神戸からのデジタルヘルスレポート#137(メンタルヘルス)
『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。
今回は全15回で昨年2023年(一部2024年含む)に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。
今回は14回目です。「メンタルヘルス」をテーマに取り上げていきます。
1. Author Health:介護者、介護支払者向け
Author Healthは、重篤な精神疾患(SMI)と薬物使用障害(SUD)を抱えるメディケア・アドバンテージの受給者に対し、包括的なケアと治療を提供する初のプラットフォームを開発・提供している企業です。 専門の医師、看護師、セラピスト、地域保健ワーカーを集め、バーチャルケアと対面ケアを組み合わせたチームベースのケアを提供します。
米国では、メディケア受給者の約4人に1人が精神疾患を患っており、50歳以上の重度の精神疾患を持つ人の40%が医療へのアクセスが不足していると報告されているそうです。しかし、それに十分に対応できるようなサービス体制およびケア体制が不十分であり、取りこぼしが発生しています。この2つの課題を解決すべく大手健康・ウェルネス企業であるHumana Inc.(NYSE:HUM)が米国南東部のCenterWell Senior Primary Careと連携して設立・スタートしたのがAuthor Healthです。 同社は、専門の医師、看護師、セラピスト、地域の医療従事者を集めて、従来の医療システムから切り離されがちな個人に、仮想と対面のケアを組み合わせたケアを提供します。このモデルを通じて、患者とその介護者は、医療提供者と再びつながり、地域社会内、および病院や施設の外で、個別化された包括的な治療を受ける手段が与えられるようになるそうです。
当該企業は2023年6月に1億1500万ドルを調達しています。この資金を用いて保険会社やヘルスケア企業と提携関係を築くのにあてていくそうです。
以下の記事では、当該企業の資金調達に加え、高齢者へのメンタルヘルス支援に注力しているもう1つの企業Ripplや、保険会社と提携して高齢者向けの行動健康サービスを提供しているバーチャルリアリティデジタルセラピー会社MyndVRについても紹介しています。
米国での高齢者に対するメンタルヘルスケアのニーズが高まっていることがわかりますね。
2. Andreia:ユーザーライフログによるメンタルヘルスケア
Andreiaは精神疾患を予防、診断、治療するための人工知能サービスを開発するメンタルヘルスケア企業です。
「誰でもデジタルで精神健康を管理できる世界」と掲げており、国民4人のうち1人が経験する精神健康問題に対処していこうとするのが同社の目指すところです。韓国はOECD加盟国の中で精神科専門医が不足しているため、スマートフォンを通じて誰でも簡単にアクセスし、治療を受けることができるメンタルヘルスケア環境をつくることで解決したいと考えています。
<サービス内容>
心の健康日記 感じた感情を音声メモ、絵文字など簡単な方法で記録し、心の安定と感情の整理に役立てる
カスタムカスタムAI分析レポート ユーザーが提供した健康記録に基づいてメンタルヘルスケアレポートを定期的に生成
デジタルメンタルケア 不安や不眠などの精神的な問題に起因するさまざまな症状の解決策を提示
同社は、韓林大技術持株投資に続きソウル大技術持株投資に続き調達に成功しており、計4億ウォンの資金調達を行っています。今回の資金提供に対し、投資家は「OECD国家に比べて不足している国内精神健康インフラをデジタルで解決できる優秀な技術力とアンドレア・キム・ソンフン代表のサービスに対する真心と推進力を高く評価」としており、韓国国内でのニーズおよび期待の高さがうかがえます。
同社が最初に焦点を合わせたのは、「産後うつ病」だそうです。代表のキム・ソンフン氏の近い知人が産後うつ病を発症し、本人だけでなくその家族にも大きな苦痛を与えることを目の当たりにしたのが、起業のきっかけだそうです。これを機にメンタルヘルスのインフラを調査しはじめ、産後うつのように子育てで生活パターンが不安定で適切な病院を見つけるのが難しい状態に対し、ほんとんどのメンタルヘルスサービスが医師と患者をつなぐものに留まっている(=産後うつ病に適合するサービスがほとんどない)状況であると気付きました。
医師不足の現状にも直面し、医師とつなぐサービスではなく、テクノロジーからのアプローチを模索、今のユーザーライフログデータを基に心の健康を守るための予防や診断、管理、ケア、コミュニティ機能を搭載し、より簡単で変化をキャッチしやすいヘルスケアソリューションの形に至ったそうです。韓国の大学病院の精神健康医学科とのコラボレーションを進めることはもちろん、有数の企業と生体データログを確保して分析する共同R&Dを活発に広げてサービスを高度化していっているそうで、よりテクノロジーで専門医の不足を補いつつ患者に適したケアを提供できるラインナップが充実していきそうです。
3. MuziekMantra:音楽セラピー
MuziekMantra は、メンタルヘルスの領域において独自の音楽療法技術を使用した新たなアプローチを試みている企業です。同社のサービスは、不安、うつ病、PTSD、自閉症スペクトラム障害など、さまざまな精神的健康状態に及びます。セラピーセッションは没入型で、リズム、メロディー、歌詞、楽器などのさまざまな音楽要素を利用して、感情表現、リラクゼーション、認知の再構築を促進します。
サービスは個人向け・法人向け・学生向け(大学生向け)があり、高度な訓練を受けた音楽療法士、心理学者、医療専門家のチームを通じて、個々に適切とされる音楽療法を提供する、といった格好となっています。
また、同社のブログでは、統合失調症や不安、POCD等の疾患に音楽療法が与える影響について個々のトピックスで紹介しています。以下のように、喘息についても触れており、音楽療法で根治はできないものの、「歌う」ことで喘息の症状と肺機能が改善され、喘息の症状がコントロールしやすくなる可能性があると述べています。
以下は当該企業がYoutubeで公表している音楽セラピーのひとつです。5分以内のものなので、周りの音をいったん遮断して、没入してみるのはいかがでしょう?
4. Ceresant Solutions:メンタルヘルススクリーニング
Ceresant Solutions (旧 Seismic Wellness Labs) は、精神疾患の早期警告システム・スクリーニングツールを開発している企業です。従来の主観的なアンケートやクイズ形式のものではなく、生物学に基づくスクリーニングツールが必要であると考え、その開発に取り組んでいます。
また、5,800万人のアメリカ人が精神疾患に苦しんでおり、未治療の精神疾患は年間3,000億ドル以上の経済的影響を及ぼしているそうです。この重要な問題に対し、転機を改善するためには「早期介入」が重要である、と同社は考えています。そして、その「早期介入」を実現するためには、がん検診や血圧測定と同じくらい、メンタルヘルス検査が日常のものとなる必要があると述べており、プライマリ・ケアやオフィス内で毎年行われる健康診断のメンタルヘルス・スクリーニングを改善することに着目しています。
以下の記事では、同社の発足が、創設者兼CEOのTodd Feldman氏自身のうつ病や不安障害と闘った経験からうまれていることが述べられています。
記事内では、2017年に発表されたハーバード大学医学部のヴィクラム・パテル氏の啓発的な論文を取り上げており、うつ病には4つの段階(①健康、②苦痛、③抑うつ性障害、④再発性または難治性うつ病)があり、その内、主に焦点を合わせるのは、最初の2つの段階、つまり「健康」と「苦痛」である、としています。「健康」とは、心配する必要がない幸福な状態を意味し、一方、「苦痛」とは、比較的短期間の軽度から中程度の感情的困難を伴うもの。この段階で、早期介入が最も重要になり、この段階で介入することがメンタルヘルス改善に大きく影響があると同氏は考えているそうです。 この経緯から、早期にうつ病の前兆等をキャッチする早期警告システムの構築、医師や介護者が客観的なデータに基づいて意思決定できるような生物学に基づくスクリーニングツールを目指しています。また、早期介入のためには定期的に検査をすることの重要性を述べており、年1回の健康診断で行える仕組みとすることも目指しているそうです。
同社のLikeInの投稿を参照すると、現在の精神疾患の領域において、臨床検査は存在しないそうです。同社が開発に成功すると「初」となるのですね。期待が高まります。
5. Recovery Metrics:精神臨床医サポート
Recovery Metricsは、メンタルヘルス領域における診療管理ソフトウェアや医療記録ソフトウェアと統合し、患者データを自動的に収集、照合、視覚化(リアルタイム)するSaaSソリューションを開発・提供しています。同社は「私たちのツールは、医師にとっての聴診器と同じように、精神科医にとっての聴診器であると考えてください」と述べており、メンタルヘルスの問題や治療への反応を測定・監視するために必要なツールを診療従事者に提供することで、メンタルヘルスの状態にあるすべての人に最適な治療結果を提供できるような世界を目指しています。
同社のサービスを紹介している動画があります。よろしければご覧ください。「私たちを『メンタルヘルスケアのGoogleアナリティクス』と考えてください」とは面白い表現ですね。
自動化されたリスクと進捗のフラグ
最新の研究と機械学習モデルを組み合わせ、対応の進捗具合(遅れ、進んでいない等)やリスクの高い対応を自動的にフラグ付け
施術者が積極的に介入して、治療の早期中断やクライアントの状態悪化や再発を防ぐ
AIと臨床専門知識を組み合わせて回復プロセスを強化
既存のデータセットから情報を取得してパターンを特定し、将来の結果と傾向を予測る
どの患者がどの治療タイプに最も適しているか、どの患者が治療を中止するリスクがあるか、どの患者はより高度なケアを必要とする可能性が高いかをより適切に判断できる
また、Recovery Metricsは、12週間のUQ Ventures iLabアクセラレーター プログラムに参加しています。そのUQ Ventures iLab 2024 Pitch NightでPeople's Choice賞を受賞しているそうです。メンタルヘルスにデータでの客観性を加えられる取り組みが期待されている証ともみられますね。今後が楽しみです。
以下は受賞したピッチイベントのプレゼン動画です。よろしければどうぞ!