神戸からのデジタルヘルスレポート#130(シニアケア)
『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。
今回は全15回で昨年2023年(一部2024年含む)に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。
今回は7回目です。「シニアケア」をテーマに取り上げていきます。
1. AgeWiser.ai:転倒防止・シニアケアAIアプリ
AIをベースにした高齢者向けのアプリを開発・提供している企業です。AIシニアケア、特に転倒防止をうたっており、毎日の推奨事項で健康を維持できるような「ガイド付きエクササイズ」「バイタルチェック」「認知評価」「脳ゲーム」「服薬管理」ができるようになっているそうです。
高齢者に多い「転倒」は膝や股関節の骨折等にもつながり、以降の日常動作にも大きな影響を与える課題のひとつとなっているので、これを予防できるのはインパクトが大きそうです。
当該サービス・製品について紹介している動画がございます。よろしければどうぞ!(3分以内のシンプルな動画です)
公式Youtubeチャンネルでは、上記の他、製品説明の動画が複数収録されています。よろしければご覧ください。※TikiTok用のショート動画もございます。
「転倒防止」のためのレクチャーとして、以下のような動画もございます。もっとアクティブなトレーニング等が紹介されているかと思ったのですが、日常動作である「立ち上がり」のポイント等を紹介しています。基本的な日常動作にフォーカスしているので、チャレンジしてみるハードルも低そう。
創業者兼CEOであるSwathi Balantrapu氏は、10年以上および2,000人以上の患者(主に高齢者)を診てきた経験持つ在宅医療理学療法士だそうです。 高齢者医療における自身の原体験から、キャリアを通じて繰り返し遭遇した診断のひとつである「転倒」の課題に取り組むため、このようなサービス開発に至ったのですね。「在宅医療臨床実践優秀賞」と呼ばれる賞の受賞者として紹介されていました。よろしければご覧ください。
2. SeniorThrive:高齢者住宅評価
SeniorThriveは、安全な老後のための家にするためにどのような設計・構造が良いのかを評価しアドバイスしてくれるアプリを開発し、提供しています。
高齢者が自宅で快適に過ごすにあたって、自宅を過ごしやすい環境に設定することは不可欠です。ですが、住宅を評価したり、改造する等については専門家へのアクセスや手配、コストも時間も要する…といった負担と手間が多いものでした。このサービスは、アプリを通して老後に過ごす自宅として快適かどうかの評価やアドバイスを手軽に受けることができるようになっているそうです。
1つ前にご紹介したAgeWiser.aiでも高齢者の転倒リスクに着目していましたが、同社でもそのリスクを「住宅」という面から対策できないか、と着目しています。以下の動画では、高齢者の転倒リスクを減らすためのヒントとして、住宅面からのアプローチを紹介しています。
同社のブログでは、高齢者に最適な住宅を手に入れるためのステップについても紹介しています。従来の住宅評価を依頼するよりも手軽で手頃な価格で受けられるそうです。老後のことを考える際に、多額の投資を求められるわけなく情報が得られるのはありがたいですね。
3. LifeWatch:高齢患者モニタリング
Life Watchは、24時間365日の遠隔患者モニタリングデバイスおよびAIアルゴリズムによるリアルタイムのデータ解釈とレポートを提供できるプラットフォームを開発・提供している企業です。プロアクティブでパーソナライズされたケアを提供し、医療・介護業界に革命を起こす、と掲げているそうです。
モニタリングのデバイスですが、手のひらに収まるくらいのもので、貼り付けることのできる手軽なもの。↓の写真をみていただけると分かるかと思いますが、かなりコンパクトです。時計やリングのように装着するというより、貼り付ける、という感じですね。
LikeInの投稿の中の動画となりますが、簡単な紹介動画がございます。よろしければどうぞ。
このデバイス機器およびモニタリングは高齢者に最適で、心拍数、呼吸機能などを追跡し、すべてコインサイズの形で提供されるとのこと 加えて、このデバイスは着用可能で使用中に充電できるという利便性を備えているそうです。便利ですね。また、セキュリティ面にも力を入れているようで、継続的で信頼性の高い健康監視を保証すると述べています。
モニタリングデータは、PCやスマホからも確認できる仕様だそうです。
モニタリングできる内容としては、睡眠サイクルや水分補給状態、転落事故等、様々な観点でのモニタリング要素が網羅されているようです。従来のモニタリングデータよりも様々な角度からリスク評価ができそうですね。 また、再入院率が30%現象したり、投薬の最適にかかる時間の76%の削減、外来診療の19%の削減や死亡率が3~4倍低下した、等の臨床結果状での改善を示しているそうです。
4. Oma Care:介護家族への報酬
Oma Careが提供しているのは、両親などの介護が必要な方に対し、お世話をした上で報酬を得ましょう、というサービスです。介護という奉仕活動に対し、対価・報酬という意味付けを与えていく、という格好です。当該企業は、2024年5月時点で、米国の5,300万人の家族介護者に介護トレーニングと給与を支払うための技術インフラを構築しています。
当該企業のHPでは、2024年5月時点でまだあまり公開されている情報が少ないのですが、出資者であるYcombinator社のサイトで紹介されています。よろしければご覧ください。
Oma Careでは、「昨年、米国の家族介護者は、360億時間(6,000億ドル)の無償介護を提供」したという現実と以下の背景に着目しているそうです。
看護師不足(在宅看護シフトの最大70%が充足されていない)
在宅介護費用の高騰(専門的な在宅介護の平均費用は年間6万ドルを超え、83%の家族にとって手の届かないもの)
同社は、このような知らずのうちに家族介護者を巻き込む構造となっている現状の課題について、報酬という形で効果的なケアを提供しよう、とアプローチを試みています。 介護者に無料のトレーニングとサポートを提供し、効果的なケアを提供できるように支援し、メディケイドとメディケアの自動化された払い戻しを通じて、これらの家族に金銭的な報酬を提供する仕組みだそうです。なお、:患者ケアの65%は家族介護者によって行われているんだそうです。
Y Combinatorの2024年冬季コースの後半発表を受け、TechCrunchスタッフが注目するスタートアップを同社メディア内に取り上げているのですが、その中にOma Careも取り上げられています。以下、Xでそれに対し同社が反応したものですが、XおよびTechCrunchで紹介されているOma Careの内容をみると、このサービスを創業者がつくった背景がみえてきます。
介護の義務はほとんどの場合女性に課せられるという調査結果があり、男性に比べて女性が介護者になる可能性は2倍以上ある
女性は介護に対して報酬を受け取らず、女性の無給労働は世界全体で10 兆ドル以上の価値がある
上記に対し、創業者であるArianna Galbraith氏(元介護士で薬理学・医学、公衆衛生修士)は自身のXで、これがOmaの大きな原動力だと述べています。また、介護者の約80%は女性であり、彼女たちは経済的および介護的サポートが不足していることにも言及し、「私たちの目標は、これを解決すること」とも述べています。
上記Xの投稿で引用されているTechCrunchの記事はこちらです。
5. Gladys:在宅介護ケアサービスマッチング
Gladysは、地元の介護士・ヘルパーと在宅介護サービスを受けたい高齢者をマッチングするサービスを提供している企業です。
同社に登録することで、高齢者を地域の信頼できる専門の介護者やヘルパーとつなげることができるそうです。信頼性と質の高さを特に訴求しており、例えば以下のようなポイントをあげています。
地元の人であること
ケア提供をする方々はすべて地元の人
ランチに最適な場所や地元のかかりつけ医の場所などを知っている
専門的でパーソナライズされたケア
介護士は臨床の専門知識を持っている
地元のヘルパーは買い物から園芸用品センターへの訪問まで、家庭や地域社会での支援を提供できる人たち
登録時にどのようなケアを求めているか、必要かをしっかりヒアリングし設計される
ケア提供者の身元の保証
介護者とヘルパーは全員、Gladysチームの認証を受けている DBSチェック*済み *DBSチェック:イギリス政府の Disclosure and Barring Service(前歴開示及び前歴者就業制限機構)で行われる犯罪歴チェックのこと。「DBS済み」=無犯罪歴証明を取得済み、を示す。
プラットフォーム上の全員が保険に加入していることも確認済み
適正な(最高の)価格
同社は仲介業者、および官僚主義を排除することを掲げている
ほとんどの代理店よりも高い報酬を介護士とヘルパーに支払っている(代理店の諸経費を削減)
公正な報酬こそが、人々が職場で最高のパフォーマンスを発揮できるようにする唯一の方法であるという信念に基づく
なお、今年4月にはFocal Top100(英国スタートアップのトップ5%)に選出されています。英国での注目度の高さがうかがえますね。
また、同社のLinkedInでの投稿では、高齢者のメンタルヘルスについても言及しています。同社は、メンタルヘルスの問題について、介護者やヘルパーとの質高いサービスとコミュニケーションで改善できる可能性があることも触れています。