
腰の骨がなかった話
『心を無くした男』狂介、仕事中に「腰がイタイ腰がイタイ」と騒ぐので、『やかましいからお医者に診てもらいなさい』と医者に行かせた所、にわかには信じがたいこったが、腰の辺りの骨が無くなっている事が判明した。
ビックリだ。
「何が無いって?」
「ホネですよ骨」
狂介は『わさび海苔太郎』をモチャモチャ喰いながら、話しが能く理解出来ない俺に報告する。
「・・・骨?」
「正確には骨盤です。」
「・・・骨盤」
イザナギ、イザナミの最初の子であるヒルコは、全身の骨がなかった為に捨てられたわけだが、人は支えになる骨が無くとも動けるものなんだろうか?
「腰椎の基礎・・・なのかな?仙骨の1部とその下が無いらしいです」
狂介は、京人形みたいな顔に薄ら笑いを浮かべ、人ごとのように語る。
「レントゲンに何も写らないって言ってました」
人は、そんな財布みたいに、自分の骨を何処かに落としてくるものなんだろうか?ふだんから常々、人として何かが欠けてる奴だと思ってはいたが、まさか骨盤が欠けてるとは思わなかった。こんな常識の欠けた話もあるんだな。
「でもオマエ、そんなもんどこで失くして来るんだよ。ルパン三世にでも盗まれたか?いくらオマエが器用でも尻の骨が着脱自在なんて、そんな馬鹿な話しは無ぇだろが。生まれつき無かったとか?」
骨なんてもんは、間違っても気軽に道端へ落とすものじゃないだろう。それに狂介のパーソナリティは悪魔に近い。尻尾があっても驚かないが、無いなんてビックリだ。
「以前、バイクでコケてケツ打って、立てないほど痛かった事があるんですよ。その時に骨が砕けていて、後に身体に吸収されたんじゃないか?って言ってました」
コイツは京人形みたいなツラをしてるがやたらに気が強く、好きなオートバイは某地方レースのチャンピオンだ。始終、ケガばかりしていた。その一環での出来事だったらしい。
「医者に行かなかったのか?」
「行きましたよ。歩けなかったんで親に連れてってもらって。レントゲンも撮って、でも、なんとも無いって・・・」
バイクでコケて、痛くて歩けない患者に『なんとも無い』たぁ、これだから山梨の医者は・・・。
俺もツラを自動車事故で吹っ飛ばしたことがあるんだが、山梨の整形外科で撮影したレントゲン写真を立川の形成外科に持っていったら『こんな写真じゃ何もわからないよ!』と言われ、1から撮り直した経験がある。ちなみに上の笑顔の写真はその時記念の一枚。
まあ、ともかく、そんなわけで、地元民は皆、『死にたくないなら東京の医者に行け』と口を揃えて言うんだが、重症の怪我とか、長距離移動のきかない患者によっては、この手の被害をよく耳にする。
ライバルの少ない田舎の医者は腕も良くないんだな。
東京の医者にかかろう!と、強く思った俺だった。
クワバラクワバラ。