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こっちにこいよ、踊ろうぜ。 中国の路上ダンスに参加した話
こっちにこいよ、踊ろうぜ。
僕は彼らがそう語りかけているように思えた。
舞台は北京。某ショッピングモールの広場。
連日躍りに飢えた老脈男女が夜な夜な集まり、ダンスパーティに更けている。
僕は北京に来て以来何度もこの光景を見てきた。
「楽しそうだなぁ」
僕は彼らを見る度にそんな淡い感情を抱いていた。
完全に傍観者だった。
人生は傍観できない。
これは僕が大学で所属する中国文学コースで学んだ人生観であった。
踊る側の気持ちや感情は傍観者には一生分からないのだ。
踊る側の楽しさを知りたい。
僕はダンスパーティへの参加を決意した。
参加してすぐに分かったのだが、このダンスパーティはわりとガチだということだ。
僕は以前ダンス動画を撮った際に使った力士の衣装を使って踊っていたのだが、彼らは躍りに集中して僕のことを気にするそぶりもない。
そしてわりとダンスが難しい。
写真では伝わりにくいかもしれないが、ダンサーたちは曲にあわせて前後に足を踏み出したりなどする独特なステップを踏んでおり、初見ではなかなか模倣するのは難しい。
僕もダンサーたちの動きに合わせて踊ることを試みたが、模倣できずただじだんだを踏んでいるだけになってしまった。
僕がダンスとは呼べない世にも奇妙な足踏みをしていると、1人の女性が声をかけてきた。
どうやら巨大な体を揺らしてダンスに参加しようとしている不思議な物体に興味を持ったらしい。
彼女は僕に手招きをしてガチダンサーから少し離れた広いスペースに呼び寄せ、ここで踊ってくれと言い出した。
僕はこれまで周りのガチダンサーに合わせて、縮こまった踊りしかできていなかった。
もう奴らのことなど気にせず、自分の好きなように踊ろう。
僕はとにかく体を動かした。
もはや振り付けなど何もない。
曲と共に人間が動いていればそれはダンスなんだ。
僕が踊ることを数十秒。気づけば辺りには数人の人だかりができていた。
ダンス素人がデタラメな動きをしているだけで、周りの人が興味を持つ。
僕はとても不思議な気分であった。
最後に僕は動画を撮ってくれた女性と写真を撮った。
いつものように傍観しているだけでは、決して今回のような経験はできなかったであろう。
だからこそ僕はこう言いたい。
「こっちにこいよ。踊ろうぜ。」
PS ダンス動画が貼れなかったのが誠に遺憾です