神戸からのデジタルヘルスレポート #113(臨床支援②)
『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。
今年は年末まで全20回で、昨年2022年に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。毎週木曜日朝配信予定です!
今回は全20回のうち10回目、テーマは「臨床支援②」を取り上げていきます。
1. Moshion:遠隔褥瘡モニタリングシステム
MITの学生によって起業されたMoshionは、褥瘡防止のための褥瘡モニタリング遠隔システムを開発しています。MITのデザインプログラムであるIntegrated Design & Management(IDM)に在籍するエカテリーナ・ティシチェンコ氏、ハンナ・オー氏、ジョナサン・ツォー氏の3名は、高齢者や麻痺のある人、移動に不自由のある人の褥瘡(床ずれ)を予防することを目標に本システムの開発を進めています。
褥瘡とは
寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。 一般的に「床ずれ」ともいわれています。(参照:日本褥瘡学会)
<褥瘡によって生じている問題>
褥瘡による毎年の緊急支出は$90億~110億にものぼる
米国の250万人が褥瘡による影響を受けている
年間60,000人の死亡者数
創業者3名は、床ずれによる炎症とその結果生じる傷のメカニズムを理解するために、約100人の医師や形成外科医から話を聞いたそうです。その内容によると、褥瘡が起きるメカニズム、ペインは以下のような内容だったそうです。
2時間でも同じ体勢になっていると褥瘡(床ずれ)ができる
尾骨(尾てい骨)が椅子やベッドに押し付けられるなど、体の一部が圧迫されることで、この部分に酸素や栄養が流れなくなる
床ずれによってできた炎症を治療しなければ、傷が開いたり水ぶくれになる可能性がある
<サービス内容>
同社が最初に開発したのは、圧力の上昇を追跡するセンサーが埋め込まれた布のような素材です。この布は、ベッドや車いすなどの表面に貼ることができ、センサーは、圧力、動作、姿勢を長期にわたって追跡し、特定の場所に圧力がかかると、介護者に警告を発するように設計されています。 これにより、介護者がリアルタイムで患者の体位変換を管理するのに役立ち、特定の人がどれくらいの頻度で動く必要があるか(寝返り等を行い、褥瘡を防ぐ動きをどの程度の頻度で行う必要があるか)という長期的なデータも得ることができるそうです。
こちらの記事も参考までにどうぞ。
メンテナンスゼロ。患者ごとに適宜準備する、等の手間は不要
褥瘡状態はダッシュボードを通じて毎日配信
2. DocNexus:KOL管理プラットフォーム
人工知能 (AI) を活用した臨床情報の検索プラットフォームを提供している企業です。 出版物、臨床試験、ニュース、ソーシャル メディアから医療従事者 (HCP) と医療機関 (HCO) に臨床をサポートする洞察を提供します。(前進はMedscrape)これにより、通常は数日以上かけて検索していた情報に、医療従事者やいち早くアクセスできるようになります。
<サービス内容>
DOCNEXUS検索
KOL(Key Opinion Leader(キーオピニオンリーダー):影響力を持つ医師などの専門家)を特定、検索する。彼らの学術活動や経歴、出版物等の情報を閲覧することができる
市場の動向分析として、関係者が最も多く言及している問題や、時間の経過とともに会話の量がどのように変化するかを調べることができる
競合他社が関与している主要なオピニオン リーダーを特定し、医療機器や製品の市場投入戦略の情報提供を支援
14の治療領域
ニュースで起こっていること、最新の臨床試験、トレンドの KOLなど、業界の最新トレンドを常に把握できる
治療領域別のカスタムマッピングで、最も関心のある市場とコンテンツに絞り込み、データを戦略目標に合わせて調整できる
主要な KOLの最新のツイートの詳細なビューに至るまで、競合他社の国際戦略を参照
Insight Engine
テキスト要約、キーワード抽出、医療検索機能などの独自の NLPアルゴリズムを顧客に提供 複雑なドキュメントを合成し、貴重な洞察を即座に抽出
フィールド ノート、ドキュメント、CRMプラットフォーム内に存在する内部データを接続し、データ内の新しい関係を発見する
インターネットを調べたり、さまざまなソリューションのホスト間を移動せずとも、同サービスで数秒以内に欲しい情報にアクセスできる
インタビュー形式で、CEO兼創業者であるMahek Chhatrapatの経歴やヘルスケア業界に飛び込むきっかけや同社の事業について語っている動画があります。約40分ですが、よろしければご参照ください。
3. sqior medical:臨床デジタルアシスタント
sqior medicalは、臨床プロセスを自動化し、最も効率的な方法を臨床ワークフローとしてデジタルサポートするデジタル支援システムを開発および提供している企業です。例えば、クリニカルパスの実行中の管理のような、複雑なプロセスをエンドツーエンドで自動化し、デジタルアシスタントが必要な情報をスマホ上に必要に応じて提供します。
<サービス内容>
医師の助手
文書の自動化
モバイルでの情報アクセス支援
クリニカルパスの管理
臨床における同僚(医療従事者)間のコミュニケーション
ORコーディネーター
手術室におけるタスク
術者間でのコミュニケーション・メッセージ
OR管理製品との接続
ベッド管理
患者のモニタリングと計画治療プロセスの管理
緊急ケースの半自動割り当て
ドイツバイエルン州のスタートアップのビジネスコンペティション「BayStartUP」で、同社は最終候補にノミネートされたそうです。ドイツ国内では、注目スタートアップ企業とされていることが伺えます。
4. Skribled:訪問前ワークフローソリューション
Skribledは、来院前の患者とのコミュニケーションや毎日の打ち合わせを効率的に管理できるデジタルツールを開発および提供している企業です。
<サービス内容>
医師の燃え尽き症候群への対策
プライマリケア提供者(かかりつけ医)は、過密な診療スケジュール、患者の期待値調整、保険償還(診療報酬・収入)といった課題を常に抱えています。これが負担となり、医師の燃え尽き症候群を引き起こすとして問題になっている現状があります。 本サービスでは、患者の来院前のワークフローと毎日の打ち合わせを最適化することで、プライマリケア提供者がより効率的に時間を管理し、患者の診察により多くの時間を費やすことができるよう支援します。
効率的な時間管理と組織化 患者のケア、管理タスク、訪問前の計画、毎日の打ち合わせなどに特定の時間枠をスケジュールすることで、診療所の経営者や医師が時間を効果的に割り当て、バランスのとれた仕事量を維持するのに役立つ
自動化された予約スケジュールと患者オンボーディングシステム 患者のスケジュールを管理しやすくする自動化システムによって、医師は診療に集中でき、結果、質の高いケアおよび患者の懸念に対処することに、より多くの時間を費やすことができる
患者の懸念事項、優先事項の管理 プライマリケア医の時間の制約について患者に教育(説明)することで、最も差し迫った懸念事項を優先することができるようにする。。このアプローチは、患者の期待と多忙な診療の現実のバランスを取るのに役立つ
チームメンバーへのタスク委任および権限付与 医療助手や受付係などの他のチームメンバーにタスクを効果的に委任することで、プライマリケア医の負担を軽減する。共同作業環境が促進されるだけでなく、医師が患者のケアに集中できるようになる
医療助手や受付係の医療アシスタント
プライマリケアの実践において不可欠なチームメンバーとして、医療助手や受付係がいます。彼らは予約管理から患者の受け入れ、電子医療記録 (EMR) の処理に至るまで、複数の責任を両立させております。他方、これらには互いの密な連携が必要ですが、毎日必ずしも集まって打ち合わせができるとは限りません。このような打ち合わせ(ハドル:フィールド上の作戦会議のこと。アメリカンフットボールの試合中に実施する作戦会議から)を効果的に行うことで、チームの連携を強化し、患者ケアの合理化および診療全体の管理改善に繋げるために本ツールが役立つといいます。
データの自動化と結合(Huddleダッシュボード) 既存の EHR システムから患者情報を自動的に収集して整理。毎日の打ち合わせの準備がより効率的になり、時間を短縮できる。
影響力の高い情報にフォーカス チームが最も重要な問題に最初に対処できるように、患者のニーズ、ケアのギャップ、時間制限のあるタスクについて話し合うことにフォーカスし、レコメンドする。毎日の打ち合わせで使える時間は限られているため、最も関連性があり影響力のある情報に優先順位を付けて集中することが重要であるため。
現在、開発途上段階のためか、同社製品に関する公開情報はまだまだ少ないですが、上記内容のようなサービスに関する情報はTwitterやLinkedInで発信されています。よろしければご参照ください。
5. Abscint:単一ドメイン抗体のイメージング
ブリュッセル自由大学(VUB)のスピンオフであるABSCINTは、画像による疾患診断のための単一ドメイン抗体を開発しています。免疫学、腫瘍学、心臓学に重点を置き、特定の分子マーカーに基づく疾患の診断、治療法の選択、治療反応のモニタリングに使用される抗体ベースの分子イメージを提供することで、臨床医の診断を支援します。
<サービス内容>
独自のイメージング技術により、「特定の分子標的の全身評価」を可能にします。 例えば、生検ではその病変組織を取り出して調べることで、正確な情報として診断を下すことができます。しかし、生検を全身に行うことはできず、1つまたは少数の病変のみにしか適用ができません。複数の病変を持つ癌患者には不適応といえます。対して、同社の全身分子イメージングでは、放射線負荷が低い状態で全身を観察し、すべての病変を表示し、診断することができます。
同社の研究責任者であるトニー・ラハウット教授は、単一ドメイン抗体技術と、放射能と組み合わせた場合の医療診断と治療における革新的な可能性に魅了され、ヒトの病気に関連する抗原を標的とする、放射性標識された単一ドメイン抗体の設計(現サービスの開発)を開始したそうです。最初に着目した分子標的の1つがHER2と呼ばれる癌細胞の増殖を促進するタンパク質です。これは、乳癌患者 (「HER2 陽性患者」) の約 20% に非常に豊富に存在することが示されており、HER2 プローブを用いた研究の結果は有望で患者に対するさらなる検査が促されたそうです。 次に着目したのが、CD-206と呼ばれる免疫細胞の一種であるマクロファージです。これは、全身の免疫細胞(マクロファージを含む)のグループの増殖を特徴とする疾患で、臓器損傷を引き起こす疾患「サルコイドーシス」に苦しむ患者にとって重要なマーカーであることが同研究で判明。これらの細胞塊が心臓で発生すると(「心臓サルコイドーシス」)、重大な害を及ぼし、心臓突然死を引き起こす可能性もあるとして、これを検出できるシンプルかつ正確な方法になり得るとして期待されています。
前述のHER2、CD-206については、同社のHP内でそれぞれ紹介されています。よろしければご参照ください。
尚、同社の単一ドメイン抗体のイメージング技術は、今年2023年2月に米国特許商標庁(USPTO)にて特許出願の許可通知を得たそうです。
同社は、2026年までに本製品を市場に展開していきたいと目標を掲げているそうです。癌で苦しむ患者の診断に役立つ日は、そう遠くないのかもしれません。