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野やぎ。
わたしは野生に出会ったことがない。
だからなのかもしれない。
野生には、なぜか心が惹かれる。
生まれ育った八丈島には、十数年前には野生のやぎがいたそうだ。
野やぎ。
野やぎのことを知ってから、頭の片隅にいつも野やぎがいる。
いつもの通学路。
遠足で登った登山道。
海沿いの消波ブロックが見える国道。
記憶のなかの道をわたしが歩いていると、ふいにそれは現れる。
野やぎ。
一頭のやぎが真っ直ぐこちらを見ている。
道の真ん中で。
あるいは曲がり角を曲がった先に。
数メートル先からじっとこちらを見ている、野やぎ。
世界を自然と人工の二つに分けたら、わたしは人工の世界の中で生きていたわけだけど、野やぎからはどう見えているのだろう。
野やぎは野生の動物だけど、
世界の境目はどこにあるのだろう。
野良猫や野良犬は、こちら側の生き物な気がする。
野やぎは、あちらに住んでいる気がする。
もし生息していたら、熊や鹿はあちらの世界に生きていると思う。
公園はこちら側で、整備された登山道もこっちだけど、山はあっちの世界。
海は、どこまでがわたしの世界なんだろう。
岸から何メートルまで、想像できるんだろう。
野やぎはあいまいな境目を少しずつ見定めるためにいるのかもしれない。
その目線がどちらを向いているかで、わたしが世界をどっちに見ているかがわかる。
わたしは野生に惹かれる。
それは、自分の領分というか守備範囲への興味なのかもしれない。
野やぎ。
今日も野やぎは、私たちの世界を見ている。
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![野やぎ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/77291865/profile_d25a6278e4e9ef7961e22676f5cace01.png?width=600&crop=1:1,smart)