イロモネアの審査員
昔のテレビ(ここで言っているのは十年前くらいのテレビ)は面白かった。
今の大学生がよく言うセリフだ。
「僕はそうは思わない。」などと書いて、他の人とは違うアピールをして、マウントを取りたいわけではない。
何たって、僕も昔のテレビの方が面白かったと言い張る集団の一部である。
数多くあった面白いテレビ番組の中で、ほとんど毎回見ていたテレビ番組の一つに「ザ・イロモネア」がある。
これは、観客席からランダムに選ばれた五人をあたえられたジャンルに従って芸人が笑わせ、全てのチャレンジに成功すれば百万円を獲得できるという番組である。
しかし、この番組を見るたびに、「おい、審査員、仕込みだろ!」と思っていた。五人の審査員はランダムに選ばれている、と説明されていたが、毎回必ず一人か二人どれだけ芸人が面白いネタを披露してもクスリともしない審査員がいた。
まちがいなくテレビ局が仕込んだエキストラにちがいないと子供ながらに考えていたが、最近あることがきっかけで、もしかするとそうではないのかもしれないと思いはじめた。
それが、地元で開催された芸人ライブに人生で初めて行ったときである。
僕は子供の頃からお笑いが大好きである。それがどれくらいかというと、中学生の時には文化祭で全校生徒の前で漫才を披露するくらいだ。
そんな僕が生まれて初めてお笑いライブに行った。賞レースで優勝したことのあるYさんやM−1グランプリの決勝に出たこともあるNさんらが出ていた。
このライブを観終わった後、
「芸人って、すげえ」
と、純粋に思った。
ライブ後Nさんの漫才をYouTubeでいくつもみた。
また、ライブに行きたいと思った。
一緒に行っていた友人も隣に座っていたおばさんもライブ中声を出して笑っていた。
しかし、僕はライブ中声を出して笑うことができなかった。
とても面白かったのに・・・。
僕は昔から人の前で大笑いすることができない。一人の空間では周りを気にすることなく大笑いすることができるのに。
ゆえに、ライブでも周りを気にして大笑いすることができなかった。
さては、イロモネアの審査員も僕と同じにちがいない。子供の頃からお笑いが大好きで、学校から帰ったらすぐにバラエティ番組を見ていたのであろう。
そして、満を持してイロモネアの収録に臨んだ。
収録中も憧れのお笑い芸人を目の前で観ることができて、内心ワクワクしていた。
ネタを観ながら、やっぱり芸人ってすごいと考えていた。
家に帰った後、収録の余韻に浸っていた。
ただ、他の普通の審査員と違ったのは、声を出して笑うことができないということだけだ。
僕があと十年早く産まれていたら、今ごろYouTubeのコメント欄で「なぜ、左から二番目の男は笑わないんだ」と袋叩きされていたのかもしれない。
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