どこかに
2020年10月
どこかに消えたかった
パソコンの前で絶望が拭えながった
朝も夜もうずくまってふるえていた
横になったらそのまま床と癒着して
起き上がれないと思った
それでもいいからどこかに
消えたかった 存在ごと ひとりで確実に
体は心と完全同期していて
何もしていなくても重かった
重力も地球も信じられなかった
愛など微塵も感じられなかった
窓の外の明るさで
簡単に絶望に包まれた
耐え難いもので構成されている
世界で息する資格がなかった
お先に失礼します、と頭を下げて
作り笑顔が崩れないまま
エレベーターで地下1階に降りながら
何度同じことを考えたんだろう
同時に、やめないために
全てをやめようと思って
メールを何通か送った
ふるえる私をふるえながらたすけた
もうこんな思いをしなくていいように
ちゃんと窓の光であたたかくなれるように
明るい時間に珈琲を淹れられるように
自分の足に自分で絆創膏をはれるように
ひとつずつまた始めた
しまっていたものを取り出して
その何粒かを零しながら
拾わず 足をただ動かした
2022年12月
絆創膏の貼り替えができるようになっていた
誰もいなくてよかったのに
少し分けたいと初めて思った
ずっとふるえていた
今だってふるえている
いつのまに重力が愛おしくなって
私はおかしくなってしまったと思った
起きたらカーテンを開けて
朝焼けを撮るようになった
明るい時間に珈琲を
淹れるようになった
電車に揺られながら
エレベーターの感覚はもうないと気づいた
あの場所にもどらなくていい
と呟いたら涙がでてきた
靴箱に靴がなかった時の
大量の手紙が全部毒だった時の
助けたつもりが嗤われていたと知った時の
小さい私がふるえていた場所のことも忘れる
心が安らぐ場所で
息をしたらいい
絆創膏はたくさん持ってるよ
だから大丈夫です
光にちゃんと手を伸ばした
瞬間の私とあなたを信じる
たとえ引き戻されても
ものすごい速度で沈んでも
手足を動かして
もがきましょうね
もうしなないです
ふるえたままで息をする
毛布をかぶって目を閉じる
やわらかい夢を見る
簡単にとはいわないけれど
すこしの希望に包まれる
生きている
の5文字を指先で打つ
どこかに向かっている
これだけで十分だった