政治や社会をちょっぴり身近にしたいあなたへ NYNJが送るオススメ入門3冊
進学や就職で生活環境が変わる春は、自分と社会・政治との接点を感じる機会が多い季節かもしれません。
一人暮らしを始めて、水道・電気料金が値上がりするというニュースが気になる。
引っ越し先のゴミ出しルールが地元と違って、分別が細かいことに戸惑う。
初任給をもらって、引かれる所得税の額にびっくりする。
少しでも自分の生活と社会のつながりを感じたところがあるなら、まずは、気軽に始められるところからもう一歩だけ政治や社会を知ってみてほしい。
NO YOUTH NO JAPANから、ちょっぴり政治を身近にしたいというあなたの気持ちを応援するための、政治・社会の入門3冊をご紹介します。
政治が大事は分かるけど、まだ一歩しっくりこないあなたに
なんとなくニュースを追い、政治や社会を知ることが大事と分かってはいるけれど、政策に関する議論や政治家の話はまだイマイチ遠い気がする。そんなあなたにオススメの1冊が、「自分ごとの政治学」です。
「自分ごとの政治学」
著書:中島岳志
出版:NHK出版
発売日:2020年12月25日
書籍の前半では、政治に関する基本的な概念を解説。聞いたことはあるけれど自分で説明するのは難しい、「右派・左派」、「民主主義・立憲民主主義」といった基礎的な言葉の意味を理解することができます。
しかし、この本の醍醐味は、自分と政治とのつながりを発見できる後半部分。基本概念を踏まえた上で、政治を「自分ごと化」するために、自分と政治の「つながり」を日常生活からどのように見つけられるのかを教えてくれます。
「日常を丁寧に生きなければ、本当の政治に出会うことはできないだろうと思うのです。」
著者の中島先生は、国際関係や政局に目を光らせたり、理不尽に対抗することだけが政治に関心をもつことではないと言います。当たり前の日常行為の一つ一つに敏感になるだけで、さまざまな政治問題にたどり着く。昨日食べたおにぎりは、今着ているTシャツは、毎日通学のために乗っているバスは、自分と「食べる」「着る」「移動する」という接点をもつために、どのような道のりをたどってきたのだろう。そこに想いをめぐらせると、政治が一気に自分にとってカジュアルな存在になるとわかります。
NO YOUTH NO JAPAN(以下NYNJ)メンバーである私は、大学で「政治理論」という分野の勉強をしています。政治理論とは、「どのような政治が望ましいの?」「政治によって実現されるべき社会の姿とは?」といった問いに向き合い続ける政治学の一つの分野。壮大なテーマへ向き合い続けるこの学問に、私はどこか人間臭い魅力を感じています。中島先生のこの著書を読み、私が政治学に感じる「人間臭い魅力」は、政治学が追う大きなテーマが、わたしたちの「日常」の延長線上にある問いだからなのだと気づきました。
政治は、難しい専門用語や偉い人たちの思惑で彩られる世界ではない。今自分の隣にあるものを捉え直すだけで、政治を一歩自分ごとにできる。この本はそのことを改めて気づかせてくれました。日々の政治のニュースに疲れてしまった人、前向きに政治学の一歩を踏み出してみたい人に、ぜひ読んでほしいなと思います。(紹介=宮坂奈津)
社会の仕組みって「ムズカシイ…」。ハードルを感じているあなたに
税金、控除、法律、こんな言葉を考えるだけでもちょっとアレルギーが出ちゃう。そんな人の概念を180度変えてしまう1冊が、「桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか」です。
「桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか 日本の昔話で身につく税の基本」
著書:高橋創、井上マサキ
出版:ダイヤモンド社
発売日:2021年1月12日
きびだんごと経費?と、タイトルから少しびっくりするこの本は、誰もが知っている「昔話」の世界をもとに税金について解説。鶴の恩返しのおじいさん、桃太郎、わらしべ長者といった日本の昔話の主人公たちが、現代の税理士事務所に「税金」について相談にやってきます。
高校生や大学生になり、アルバイトを始めると耳にする、「扶養控除」。社会人になり、就職したり、フリーランスになったりすると、直面する「確定申告」や「納税」。この本を読むまでは、自身にも必要な知識だけど、まず用語は聞き慣れないものばかりでめんどくさそう、なんだかよく分からないと、縁遠く感じていました。
でも「鶴の恩返しで、鶴の食費は経費と見なせるのか?」「三年寝太郎や金太郎など、子どもがいる家庭では、所得税が少し安くなるのか?」という疑問から税を考えてみると、なんだか税金が身近で、シンプルな仕組みだと思えるようになりました。
例えば「医療費控除」。漢字ばかりで名前だけで怖気づいてしまいますが「こぶとり爺さんが、こぶを取った鬼にこぶ取りの代金を請求された場合に、その請求額を申告すれば、所得税が安くなるか?」なんて言われると、そうか、自分に例えてみれば、脱毛や整体に行った時に、その代金を医療費控除として申告していいのかどうかの話なのだと、ポイントがすっと自分の中に落ちてきました。
読んでいくうちに、税金はむやみやたらにかかるのではなく、個人の負担が大きすぎないように設計されていることと、なおかつ時代や社会の変化に合わせ、設計しなおされていることが分かっていきます。複雑に感じる制度も、昔話にたとえて本質だけ取り出されてみれば、実はシンプル。本の中でも、始めは怒っていたり、嘆いている昔話の登場人物たちも、高橋税理士の話に妙に納得し、前向きな気持ちで納税をしていきます。
専門用語だけでお金に距離を感じているあなたに、ぜひ手にとってほしい一冊です。何より、昔話の登場人物と税理士の先生がとてもチャーミングで、気軽にサクサク読み進められます。まずはそのやり取りだけでも覗いてみてください。(紹介=鮎沢日菜子)
政治への参加=「選挙」だけ、だと思っているあなたに
政治に関心を持とうとは言われるけれど、結局政治との関わりなんて、選挙だけ。そんな風に感じているあなたには、自分の半径5メートルの疑問を起点に、今よりもう少しだけ政治に関わってみる勇気を与えてくれる1冊をオススメします。
「社会をちょっと変えてみた ふつうの人が政治を動かした七つの物語」
著書:駒崎弘樹、秋山訓子
出版:岩波書店
発売日:2016年3月23日
「世界はフツーに意外に変えられる」
その言葉から始まるこの本には、政治家でも、職業として政治に関わっているわけでもない「ふつうの人」が、社会を変えてしまったエピソードが詰まっています。例えば、待機児童問題に立ち上がった一人のお母さん、クラブの深夜営業を合法的に行うため、風営法改正に挑んだラッパー。身近にある「もっとこうなればいいのに」を自分たちで解決していく、「草の根ロビイング」という方法で社会を動かした7人の物語です。
中でも私が印象に残ったのは、保育園一揆を起こした曽山さんのエピソードです。曽山さんは、自分が住む杉並区に保育園が不足し、沢山のお母さんが「保活」をしなければいけないことを問題に感じ、まずはSNSで保育園に関する情報交換サイトを開始。後にその活動は、区役所前での集会や口調に対する異議申し立てへと発展し、実際に杉並区では、待機児童対策緊急推進プランが策定されることになります。
驚いたのは、活動を始める前の曽山さんの反応や気持ちが、自分に重なったことです。活動を始める前の曽山さんは、区長に対する要望を送らないかと誘われた際、子どもが小さくてそんな余裕がなく、行動が起こす人もいるんだ、すごいと思っていた、といいます。
私もまさに同じでした。私がこの本に出会ったのは、ほんの少し政治に興味を持ち始めた頃。政治参加といえば選挙やデモしか知らないし、政治を変えるために何か行動を起こすなんて、特別に政治に詳しい人がするものだと、思っていました。
社会を変えた人は、特別政治に関心が高かった人ばかりではないのかもしれない。私が感じる、もうちょっと社会がこうなったらいいな、という気持ちは、具体的に政策を変えるために自分自身が政治にちょっと働きかけてみるための行動につなげられるのかもしれない。
政治に関わるということに、大きな主語はいらなくて、自分のモヤモヤ起点で良いこと。そして政治に関わるための方法がとても豊かにあることを、私はこの本から教えてもらいました。
後半では、草の根ロビイングの具体的な技術や方法も紹介されています。読み終わる頃にはきっと、私にも、投票以外にできることがあるかも?という気持ちが少し、芽生えているはずです。(紹介=名倉早都季)
無理なく楽しく政治や社会を知ってみる
政治も、その下で決められるいろいろな法律も、わたしたちの社会を動かしていくための仕組みであり、ツールであり、知らないうちに、わたしたちが関わってしまっているもの。当たり前に身近にあるものです。
でも、仕事に生活に趣味に、わたしたちの毎日は忙しい。なんとなく関心を持ったところから、政治や社会を勉強しよう!と思っても、範囲が広すぎて、漠然としていて、どこから始めたら良いのか分からない。そうこうしているうちに、勉強しようと思ったフレッシュな気持ちも忘れてしまいがちです。
だからこそ今回は、気軽に楽しく読める3冊をご紹介してみました。気忙しない4月を終えたこの長い連休。のんびりと一冊だけでも手にとって、少しでも「政治」について考えてみるきっかけとなれば嬉しいです。