#「わからない」は「投票しない」理由じゃない。 わたしたちが大阪都構想に情熱を傾けたワケ
おせっかいキャンペーンと言われても。
「宮坂さんは、大阪市民じゃないんですよね?」
プロジェクトリーダーを務めた私(宮坂奈津)が、プロジェクトの取材の度に、幾度となく記者さんに聞かれたこの質問。
何を隠そう、私自身は長野県出身の京都市在住大学生。そしてプロジェクトに関わったメンバーにも、大阪出身者はほとんどいない。
「投票権もないのになぜ?」
そこには、大阪市廃止・特別区設置(いわゆる大阪都構想)の可否を問う「住民投票」という政治参加の方法を発信することを通じて、大阪と全国の同世代に届けたい、ひとつの想いがありました。
*大阪市廃止・特別区設置住民投票(大阪都構想)*
政令指定都市である大阪市を廃止して、4つの特別区に再編し、府と市の役割を明確にすることで二重行政を解消しようという構想。2015年に1回目の住民投票が行われたが反対多数で否決された。
2020年11月1日に行われた、2回目の大阪市廃止・特別区設置(大阪都構想)の住民投票。前回の投票では20代の投票率が43%と全世代最低を記録。「未来の大阪を決めることなのに、若者の声が響かないのはもったいない!」そんな問題意識から、9月中旬、「U25の投票率70%」を目指し「CHOICE OF OSAKA」と題したプロジェクトがスタートしました。11月2日の投開票日に向けて約1カ月半、関西に住むNYNJメンバーを中心に活動に取り組みました。
目指したのは、できる限り中立なコンテンツ
まず取り掛かったのは、「住民投票の教科書」づくり。投票権はあるけど、問われているのは複雑でわかりにくい行政の制度設計の話。調べようにも「賛成派」「反対派」それぞれの主張が飛び交うネットの世界では情報が収集しずらい…。
そんなU25世代に、自分のスタンスを考える客観的な判断軸にしてほしいと願い、Instagramのストーリーを使った「教科書」づくりをはじめました。
U25世代はどんな情報を必要としているのか、都構想の何が知りたいか。とことん突き詰めて考え、伝わる表現を工夫して考えながらひとつひとつ形にしていきました。
普通の選挙とは異なり、ひとつの政策に対して「賛成」「反対」と意見が2つに分かれる上に、お互いがお互いの主張を「デマだ」「フェイクだ」と言い合って、何が正しい情報か掴みきれない。そんな状況の中、中立性を保って発信することは至難のわざでした。
出来上がったストーリーは投開票日の2週間前からInstagramのアカウントで2回に渡って発信し、大学内で配るパンフレットや、ウェブ上の公式ホームページにも掲載することができました。「とてもわかりやすい」「めずらしく中立なサイトだ」との声をいただき、大切にしていた「一方の主張に偏らない」という情報発信が届いていることを実感しました。
街頭演説を聞きに行って感じたこと。そして生まれたハッシュタグ。
わたしたちは10月18日の日曜日、大阪の中心地に足を運びました。実際に賛成、反対両派がどのような論戦を繰り広げているのかを見て聞いて体感するためです。
そこでわたしたちが見たのは、共に大阪市を良くしたいという想いは共通しているにも関わらず、双方が相手の主張を否定したり、市民に説明を尽くそうとしていないように感じる姿でした。
「わからないなら反対に!」「賛成に投票を!」
もちろんそれぞれのメリット、デメリットを述べた上でのメッセージでした。しかし、難しいことを理解してもらう必要はないと判断した、一種の開き直りのようにも聞こえてしまったのです。
分かりにくい政策について、市民が分かるまで教えてくれるのが政治家の仕事ではないのでしょうか。
「そもそも街頭演説ってそういうものだ。」そんな指摘もあるかもしれません。でも、複雑な部分を排除した単純なメッセージだけで、実感を持って未来の大阪にワクワクできる若者はどれくらいいるのだろう。そんな疑問が湧き上がりました。
「これでは若い人は投票に行かない」そんな危機感が募ったとき、今回のプロジェクトで最も伝えたいメッセージが浮かび上がってきたのです。
#「わからない」は「投票しない」理由じゃない
全てを理解する必要はない。でも、自分なりに情報を集め、考え抜いた末に投じた一票には、未来を決める大きな力がある。みんなが納得する正解を、時間をかけてつくっていくために、わたしたちのそんな一票が必要だと思いました。
結果は再び否決に。大阪のU30が目の前の一票と必死に向き合えたことを願いたい。
投票率は62%、結果は反対多数で大阪都構想は再び否決されました。目標としていたU25世代の投票率70%には及ばず。そして62%とは言え、今回も3人に1人は投票をしなかったことになります。
「これからの大阪を決めることなのに、若者の声が響かないのはもったいない!」そんな純粋な想いから始まったこのプロジェクト。でも、わたしたちが思っている以上に、自分の身近な政治や社会に関心のない若者はまだまだ多いのかもしれません。「投票」という行為が政治や社会に踏み出すきっかけになるように、ここ関西からも共感の輪を広げていく歩みを、これからも進めていきたいと思います。
(文=宮坂奈津)