神戸からのデジタルヘルスレポート #111(特定疾患の治療支援②)
『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。
今年は年末まで全20回で、昨年2022年に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。毎週木曜日朝配信予定です!
今回は全20回のうち8回目、テーマは「特定疾患の治療支援②」を取り上げていきます。
1. Center Health:糖尿病管理サブスク
Center Healthは、血糖値計DuoとAIアシスタントAriaを接続させることで、糖尿病管理をサポートするサービスを開発・提供している企業です。
本サービスでは、赤血球内のタンパク質の一種であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)を検出し、フィットネストラッカーや睡眠アプリなどと同期して血糖値の状態を測定します。FDA承認をすでに得ている機器で、ユーザーの血糖値の傾向(例:毎週水曜の18時頃に急上昇する傾向がある等)を見出し、その人の血糖コントロールに最適な方法をレコメンドしてくれるそうです。インスリンのリマインド機能も搭載されているとのこと。
Facebook上の動画に、本機器の動作がご確認いただけます。よろしければ、どうぞ!
<本サービスの特徴>
利用ユーザーの80%が血糖値の平均値を維持
利用から2か月以内に平均1.4%までHbA1cを低下させられた人は60%
処方箋は不要、薬局や保険会社とのやり取りなし
以下の記事は、現在のサービスが構築される前の構想として、創業者であるJulian Lavalが構想を語っている記事です。記事内では、自身が14歳の時に1型糖尿病と診断されたこと、その経験から血糖コントロールがいかに絶え間なくストレスフルな負担を生じさせる手間のかかるものであるか、インスリン自己注射の管理が大変であるか、を述べています。こお当事者として経験したペインをもとに、データで適切に視覚化する方法として現在のCenter Healthを構築するに至ったようです。
2. Frida:ADHD診断・治療支援
Fridaは、ADHDに関する無料自己診断(2分)および診断結果をもとにしたケアサービスを提供しています。同社では、ADHDは適切な診断と治療が実施されなければ、人間関係、キャリア、生活において重大な障害となる可能性がある、と述べています。しかし、多くの臨床医は ADHD を実際には理解しておらず、ADHD の成人のうち診断を受けることができる人が半数未満である現状を生み出しているそうです。この現状を打開すべく、同社では、上述のような診断と治療のサービスを展開しております。
<サービス内容>
まずは最初にADHDの診断をするための無料の自己診断を実施します。そのうえで、病歴スクリーニング(5~7分)、医学的評価フォーム(20分)を受けます。
さらに、上記に加え、Fridaの臨床医とセッションを行い(70分)、家族歴、生活の質、症状等をお伺いします。これらを総合的に用いて診断を下し、以下の画像のような、診断書も付記された個別のADHD評価レポートが届くそうです。
医療機関でこれらを受診して得ると約$2,500で約8週間程度かかるそうですが、Fridaのサービスだと$599で2週間だそうです。かなりお得ですね。
以下は、同社サービスの流れ(Care Journey)についてまとめられている図です。Step1~3で分かりやすいため、よろしければご参照ください。
<ADHDの啓蒙活動>
また、同社では、自社サイト内にADHDの現状(豆知識)の記事をいくつか掲載しています。
カナダでは成人の50%以上がADHDの診断を受けていないこと、男の子は女の子よりもADHDと診断される可能性が高いこと等…カナダ国内を主とした内容ですが、ADHDが抱える現状の課題について紹介されています。読んでみると、まだまだADHDについて社会的認知度が低い事項が多いことが理解できます。Fridaを利用した患者の2/3がADHDの症状が大幅に改善したという結果も出ているようなので、今後のADHD患者への貢献(成人カナダ人で約130万人がADHDと言われている)が期待ですね。
3. Pathize Health:Covid19後遺症などの慢性疾患治療支援
Pathize Health(旧JupiterDX)は、長期にわたる新型コロナウイルスの後遺症援やその他の慢性疾患に苦しむ患者が、データを活用して、情報に基づいたケアに関する意思決定を行えるよう支援するアプリを開発・提供している企業です。
<サービス内容>
医師の診察からスマートウォッチのデータに至るまで、すべての医療データを一元的に管理できるツールがPathize Health(旧JupiterDX)です。
対象としている疾患は、すぐに治癒せず長期間治療に向き合う必要のある慢性疾患です。主に、Long Covid、ME/CFS*、POTS**向けとなっています。
*筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS):
これまで健康に生活していた人がある日突然原因不明の激しい全身倦怠感に襲われ、それ以降強度の疲労感と共に、微熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、脱力感、思考力の障害、抑うつ症状などが長期にわたって続き、健全な社会生活が送れなくなるという疾患
**Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome(POTS):
立っていると心拍数が上昇し、動悸や息切れ・めまいやふらつき・頭痛などの症状が現れ、立っていることがつらくなる病気
本アプリを通して実施できる内容としては以下となります。
症状を追跡し、毎日の詳細なメモを記録
Apple Health、Fitbit、Garmin、Polar、その他何百ものウェアラブルと統合(他アプリの健康データを統合できる)
医療機関等での検査結果や医師の診断データ、EHR等を管理
無理をしすぎている場合に自動的に通知し、1日の制限を設定できる
現在服用している薬やサプリメントをデータ管理
同社は、本製品のさらなる開発のために、今年2023年の初めにDrive Capitalより$50万の資金調達を行っています。
<特にウォッチする3つの整体認証データ>
現状、特効薬のないLong COVID、ME/CFS、POTSをどのように管理するか、について、同社は独自の情報収集と分析で、特に多い症状や受診対象も診療科がどこが適切か等を以下のBlog記事内でまとめています。
上記疾患から健康状態を一定キープするために定点観測が必要な生体認証データとしては、主に心拍数、睡眠、酸素飽和度の3つが重要とされるそうです。
心拍数
身体的な運動と回復の良い指標であることが示されており、疲労や運動後の倦怠感の主な要因のひとつとなる。また、心拍数の異常な変動と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との関連性を多くの研究が示している。
睡眠
認知機能の低下や頭の霧などの症状を引き起こす可能性がある
酸素飽和度
筋肉への酸素供給不足が ME/CFS患者の痛みや疲労の原因であると長い間考えられてきたため、酸素飽和度は監視する価値がある
4. Nailvision:爪と皮膚の疾患を遠隔ネイルケア
Nailvision は、AIと遠隔医療を利用して、爪と皮膚の疾患を持つ患者が可能な限り最善の治療を受けられるようにする患者用スマートフォンアプリを提供しています。世界中で4人に1人が爪の病気を抱えているそうでして、治療は少なくとも1年かかるそうなのですが、治癒率は20%未満、誤診は50%といった状況です。同社は、正確な診断が受けられるプラットフォームを構築し、患者が爪や皮膚の問題について支援を受けることができる遠隔医療ソリューションを提供します。サービスについて紹介している動画がございます。よろしければご覧ください。
<サービス内容>
サービス内容はいたってシンプルです。後述する画像もしくはセルフテストにより爪の状態を専門家に診てもらい、診断→治療、といった流れです。興味深いのが、本サービスは治療前の診断までの過程は無料で受けられるということ。医師側にとっては、遠隔医療の形態および画像診断等のAI技術を用いて即座に診断もできることから、おかげで時間を節約できるメリットがあるそうです。このため、同社は医師への紹介によって収益を上げる格好をとっているそうです。また、販売医薬品と治療ソリューションからも収益を上げており、医師と薬の販売、患者の治療費用といった、ステークホルダーのそれぞれから収益をあげるビジネスモデルをとっています。
<遠隔診断を可能にするユニークな診断方法>
同社のユニークな診断方法は以下の画像のように3種類ございます。
左から、
①無料のAIネイルスキャン(スマホのカメラでAIスキャンし、皮膚科診断ができる)
②無料の爪のセルフテスト(アンケート形式で症状を診断)
③無料ネイル画像解析(爪の写真をアップロードすることで皮膚科の診断を受けられる)
いずれも無料で、予約なし。診断結果から治療が必要と判断された場合には、保険適用されるそうで、遠隔で気軽に医療にアクセスできる状態が整っています。
同社のInstagramでは、爪と皮膚にどういった疾患があるのか?について写真が画像を用いての発信もなされています。よろしければご覧ください。
爪の疾患は、必ずしも爪に限ったものではないそうです。以下記事では、爪に現れた症状が、糖尿病や鉄欠乏症、ビタミン欠乏症、肝臓疾患や腎疾患によるものである場合も示唆しています。「たかが爪」ではなく、爪の状態は、身体の健康状態を示してくれる一種のバロメーターなのかもしれません。
5.Momentum Health:側弯症(そくわんしょう)治療支援
Momentum Healthは、3D画像と人工知能を活用した脊柱管狭窄症=側彎症(そくわんしょう)のためのデジタルヘルスアプリケーションを開発・提供しています。側彎症(そくわんしょう)とは、背骨が左右に弯曲した状態で、背骨自体のねじれを伴う脊柱変形のことをいいます。本サービスは。その診断および管理と治療支援をリモート3Dで実現できるサービスとなっています。同社のサービスについて、CEO兼共同創設者であるフィリップ・ミラー氏が説明している動画がございます。よろしければご覧ください。
<側彎症(そくわんしょう)を取り巻く現状>
思春期特発性側弯症(AIS)は、米国の小児の2~3%(推定600~900万人)が罹患
最も蔓延しているのは小児脊椎変形
北米の10~16歳の若者の1~3%(700万~1,100万人)がAISを患っていると推定
本疾患の主な診断方法は放射線による画像診断だが、小児にとっては被爆のダメージが大きい
<サービス内容>
同社のサービス内容はとてもシンプルです。スマホカメラをスキャンするだけで30秒で脊椎の湾曲状態を測定し、診断できるというもの。放射線の被爆の恐れもなく、かつ遠隔で医師と連携できるため、かなり画期的です。
スマホのアプリで脊椎の湾曲をスキャン
30秒以内に1で撮った画像から3Dモデルと測定値を生成
上記の測定値を分析した結果が医師等のケアチームへ連携される
元々はSeeSpineとして発足した同社。ラヴァル大学(カナダ、ケベックシティ)の医学生、エヴァン ディメントバーグの発案で始まった本サービスの開発は、人体を建物の構造のように扱い、写真測量を使用して背骨の湾曲の程度などの構造的な問題を特定したらどうなるだろうか、と考えたことがきっかけでスタートしたそうです。このユニークな発想からスマートフォンのカメラを使用して身体の 3D表面トポグラフィーをリモートで再作成できるモバイル アプリケーションへと発展するとは、面白いですね。以下記事で創業に至る内容が紹介されています。よろしければご覧ください