神戸からのデジタルヘルスレポート #123(リハビリ・医学学習支援)
『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。
今年は年末まで全20回で、昨年2022年に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。毎週木曜日朝配信予定です!
今回は全20回のうち20回目、最終回です!テーマは「リハビリ・医学学習支援」を取り上げていきます。
1. PeerCapsule:医師同士をつなぐプラットフォーム
PeerCapsuleは、医師と医師を繋ぎ、臨床上の疑問点の解消や学びあい、共同研究などの研究協力を促進するプラットフォームを構築し提供しています。
<サービス内容>
独立し開業している医師や、臨床現場にはいない医学研究職の医師など、異なる環境下での医師同士の接点はそう多くはありません。(学会程度だそうです)業務内容上、HIPAA*の懸念もあるため、TwitterやLinkedInで気軽に情報交換しあうことも厳しい状況です。PeerCapsuleは、上記を解消するため、専門家同士でのみコミュニケーションをとることが出来る環境を構築しています。
Health Insurance Portability and Accountability Act(HIPAA)* 医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律
PeerCapsuleに登録し、その会員がプラットフォームに参加すると。医師関連の協会がメンバーが会費やイベントに関する情報を受け取るための中心ハブとして PeerCapsule上で機能するそうです。また、メンバーが全国の専門家と協力してより良いコラボレーションや研究を行うための安全な方法として使用できるように、様々な仕掛けが設定されているそうです。
以下の記事では、上記内容の詳細と、AWSのアクセラレーターから同社が資金調達したことを取り上げています。よろしければ、ご覧ください。
なお、上記のAWSは、黒人創業者向けに設けられたアクセラレータプログラムだそうです。他に24社(全25社)が選ばれています。
2. MeDecibel:医学文献プラットフォーム
MeDecibelは、医療従事者が忙しい合間にも臨床に役立つ文献にアクセスできるよう、様々なツールを備え、提供しています。例えば、文献スクリーニングツールやテキストベースの医学文献に目を通すことが出来ない医療従事者向けに、音声ツール(文献を音声で聞けるツール)も提供しています。
<サービス内容>
医療従事者は、変化のスピードが速い今日の中でも、自身の分野の最新の研究と、それに基づくベストな意思決定を常に保つ必要があります、一方、日常の臨床業務 についても多忙で一定の質の提供が求められており、双方を両立させることの困難さに直面している状況です。 MeDecibelがサポートしているのは、上記の内の前者、医療従事者の知識アップデートのサポートです。 サブスクリプション型のモデルとなっており、医療従事者は、MeDecibel (MD) を用いることで、以下のサービスを受けることができます。
Audium:メディカルトップトレンドのジャーナル記事の音声メディア(音声資料)の提供
Feedium:AIによる臨床意思決定および文献推奨システム
Connectium:一流の医学研究者や医療専門家とのつながりを促進する仮想ラボプラットフォーム(共同研究の創出等)
ETA Showcase Spring 2023のショーケースでは、「スタートアップ向けのサイエンスフェア」と称して、様々なスタートアップ企業がコホートとして参加していたようですが、同社もこのプログラムに選出されていたそうです。よろしければ、以下記事もどうぞ。
3. Orthexo.de:AI搭載外骨格
Orthexo.deは、AI搭載の外骨格テクノロジー機器のガイドソリューションを提供している企業です。外骨格は、人間が着用できる外部骨格または鎧の一種で、人の筋骨格能力を強化し、個人の課題を克服することを目的とした高度な技術です。これを装着することで、運動障害のある方の日常生活の動きのサポートや重いものを持ち上げる時のサポートが可能となります。
しかし、世界中に150以上の外骨格サプライヤーがいるものの、リハビリや在宅ケアではなく、診断や適応によって福祉用具を分類するガイドブックがないために、利用したいと考えている潜在ユーザーは、購入時に網羅的に比較することが出来ない状態です。Orthexo.deは、これを解決するため、外骨格サプライヤーとユーザーのためのメタ検索エンジンとして、患者、製造業者、医療提供者を結びつける事業を展開しています。
装着した場合の動画が以下にございます。よろしければ、どうぞ。
<サービス内容>
外骨格とは何?どんな種類があるのか?適応条件は?等の基本的な情報について、同社のサイトにまとめられています。よろしければ、以下どうぞ。(いくつか動画もあるので、イメージしやすいかと思います。)
上述のようなAI搭載の外骨格テクノロジー機器は、様々な場面での用途がございます。これらの用途に応じて、同社はマッチング(結びつき)を行います。メーカーが不明で、Webサイトに具体的な情報がなくとも、用途やニーズ分析に基づいて、無料のアドバイスを受けたり、比較見積を行うことができるようになっています。
産業用外骨格
インダストリー 4.0の概念にも関連付けられているそうです。製造現場において、自動化の限界からヒトの身体で行っているようなもの(肉体労働に該当する動き)に対し、この外骨格を装着することで、従業員の身体的ストレスを軽減することができます。肉体労働者の5人に3人が腰の問題、背中の痛みや、首や膝の痛みを発症しているそうです。これによって、負傷した労働者が休んでしまうリスクや治療にかけるコストが発生してしまいます。外骨格を身に着けることで、肉体労働者の肉体的負担を減らし、けがの防止および上記マイナスコストの削減に繋げることができます。
医療用外骨格
医療や介護のリハビリテーションの現場で外骨格は活用できます。神経疾患や運動障害を抱える患者が、外骨格を使用することで、自宅環境で他の人の補助なしにご自身で動くことが出来るようになります。また、リハビリテーションにおける回復速度にも革命を起こしており、例えば、2人の理学療法士や脳卒中患者に対して1日がかりで数百のステップトレーニングを完了できる場合に対し、外骨格では、理学療法士1人だけで数千人もの患者にリハビリテーションを提供する効果を発揮するそうです。
スキー用外骨格
スキーヤーのための外骨格が、ウィンタースポーツにおける革命として注目され始めているそうです。そもそもの怪我のリスクが高いこのスポーツにおいて、外骨格を装着することで安定性とバランスを改善させることが出来、疲労感の軽減と怪我のリスクを最小限にとどめることが出来るようになります。スキーインストラクターにとっても、外骨格を用いることで効果的なトレーニングの提供と怪我の防止に役立つそうです。
軍用/救急用外骨格
兵士のパフォーマンスを向上させ、疲労を大幅に軽減できるため、軍隊で長い間研究されてきたそうです。しかし、軍事用だけでなく、警察、消防士、税関、空軍でも戦闘機に重い弾薬を積む際などに使用されています。外骨格を装着すると、装着しない場合に比べて、1日に1/5多くの距離を移動でき、同じ荷物を2時間長く持ち上げ続けることができるようになるそうです。
保険弁護士のサポート
外骨格を利用したい、と考えたのに保険申請が通らなかった、といった場合のサポートです。あらゆる法的手段を使って申請をとおす、という内容ではなく、申請のケースを個別に調査し、保険会社の間違った決定の可能性がある場合は最善の方法で寄り添い、申請者が正しい内容の承認を受け取ることができるようにサポートします。申し立ての50 %以上が却下されてきたケースに対し、20%は即座に承認されるので、適した内容で経験のある専門家での申請サポートが効果があることを示しています。追加の法的救済を申し立てる必要がある場合もありますが、申請者がより適した内容で給付を受けることができるようにサポートしていく内容です。
単にAI統制の筋骨格機器を開発するのではなく、すでに存在しているメーカー・サプライヤーと利用したいと考える潜在ユーザーらを繋げることで、お互いwin-winの状態を創出する、といったビジネスモデルですね。今後、外骨格が活用できるシーンがより一層拡がっていきそうです。
4. Docsteth:医師同士のつながりネットワーク
Docstethは、医師個々のプロフィールを作成・登録することで、医師同士のつながりネットワークを構築することができる、オープンソースプラットフォームを開発・提供している企業です。Docstethを用いることで、オンラインイベントや求人、トレンドのイベント、ウェビナーの視聴等が可能となります。また、医学エビデンスのレビュー、医薬品情報、線量計算ツール、生物医学的評価ツール等、インプットの機会をサポートいただけます。
<サービス内容>
前述のように、Docstethを利用することで医師同士のコミュニケーションや医療情報・文献や最新データへのアクセス、ウェビナー受講などの様々なインプット機械を得ることができます。また、E-Practiceという機能では、エビデンスに基づいた実践・臨床ルーツを利用できるようになっています。無料で利用できる上、医師のプライバシー保護も保証されています。
以下、約1分ほどの動画で本サービスについて紹介しています。よろしければ、ご覧ください。
創業者兼CEOであるアキル・コリ博士は、Docstethを用いることで医療従事者同士のつながりと共同作業の促進ができると述べています。また、教育面でもたらす影響、変革は大きいとも述べています。
なぜ、創業者兼CEOであるアキル・コリ博士がDocstethを開発するに至ったのか、その背景にインドの医療現状があります。一見するとインドでは医師数もWHO基準値近く、待ち時間も長くはなく、医療コストも抑えられているように見られるそうです。しかし、1人の医師が患者を診療する時間は短く抑えられており、多忙な中で医師が常に最新の医療知識を得て最善の選択肢を提供できているかどうかは疑問が残る状態だそうです。これに危機感を抱き、解消のためには医師側へのサポートが必要と発足したのがこのサービスだそうです。
5. AuraSense:リモートタッチテクノロジー
AuraSenseは、多発性硬化症や糖尿病性神経障害、脳性麻痺等で指先・手先がうまく動かせない人のために、触覚を活用したWeb3デジタルメタバースの技術=リモートタッチでサポートするサービスを開発・提供している企業です。
<サービス内容>
米国の救急外来受診者の約20%が手に関連した怪我だそうです。しかし、その後のリハビリ経過等において理学療法士や作業療法士とのデータ連携、観察は十分とはいえず、課題がある状態だそうです。そこで、空中ハプティクス (海軍技術の応用)、拡張現実、エッジコンピューティングを用いて、遠隔の仮想環境で手の状態をリアルタイム評価でき、医師にそのデータを確実に連携することで、より適した治療選択肢を得られるよう本製品を開発するに至りました。創業チームメンバーのひとりが多発性硬化症であることも、本製品の技術に反映されているそうです。
例えば、デジタル触覚パッドでは、装着し手を動かすことで、機会学習を通じて患者の医療記録と医師のメモにアクセスし、X線と同等の評価を作成することができるそうです。 医師は遠隔地から患者を診察し、ARを使用してサーモグラフィー画像に仮想的にアクセスし、患者の四肢の内部を観察し、血流、モダリティ、およびより良い結果をもたらす痛みの箇所を観察して、治療の意思決定を下すことができます。
以下は、AuraSenseのHapticsHealth製品ラインのひとつ。神経筋障害を持つ人たちに装着することで、遠隔医療を通じて対面での神経学検査と同等の体験を可能にする、遠隔患者モニタリングシステムです。
同社は、クラウドファンディングで本製品開発費用の調達も行っています。手の疾患や障害を抱えた人たち向けの仮想クリニックも構築しています。