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20220920(石を磨く話)

昨年秋に初めてミネラルショーというものに行ってからというもの、
がっつり鉱物沼にハマってしまっている。

何処の沼にも言えることだと思うが沼というのは一度足を突っ込んでしまったら最後、果てしなく深いものである。
はじめはルースを買って眺めては喜んでいるだけだった鉱物沼も例に漏れず、
ちょっと好奇心が芽生えてしまったら最後、恐ろしい深さを見せてきた。

ミネラルショーというものは研磨済の石(ルース)やアクセサリーは勿論、原石も売っている。高価な原石は人が手を加える間でもなく、ありのままの姿で芸術品として成立する程に美しい。
そういう石は原石と言えども樋口さんや福沢さんを召喚せねばならない程のお値段な訳だが、他にも加工するのにお誂え向きな安価で売られている石もある。石英(水晶)とかならうっかりワンコイン、500円位で手に入ったりするのである。
そういった安価な原石を「研磨してみたい」という気持ちが芽生えてくる。

元々、「圧倒的不審者の極み」さんとか「hakaihan」さんとかの研磨動画が好きだった。年季の入ったコインや刃物などを様々な道具を駆使し、ビッカビカになるまでひたする磨き続けるというアレである。
仕事で疲弊しきった心を抱えてYouTubeを開いては、頭を空っぽにして研磨動画を無心で眺め続けるなどしていたのだが、ある日それを他人に話すと「それってだいぶヤバくないすか(※メンタルが)」と言われたこともあった。
何かをひたすら磨いている間は嫌なことも忘れて無心になれるのではないかと思い、その無心の境地に憧れた。

鉱物研磨と一言で言っても様々な手法がある。本格的な研磨機を使用して、ファセット(多数の面を作り光の反射で輝きを出す手法)を施すような本格的な研磨もあればハンドリューターを使う方法もある。
もっとも原始的で時間のかかるやり方が、所謂ハンドポリッシュである。
ハンドポリッシュの手順は大まかに、まず柄のついた棒状のダイヤモンドヤスリで整形し、何種類かの耐水ペーパーを使って少しずつ表面を滑らかにしツヤを出していく。手間はかかるが高価な道具は必要なく、手軽に始めることが出来る。
私は偏執的研磨系(※褒めてる)YouTuberの動画を見ていたこともあり、俄然ハンドポリッシュに興味があった。

石はその種類によって硬さ(硬度)が異なり磨き易さも違ってくる。
硬度の低い石は柔らかく、ハンドポリッシュでも磨きやすいしツヤ出しも容易だけど、亀裂が入っていたりすると研磨途中で欠けたりすることがある。
硬度の高い石は研磨途中に欠ける心配は殆ど無いがまぁ磨くのが大変で時間もかかる。手も痛くなる。心も折れそうになる。
硬度が低く磨きやすいのはフローライトやアパタイト、オパールやラピスラズリなど。
磨けなくはないけど大変なのは水晶系やアクアマリンなど。このあたりで硬度7だがこの辺がハンドポリッシュの限界だと思う。これより上、コランダムとかになると恐らく無理である。

まず私が一番初めに手を出したのが磨きやすいと言われるフローライトだ。
フローライトは比較的手に入りやすい石で様々な色がある。緑色のものがよく安価で出回っている。その次が青や紫。光を当てると内側の色が綺麗に浮かび上がり、変色するものもある。
ミネラルマルシェで手に入れた紫色のフローライトが私の研磨デビューの石だった。


磨いてみて分かったのだが、このフローライトは内側に虹のような輝きを隠し持っていた。光が当たる角度によって七色に光って見える。
原石のままだったら誰にも気付かれることのなかった美しさをこの小さな石が何百年(何千年?)も隠し続けていて、それを自分の手によって見つけたことが嬉しい。

磨いていい感じになった石はそのまま観賞用として取っておくのだが、イマイチうまく磨けなかった時はアクセサリーに加工したりもする。

留め具以外は全て糸を編んで作るので特別な道具も要らず、手軽に始められる。
片足を突っ込んでから早一年、こうして私はズブズブと鉱物沼に沈んでいった。
近く四国へ引っ越す予定だがひとつ困ったことがある。なんと四国にはミネラルショーが無いのだ。これからは石を仕入れる為に瀬戸内海を渡らねばならない。
なんということでしょう。交通費だけで幾つか石が買えてしまうではないか。
年に数回石の為に海を渡り、あとは仁淀川の石でも磨いて暮らすことになりそうだ。

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