神戸からのデジタルヘルスレポート#136(医療費・保険)
『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。
今回は全15回で昨年2023年(一部2024年含む)に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。
今回は13回目です。「医療費・保険」をテーマに取り上げていきます。
1. PayCure:オールインワン健康クレジット
PayCureは、医療を低価格で提供することを目的とし、患者の医療費自己負担における融資を行うサービスを提供するヘルスフィンテック企業です。
このサービスは現在北米エリアのみで、融資期間は12か月、必要なときに携帯電話で全額または一部の自己負担金をお支払いできるように設計されています。保険でカバーしきれない、金利の関係等からクレジットカードが利用できない、といった緊急性があるのに経済的に診療を受けることが厳しい、そんな患者をサポートする内容となっています。
アメリカでは3人に2人が医療負債を抱えており、ほとんどの患者は400ドルの緊急費用を支払う余裕がないそうでして、患者にとって受ける医療についてお財布を気にする必要がなくなり、医療アクセスが良くなりそうです。
同社は医師でありハーバード大の公衆衛生学出身、かつ世界銀行での経験から革新的な医療資金調達モデルに関する深い専門知識を持っているKamran Iqbal博士が共同設立しています。
https://www.f6s.com/company/paycure-inc#about
当該企業のCEOKamran Iqbal氏を紹介する以下のページでは、「米国の医療費自己負担市場4,330億ドル」との記載があります。これをサポートし、自動化するヘルスフィンテック企業としての成長と医療と金融の両方をサポートする総合的なエコシステムの構築を掲げています。 米国の医療費は高いと聞きますが、中流階級のアメリカ人が今以上に医療にアクセスでき、経済負担が軽減されることはインパクトが大きそうです。
https://www.f6s.com/member/kamran-iqbal#about
2. healf.mx:金融医療ソリューション
healfは、保険契約者が保険会社とのやり取りにおいて、十分な情報に基づいた意思決定を行えるよう、保険契約の詳細情報を提供するソリューションを提供しています。
同時に、healfは保険ブローカーや保険医の味方となり、コミュニケーション・チャネルを合理化し、プロセスを自動化することで、保険契約者の透明性とトレーサビリティを向上させています。
本サービスを紹介している1分ほどの動画がございます。よろしければどうぞ。※スペイン語なので、自動翻訳する等してください。
医療費のコストの高さから、約90%ものメキシコの人たちが保険に加入できていないそうです。このような現在の医療エコシステムに対し、患者の保険適用範囲の透明性と、医療専門家に明確性を保証することに重きを置くためにうまれたのが同社のサービスです。
患者は保険適用範囲の詳細を知らないことが多く、保険適用範囲について不確実性や思い込みが生じているそうです。同社のソリューションでは処置や治療の適用範囲、利用可能な病院、支払い除外、手術後のリハビリテーションなどの追加特典に関する明確な情報を提供し、この問題を解決することを目指しています。また、WhatsAppやソーシャルメディアなどのさまざまなチャネルから当該サービスはアクセスでき、患者の保険の詳細に基づいてパーソナライズされたレポートを生成することも可能だそうです。
初期段階である現在はメキシコシティの大都市圏を対象としていますが、その後、まずヌエボレオンとハリスコに拡大し、最終的にはラテンアメリカに拡大していく計画だそうです。ラテンアメリカ全体の医療エコシステムが大きく変わり、患者がコスト懸念を払しょくし医療を受けられる未来が期待されますね。
同社は2023年11月に開催されたスタートアッププログラム500 LatAmの19社の企業のひとつに選ばれています。
※500社のラテンアメリカ企業が、ラテンアメリカの最も優秀なスペイン人起業家を支援し、新興企業を構築するというミッションを遂行するプログラム
3. Mentwell:ヘルス&ウェルネス デジタルギフトカード
Mentwellは、オーストラリア初の健康とウェルネスのギフトカードを開発・提供している企業です。本人が受けたいウェルネスサービスを選んで支払う、という形式ではなく、プレゼントという形式でヨガがジム、メンタルセラピー等、健康に繋がるサービスが受けることができる、というユニークなものです。
利用の仕方もシンプルで、https://www.mentwell.com.au/wellness-gift-cardにアクセスし、
①寄付したいドル額を設定、②受信者の携帯電話番号やメールアドレスなどの詳細情報を入力、③匿名でギフトを贈るか、メッセージを添えてパーソナライズするかを選択、というもの。
従業員の福利厚生という面でも利用できるそうです。
以下は本サービスについて紹介している動画です。ぜひご覧ください。
今年2月(2024年2月)には、サービスリリースからわずか18週間で580万ドルの売上を達成しているとのこと。先ほどの動画の中でも少し触れていましたが、ほとんど広告費は使っていないそうです。すごいですね。 創業者兼CEOのNikki Williams氏は、今後10年以内に、個人および企業のギフトの60%をプラットフォーム上で行うという目標を達成したいと考えているそうです。内科から歯科、精神科といった医療サービスからメンタルヘルスやウェルネスサービスといった多岐にわたってデジタルギフトで提供できる未来を描いているそうです。 個人間のギフトだけでなく、同氏は企業における従業員支援・福利厚生での活用の拡大も視野に入れています。 ビジネスの観点から見ると、従業員支援プログラム(EAP)のオーストラリア全土での導入率は5%未満だそうで、同氏は、オーストラリアのメンタルヘルス危機が企業に年間399億ドルの損害を与えていると推定する数字を挙げています。 ゆくゆくは、従業員の健康とウェルネスの福利厚生やEAPシステムについての考え方を変えていこうと考えているそうです。 また、今後3年目に米国への進出を検討しており、プレシード(資金)をさらに250万ドル調達して400万ドルのプレシードラウンドにつなげ、その後はシードラウンドを検討し、3年目までに米国に進出する予定だそうです。 オーストラリアだけでなく全米でも拡大、将来的には世界中…とヘルスケア・ウェルネスをギフトとして提供しあう、企業の福利厚生を充実させていく、といった優しい未来がやってきそうです。わくわくしますね。
4. Lilac:支払データ分析
ライラックは、データの集約、クレンジング、正規化を自動化するクラウドネイティブなプラットフォームを開発しており、これを保険者等の支払者が活用することで、データ分析に革命をもたらします。データ主導の意思決定には、数ヶ月のリードタイムや数え切れないほどの手作業は必要なく、データ主導型の適切な意思決定を実現できるそうです。
同社では「メディケアアドバンテージスター健康公平指数」についても言及しています。健康リスクを評価する予測モデルだそうですが、現在のスター計算における報酬係数に取って代わり、その対応が今後求められるそうです。一方、カテゴリー調整指数 (CAI) と呼ばれるものは存続するそうで、より複雑性が増す懸念もあるそうです。同社のプラットフォームでは、保険プランの最も複雑な問題に対応することができるとうたっており、総合スコアと収益の予測、個々の測定パフォーマンス、すべての測定のベスト プラクティス改善、また社会的リスク要因 (SRF) コホートの観点から、各契約におけるプランの状況をシームレスに表示といった対応もできるそうです。パーソナライズな医療が進むにつれて、保険も対応が求められ、より複雑化していきそうです。支払者における作業を少しでも減らし、より適切な判断をするにあたって欠かせないものとなりそう。
また、同社は先進国の中で最も健康格差が激しい国である米国において医療費負担適正化法(ACA)が成立したことは、保険対応の複雑さは伴ってはいるものの、アメリカにおける少数民族と白人の健康保険加入格差の縮小に大きく貢献する等の「健康の公平性」という観点ではメリットが大きいとも述べています。同社はデータという点からアプローチしていますが、その背景に健康格差等のこれまでの保険における不平等や課題を解決していこうとする姿勢がみられますね。