管撮影をしてみた結果によりけり、とは言っていたがこの説明はなんとなくやること前提のように思えた。
「詰め物をすることによって逆に梗塞を起こす可能性も――なくはない。」
「この手術によって、何かが起こることも――なくはない。」
勿体ぶるような間。
起こり得る事を事前に説明しなければいけないことは重々理解できる。
だが「――なくはない」、と最悪のパターンを幾つも色々と言われるとテンションは下がる。
検査に続いて開頭手術前の予備手術をやるんだろうな、と予想した。といっても、何の心構えをすれば良いのか分からないけれど。
脳神経外科チームと脳神経内科チームの、それぞれの先生とその部下。朝の回診の人数が多かった理由が分かった。
説明が終わり大部屋に戻ると昼食が届いていた。ザーサイ以外を完食した。こんな塩分の多そうなものが出てきても良いのかな、とぼんやり思う。
***
夕方、燃え殻の「ボクたちはみんな大人になれなかった」をタブレットで観た。
敬愛している靴屋の店主、信頼している映画ブログ、映画好きなママ友、方々で薦められていて気になっていた一作。
そのママ友にも、入院していることをサラっと伝えた。この際ゆっくりコンテンツ不足を解消しなよー!と色々とおすすめ映画、漫画、ドラマをリストにして送ってくれた。
そんな、普段通りの会話が嬉しかった。
正直、内容自体は湿っぽい自分語りではあるのだけれど。ああ、ラフォーレ、むげん堂、東急ハンズの通り…懐かしい。私は、アキちゃんとローズバッドの隣のセレンディピティをスタートにキャットストリートを抜けてピンクスに寄り、パリススキャンダルを見てラフォーレに抜けていったな、とか。宇宙のホテルではないけれど、あっちの方向に行った取引先の映画好きな人の事を思い出したり、一緒にロックインジャパンに行った人の事を思い出したりしていた。映画自体がどうこうより、自分はあの時ああだった、ということを喚起されてしまう切なさに溢れていた。
***
寝る前に大部屋の共有の洗面台で歯磨きをしていた。
空のベッドに向かって「お変わりないですか」と声をかけている主治医がいる。「先生、私ここです」と口をゆすぎ終えて振り返る。
「ああ、すいません、そっちでしたか」。
やっぱり、なんだか頼りない。改めて見て、年齢も若そう。
「昼間、大先生から説明聞きましたか?で、あれば僕からは特にお話することはないのでもう大丈夫です。」
名札の肩書きがチラっと見えたが、まさか研修医なのかな?と少し不安になった。もちろん、立派な研修医だっているだろうけど。
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夫に家の様子を確認する。
今日は、学校の個人面談だった。
校内の掲示物、絵や俳句等の写真、先生の話をLINEで送ってもらう。ちゃんとやっているみたいで安心した。
しかし、予防接種に個人面談という、普段ないイベントがなぜ今週に集中してしまっているのか。夫が倒れるんじゃないかと心配になる。
毎日面会に来なくても良いと伝えたけれど、来て様子を見られた方が落ち着くのだという。妊娠中もそうだった。妊婦検診に毎回ついてきてくれた。夫はそういう人なのだ。
変わらない優しさがありがたかった。
何も出来ない以上、今は甘えるときなのかもしれない。
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