神戸からのデジタルヘルスレポート#133(健康管理・モニタリング)
『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。
今回は全15回で昨年2023年(一部2024年含む)に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。
今回は10回目です。「健康管理・モニタリング」をテーマに取り上げていきます。
1. D.Sole:スマートインソール
D.Sole は、神経障害のある糖尿病患者の足の合併症 (潰瘍など) を早期に検出し、モニタリングするためのマルチモーダルセンサーを搭載したスマートインソールを開発しています。このテクノロジーは、重度の潰瘍や切断を予防するための重要なデータを臨床医に提供するとともに、糖尿病患者に個別のケアを提供します。
このスマートインソールで解決したいペインは以下です。
アメリカ人の3,700万人が糖尿病を患っており、2045年までには6,000万人にまで増加するとみられている。また、糖尿病の下肢合併症に310億ドルが費やされている
糖尿病患者の57%が糖尿病性末梢神経障害を患っており、年間10万件の足切断を強いられている。なお、切断手術の費用は最大9万ドル
現在、米国には糖尿病性末梢神経障害の患者を早期に発見し、簡単に使用できる手頃な価格のデバイスがない
製品・サービス内容はいたってシンプルです。スマートインソールを着用するだけで糖尿病性末梢神経障害の予兆を検知し、AIによる完全な足の分析レポートとフットケア情報を医師へ提供。適切な治療を提案するための傾向分析も連携される、という仕組みになっています。
アプリをインストールする必要がありますが、着用したスマートインソールから、以下のようにアプリでモニタリングできるようになっています。
直近では、AAPM + MIT Hacking Medicine Innovation Challengeというピッチでファイナリストに選出されているそうです。罹患者が多い疾患にもかかわらず、予防策についてハードルがあるため、このような手軽に予防ができるテクノロジーデバイスは期待が高そうです。
2. Wellhero:心血管系管理
Wellheroは、人々がストレスを軽減し、HRV(心拍変動)データを使用して心臓と神経系の健康状態をモニターできるような、健康とウェルネスのアプリケーションを開発しています。iPhone と Apple Watch 向けのHRVベースのストレスモニタリングとなっており、世界中の心血管疾患の数を減らし、健康なユーザーの数を増やすことを目標に掲げています。
同社のサイト上の記載によると、心血管疾患(CVD)は世界中で死亡原因の第1位であり、毎年推定1,790万人が死亡しているそうです。これら多くの心血管疾患は、生活習慣を変えることで予防できるそうで、このアプリでHRV科学へのアクセスを民主化させ、予防に繋げたい狙いとのことです。
実際、HRV(心拍変動)データを読み解くために、心拍変動測定の指標の見方についても紹介されています。
また、Blogでは、Apple Watchの心拍データでどのように健康状態を追跡していくのか紹介しています。
コーヒーのカフェインがどのように心拍に影響するのか、についても紹介しています。喫煙シリーズもあるので、心拍と生活習慣との相関性が学びになりそうです。ヘルスリテラシーが向上しそう。
まだ2024年6月時点ではローンチして半年ほど。これからどの程度普及していくのか注目していきたいですね。
3. Diawiser:糖尿病
diawiserは糖尿病患者のための健康アプリです。ただの健康アプリではなく、薬を飲むようにといった優しいリマインダーや糖尿病患者同士のコミュニティを形成し、目標を達成するよう励まし合ったり等のサポートを提供します。 1型糖尿病と診断されたモニカ氏(代表)を筆頭に、糖尿病患者が糖尿病患者のために開発したパーソナルヘルスパートナーがdiawiserです。
このサービスをスタートするにあたっての簡単なデモ動画があります。よろしければどうぞ。
LinkedInでは、持続血糖値モニター(CGM)についても紹介しています。糖尿病患者にとって、CGMはゲームチェンジャーです。リアルタイムのデータを提供してくれるので、症状を管理し、できるだけ通常に近い生活を送ることができこと、また、リトアニアで保険対象であることが述べられています。アプリの提供だけでなく、糖尿病患者にとって有益な情報発信も同社は行っているようです。
DiaWiserはDiabetes Center Berne Innovation Challengeのトップ20ファイナリストに同社は選ばれています。このピッチイベントはベルン糖尿病デンターが主催するもので、糖尿病という疾患にチャレンジするイノベーターが数多く参加しているそうです。「糖尿病」が世界中で解決すべき疾患として着目されていることがうかがえます。
4. Closar AI:ウェアラブルデータポイント
Closar AIは、35以上のバイオマーカーにより患者の全体像を把握することができるアプリを開発・提供している企業です。独自のシームレスなアプリにより、ケア専門家が患者のウェアラブルデータを探索、投薬、遠隔モニタリングに活用することを可能にします。 Closar AI はデバイスに依存せず、患者がスマホ上にアプリをダウンロードさえすれば、あらゆるタイプのウェアラブル ランドのデータにアクセスできるようになっています。また、さまざまな医療機器 (GCM など) からのデータも送信し、患者が症状を自己報告できるようになります。
2027年までに、成人の80%以上が少なくとも1つのウェアラブルを所有するようになると見込まれているそうです。患者の約90%以上がウェアラブルの健康データを共有する意向であることから、80%以上の医師が患者のモニタリングと遠隔医療にデジタル ヘルスを導入する社会に対応すべく開発されているアプリといえます。 驚くのが、ウェアラブルのデータにアクセスできる世界で唯一の無料プラットフォームであるということです(30分間、認証は不要) 患者の予防契約や処方のための無制限のデータアクセス等の機能を用いる場合には有償のプレミアムプラットフォームとなりますが、その場合もユーザーあたり月額99ユーロからと比較的安価です。
以下に、Closar AIがどのように活用されているのかを紹介している動画がございます。よろしければご覧ください。
上掲は一過性脳虚血発作(TIA)の例ですが、2型糖尿病等、他の例も以下のサイト上で動画で紹介されています。
https://www.closar.ai/use-cases
LikeInの記事では、Closar AIは、 患者ケアに革命をもたらすアプリケーションの1つとなること、患者の接続デバイスによって生成される数十億の健康データを専門家が利用して、精密医療に役立てることを可能となること、が述べられています。
なお、同社は、Swedish Tech Weekly(スウェーデンのスタートアップとテクノロジー分野のニュース)でも取り上げられています。国内での注目度も高いようです。
5. Rouast Labs:リモートビデオベースのバイタルサイン
Rouast Labsは、ビデオによる遠隔バイタルサイン・モニタリングの技術を開発している企業です。血流や呼吸、皮膚の色の変化などの視覚的な情報は、上半身の動きだけでも通常のカメラで捉えることができます。同社のアプリは、自撮りでリアルタイムにバイタルを推定することができるとして開発・提供されています。バイタルは何もデバイスを介してだけではなく、視覚的にもキャッチができるのだ、という新しいアプローチですね。
以下に製品紹介をしている動画がございます。よろしければご覧ください。
利用方法もいたってシンプルです。スマホ上のアプリで自撮りするだけ。自撮り画像をもとに、心拍数や呼吸数、顔色といったバイタルサインを測ってくれます。
自撮り動画から心拍数や呼吸数などのバイタルサインをリアルタイムで推定するアプリ「VitalLens」を紹介している論文もございます。よろしければご覧ください。
https://arxiv.org/pdf/2312.06892
創業者兼CEOでるフィリップ・ルアスト博士は、ビデオベースでの遠隔モニタリング技術の開発を多数進めています。以下では、顔ビデオを使用した遠隔心拍数測定やビデオベースの摂取ジェスチャー検出のための深層表現の学習等、彼が手掛けた複数の研究についての情報もございます。COVID-19によるロックダウン中に、誰でも使用できる最新のrPPG*システムの構築に着手したことが、今のRouast Labs と VitalLensに至っているそうです。
*rPPG:Remote Photoplethysmographyの略。心拍から血管内の血液の体積および酸素飽和度の変動によって引き起こされる皮膚表皮下の色の小さな変化を測定する非侵襲的技術。
6. CaraVita Health:より良いヘルスコミュニティの実現
CaraVita Healthは、全米の喘息、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病、肥満に悩むヒスパニック系メディケア患者に対し、個別化された慢性疾患管理を提供している企業です。遠隔での医療サービスや農村地域(田舎)におけるプライマリケアに注力しており、場所や人種に関係なくより良い医療アクセス・質が叶えられる医療コミュニティの実現を目指しています。
ヒスパニック系コミュニティにおいては英語ではなくスペイン語が主であるため、同企業のサイトも英語だけでなくスペイン語版も用意されています。また、遠隔患者モニタリング (RPM)ツール、およびコミュニケーションにおいてもスペイン語で対応できるよう設計されているそうです。医療コミュニティの向上を図る当企業では、文化的配慮が重要であると認識しており、言語をはじめとした患者の文化背景に配慮した設計を軸としているそうです。多様性が求められる昨今、こういった配慮が重要となってくるのかもしれません。
サイト上に記載されている限りしかないですが、当企業は退役軍人と少数民族で発足されたものだそうです。当企業がヒスパニック系メディケアにまずは注力している背景が、こちらにありそうです。今後順次公表されるであろう情報が気になります。