最強の投球フォームを考える【消える魔球を実現する】
プロ野球も無事開幕しました。オフシーズンに練習した新フォームや変化球を実戦投入する時期がやってきました。シーズン序盤の戦いは、さながら新必殺技の発表会のようで、少年心をくすぐられます。特に、突然投球フォームがかわるピッチャーを見るのが好きです。
さて今回は、認知科学の修士号をもつ私が、視覚の視点から最強の投球フォームについて考察していきたいと思います。
視覚には構造の問題で見えない部分(暗点)が存在しています。代表的なものとして盲点があげられます。つまり、ボールが打者の盲点を通れば、打者はボールを目視することは不可能です。消える魔球です。
本記事では「リリース時に、打者の盲点とボールが重なる投球」を盲点通過ボールと呼び、そのようなフォームが実現可能かを検討します。
盲点通過ボールの威力
まずは、盲点通過ボールの威力を確認します。
打者はボールがリリースされる瞬間を周辺視野で捉え、ボールの軌道を予測すると言われています。ですので、リリースする瞬間に盲点を通過すれば、打者は球種の予測がかなり困難になると考えられます。
されに、一般的に視覚のリフレッシュレート(今回はフリッカー融合頻度を用います)は、0.01秒/回と言われています。球速が150km/hの場合、打者が意思決定に使える時間は約0.14秒だそうなので、その貴重な0.14秒のうち0.01秒を消すことができます。球速に換算すると体感球速5-10km/hほどのアップにつながると考えられます。
このように、盲点通過ボールは
球種の予測を困難にし、体感球速を高めることができます。
盲点の仕組み
つづいて、盲点の仕組みを説明いたします。
盲点は、目の中心である中心窩から鼻側に約5mm離れたところにあり、直径0.7mmほどの大きさです(正確には楕円形では、本記事は計算の簡略化のため円形として扱います)
私達が何かを注視する時、対象を中心窩に捉えます。この際に(運悪く)盲点に入射してしまった光は視神経に送られないこととなります。
我々が日常生活で盲点によって苦しむことがないのは、両目でものを捉えるためです。下図(左)のように、赤い星が片目の盲点に入ってしまっても、もう片目の盲点に入ることはないので、視覚に赤い星が映ります。しかし、片目でものを捉えると(下図右)、両目によるカバーがなくなるので赤い星が見えなくなります。
ちなみに、18.44m先の対象物の場合、注視点と盲点の距離は730mm、盲点の直径103mmとなります。盲点の直径は硬球の直径より大きいので、ボールは視界からすっぽり消える可能性があります。
つまり、盲点通過ボールが効果を発揮するためには、打者は片目でボールを捉える必要があります。これは、競技規則に違反しない形で可能なのでしょうか?
片目の有効視野外からボールを投げる
結論から言うと、可能です。
右投手と相対するとき、右打者が首を60°ほど傾け、眼球を20°ほど回転すると仮定します(この角度はプロ野球選手の視覚データを扱う研究から抜粋しました)。
この時、打者の有効視野(形や色がしっかり見える範囲)はプレートとホームベースの垂直線から三塁側に10°ほどの範囲になると考えられます。
プレートと有効視野の距離を計算すると、18.44×sin10°=3.02mとなります。
つまり、プレートとリリースポイントに3mの距離があればいいわけです。踏み出し+上半身の傾き+腕=3m、これは大柄の投手なら可能ではないかと思います。
競技規則では、投手がプレート前方に2歩歩く(踏み出し足→踏み出し足;軸足→踏み出し足)ような投球フォームを禁止しています。しかし、踏み出しの勢いで軸足が浮くことは禁止されていません。リリース時に軸足が浮く投手はたくさんいますし、軸足が移動していてもボークを取られることは少ないようです(例:中日の石田健人マルク投手)
これらの事情もあり、競技規則を守りながら、サイドスローであれば盲点通過ボールを投げることができそうです。
イメージ図が下図となります。
まとめ
今回は、「リリース時に、打者の盲点とボールが重なる投球」を盲点通過ボールと呼び、それが実現可能かを分析してみました。
結果、大きく横に踏み出すサイドスローなら可能であるという結果になりました。
盲点通過ボールは球種の予測を困難にし、体感球速を高めることができます。もし実現すれば、効果的なボールとなるでしょう。打者は首をかなり曲げることや、体を投手に正対することで対応が可能ですが、この場合は本来のバッティングフォームで打つことができないので、打者の調子を崩せる点で有効ともいえるでしょう。このボールで一試合抑えるのは困難でしょうが、サイドスローの変則投手が時折なげることで打者との心理戦をうまく進めることができるようになるかもしれません。
以上、消える魔球についての妄想でした。
来週もお楽しみに!
今後、野球がない月曜に週刊で記事を書いていく予定です。
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