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ponderosa may bloom『color』全曲解説①:晴天シグナル
明けましておめでとうございます! 今年はエイプリルブルーが2月に5年ぶりとなる2ndアルバム『yura』のリリース、3月に東名阪ツアーを控えており、ponderosa may bloomも昨年以上に精力的な活動を行う予定です。なにやら忙しくなりそうな予感がひしひしとしておりますが、僕の活動を追ってくださっている皆様を退屈させないことは間違いないと思われるので、今年も引き続きご支援のほどお願い申し上げます。
さて、今回はponderosa may bloomが昨年12月にリリースした1st EP『color』の全曲解説第一弾、「晴天シグナル」の解説をお届けします。レファレンスになった楽曲(というほどでもない例も複数含まれていますが)のプレイリストもご用意いたしましたので、こちらをおともにお読みいただけたら幸いです。
1. とにかく速く
非常に身も蓋も無い言い方をすれば、この曲の出発点は昨年10月13日に開催されたOwl Nest 8への出演が決定したこと。ご存知の方も多いかと思いますが、このOwl Nestは「SOVAフェス」の異名を持つ、SOVAの所属アーティストが勢揃いするイベントであり、始動から日の浅いpmbにとっては先輩グループたちのファンに存在をアピールをする絶好の機会。pmbプロデューサーの船底と「この日に合わせてなにか強い新曲が必要ではないか」という話になり、折しも現場の盛り上がりを求めて直近の新曲群で楽曲のBPMを速めつつあった(5月披露の「space cola」は166、6月披露の「コーリング」は168)僕としてもここらで一丁さらなる加速を追求せねばと思い立って制作に取りかかりました。結果BPM 177と一気に加速。アイドルの世界において基本的に曲が速くて損することはありませんからね。
2. 狙った既視感
For Tracy Hydeの活動当初から一貫した個人的な関心として、人は聞き覚えのある音をどう受け止めるのか、というものがあります。単純接触効果やノスタルジアなどの現象に目を向けるとわかりやすいかと思うのですが、人は概して自分に馴染みのあるものを好意的に受け止める傾向があるようです(80年代のシンセ・ポップのヒット曲などを露骨なまでに引用するThe 1975はこの効果を最大限に利用しているアーティストの一例と言えるでしょう)。
The 1975の楽曲に含まれる過去の音楽へのオマージュを分析する動画
僕が「晴天シグナル」でやっていることは、ある意味ではThe 1975的な方法論のアイドル・ポップへの適用です。下敷きにしたのは過去の洋楽のヒット曲ではなく、ごく身近なアイドルの音楽。具体的には誰でもテレビやラジオなどで耳にしたことがあるAKB48などの秋元康系列のグループたち、そしてSOVAフェスの客層が知らないことが100%ありえないSOVAの原点たるtipToe.です。いずれに関しても「聞き覚えのある音」というテーマに合わせて、あえてレファレンスとして聴き込まず記憶を頼りにメロディやリズム、雰囲気などの要素を取り入れています。前者に関しては歌詞の面でも、秋元氏の坂道系列での作詞に見られるような個人的な苦悩が社会や世界となぜか直結して語られる不思議な飛躍を意識しています。
また、tipToe.に関しては僕個人としても相応の思い入れがあること、SOVAフェスが7月のtipToe.活動終了からまだ間もない10月に開催されることから、どこまで寄せていいものなのか自分のなかでかなり葛藤がありました。しかし昨秋独立/移籍した水槽とクレマチスも含めたSOVAのアーティストで唯一僕が楽曲提供しなかったのがtipToe.(・・・・・・・・・とのスプリット盤に参加したものの書き下ろしではない)というのもあり、最終的に「もし僕が曲をつくっていたらこうなったかもしれない」というイメージで最大限の敬意を込めた曲をつくろうということで落ち着きました。つまり作曲面で言えばこの曲は間違いなく存在した過去の再構築であると同時に、もしかすると存在しえたかもしれない並行世界のifの提示でもあるのです。
3. ぶれていない軸
聴いての通りソングライティング自体はかなり王道アイドル・マナーに則っていますが、インディ・ロックで名を成した人間がただの王道で済ませて満足するはずもない。ギター・サウンドはThe Pains of Being Pure at Heartなどの10年代前半のドリーム・ポップを意識したきらびやかでノイジーなものになっています(ほんとうは2ndアルバム『Belong』を想定しているのですが、配信されていないのでやむを得ず1stの曲をプレイリストに入れています)。サビの裏で鳴っている必要以上に歪んだファズ・ギターのフレーズは、わかりやすくポップな曲に違和感を忍ばせようという僕なりのオルタナ魂です。同様にミックスについても当初はもっとメインストリームっぽいクリーンな感じにしようかと思っていたのですが、エンジニア(Triple Time Studioの岩田純也さん。FTH時代からバンドでもずっとお世話になっております)から上がってきたミックスのwall of sound的な渾然一体感が気に入り、あえて各楽器の分離を追求しないという非アイドル的なインディ精神の赴くままに仕上げました。
また、歌詞はある意味For Tracy Hyde「Subway Station Revelation」の延長線上にあり、情報過多な現代社会に押しつぶされそうななかですべてを放り出して愛する人の元へ駆け出すことができたら素敵だよねえ、といった趣旨。つまりさまざまな点において、この曲はこれまでの自分の歩みをしっかり継承しており、自分の軸をぶらさずに別のテイストに翻案してアウトプットしているのです。サビ頭の「晴天シグナル!」「青春ジグザグ!」という意味はよくわからないものの語感はとてもいいフレーズが浮かんだときは「俺アイドルの曲つくってんなあ……」という感じがしてとても気持ちがよかったです。この辺りはFTHでは間違いなくできなかった表現ですね。
MVも含めFTH末期のポップな文明批判の結晶
5. 現場で育てたいアンセム
ある程度はフロアの反応を見越して制作した「晴天シグナル」ですが、おかげさまで初披露からご好評を賜り、いまではpmbのライブのひとつの山場になっています。この曲を歌っているときの場内の空気の変わりようは期待を超えてすらいて、ほんとうにつくってよかったと思っています。より大きなステージでより大きく育っていく姿を見るのが楽しみでしかたがありません。皆様もぜひご一緒に育て上げていただけたら幸いです!
6. 驚きの偶然
ちなみに余談ですが、リフがL'Arc〜en〜Ciel「自由への招待」に似ているという感想が初演時から散見され、知らない曲だったので実際に聴いてみてとても驚きました……。こうして自分のつくった音が期せずして誰かにとって聞き覚えのある音になっているという偶然、実におもしろい。
思ったより似ている
ベースを弾いているエイプリルブルーの村岡はBUMP OF CHICKENの藤原基央が提供した榎本くるみ「冒険彗星」を連想したと言っていました。
たしかにこういう下北系っぽさがあるかも