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囀る鳥は羽ばたかない 57話感想
最新話を含めた全話のネタバレになっています。ご注意ください。私がネタバレの原因になることはあってはならないとハラハラしています。
定まらない矢代と、定めてくる百目鬼
ぽやぽや矢代からやるだけ矢代、おののき矢代を経てわちゃわちゃ矢代へ。
わちゃわちゃ矢代にがっつり振り回されつつ合わせにくる百目鬼の精神力。
まずは、ふたりの攻防から見ていきます。
あとはやるだけの矢代でしたが、百目鬼がそれはもうしつこくしつっこく優しく触れるため、ついに昔のようだと気付いて離れようとします。怖くなりわなわなします。
なお、「挿れろよ」ではどめき対応しません。「済ませろ」でも「もういい」でも然り。「俺が欲しい」待ちの精神はきっと健在。矢代に求めてもらうまで挿れないつもりだったのでしょう。これだけは譲りたくないのでしょう。
結果しつこい。毎回"しつこい"せいにされる百目鬼。
もう番犬じゃないけど、待てはできるのに。
願い叶わず。お気の毒メキ。
矢代に対峙する百目鬼の表情と切り替えも最高ですね。諦めるような整えるような「ふぅ」は珍しく怒り以外の心情。ここから一転します。トランスフォーマーメキ。
「吐きたいなら吐けばいい」この状況、百目鬼は覚えてるんですよね。百目鬼の”冷たい感じに見せるよモード”発動により、矢代は自分を、自分の仮面を取り戻します。わちゃわちゃ。
「はは」じゃないですよ、こちらが「あ?」ですよ。まったくもう。さっきの「しつこい」と言った幼い表情と、百目鬼のせいにしたのを私は忘れていませんがね。浮き沈みが激しいよ。
矢代の定まらない感情に合わせて、百目鬼は自分の態度を変えますよね。矢代に合わせて定めてきます。捕獲も狙撃もお手のもの。スナイパーメキ。
酷いの禁止なぽやぽや矢代には、優しいメキモード。
優しさに恐れおののき矢代には、冷たいメキモード。
踏み込み過ぎないように。壊さないように。
しかし"言葉を持たない"な。
百目鬼は後ろから攻める時、矢代の顔見たくなっちゃってますよね。かーわいい。
とにもかくにも25話を思い出しますね。
”しつこい”扱いされ続けて、もう殿堂入りのしつこいゴリラに何か称号を。
矢代と対峙する百目鬼
矢代は自分が言ったことしたこと覚えてない何かと儚いマンですが、逆に言ったこと言われたこと、したことされたこと覚えてる義理堅マン百目鬼。
「…妹は良かったな お前がいて(33話)」は、矢代自身が”百目鬼から助けられた妹”を羨ましく思っての言葉ですよね。”俺も助けられたかった”と、百目鬼は今もひとりもがいている矢代に気付いているはずですよね。
百目鬼の矢代限定の対応能力は凄まじく高い。「51-56話どめき感想」に書きましたが対応してくれます。そして自己抑制も。「どうして抑えることができないんだろう(22話)」からの成長よ。のびしろありましたね。称えたい。
と同時にさ、だからさ、性含めた諸々の自制、本当にどうなってんだ。ふぅ。それはさておき。
子供のころ感情を表に出すのが苦手だった百目鬼。
聡い久我に「隠すのウマそうだし(3巻描き下ろし)」と評された百目鬼。
塩対応な百目鬼が矢代の心にどう影響しているか、実際の良し悪しはまた別の問題なんですよね。矢代自身の問題もありますしね。
自己と対峙する矢代
度々の確認になりますが、お互いに好かれていないと思ってますよね。
逃げたくなるよね、優しくされるのも、仮面はがれるのも、自分の気持ちがバレるのも、女がいるのも、自分だけ変わっていないのも。いまだに「俺という人間を手放さなきゃならない(32話)」のも怖いですよね。
人が変わる象徴に矢代ではなれない”女”を選ぶ百目鬼を思うのか。心"変わり"も含むように。痛々しいのですが、女の存在により矢代がここまで自分と向き合えたのかと思うんですよね。
もしふたりの想いが早々に通じていたとしても、矢代が逃げる問題が解決してない以上、壊れることの繰り返しになりますよね。
ここは下の「漂えど沈まず」にも通じてきます。
「セックスしに?」はどちらの答えにしても百目鬼は詰みますね。むしろ矢代もかも。ラストの矢代はこれからの彼にとって必要な作業だと捉えています。まずは一歩を。
優しくしても酷くしても、百目鬼は大いに官能的ですね。お見事。
またどめき関連(なにそれ)に着目した感想を書きたいものです。
『漂えど沈まず、されど鳴きもせず』
『漂えど沈まず、されど鳴きもせず』より、高校生の矢代は「人間は矛盾でできている」「寂しい 寂しくない」「恋しい 恋しくない」と考えました。
竜崎に言った「惚れたりとか もういい(14話)」から、矢代は「寂しくない」「恋しくない」に全部の振り幅を寄せて生きてきたのでしょう。
矢代は百目鬼に対して生まれてしまった「寂しい」「恋しい」の感情をどうしたら良いのか分からずに、戸惑ったままひとりで抱えてるんですよね。表に出すのも、人に知られるのも怖いまま。僕は影。
「俺については何も変わらない」と言いますが、自分が変わってきていたことを自覚して欲しい。とうの昔に傍観者ではいられなくなっていることも。それがその先に繋がる希望になることも。君は光。
ねじ曲げられて戻れないままの矢代。
苦しい一歩を踏み出し明るい方向へ進めますように。
私はさ、矛盾があること自体を悪いこととは思っていなくて、心の中にはあるのが当たり前くらいに考えてしまいます。
それにより自分が押し潰されなければ、ですが。
「人間は矛盾でできている」ことを殺してきた結果、違う痛みも増えてしまいました。とは言え、百目鬼と再会せずにただ痛みだけを求めていた矢代の人生に思いを馳せると、この状況を良かったと強く感じるのです。
矛盾ついでに余談をひとつ。「守りたい 大事にしたい 傷つけたくない」「なのに 汚したい」と4年前の百目鬼。16話のあのすごくて素晴らしいやつの後ですね。ふたりともさ、性欲を汚いものと思ってる節があったかなと。百目鬼は乗り越えていそうですかね。
だから私は悲しまない
前回は百目鬼に寄り添い気味で書いてきました。どうするか決めている百目鬼の方が楽だからです。どうしようもない、どうしたらいいのかと思っている矢代に寄り添うのはしんどい。それでも。
幼少期の矢代は可哀想で助けたいし、極道に入るまでの矢代にも似た感情を抱きますが、今の矢代に対しては可哀想と思ってはいけないと感じています。動けないなりにも向き合おうとはしている矢代を。
私は悲しまない。
少しでも「矢代の何か」であると縋り、この人の側にいたいと、守りたいと想い続けている百目鬼がいるからだ。
高校生の頃の「お前はひとりだ」という影山の言葉を覆すほどの愛情と覚悟を持って百目鬼が側にいようとするからだ。
人は変わるのか、変われるのか、どうせ変わらないのか。ぼんやりと浮かんだままですね。これはまたいつか。今日はここまで。
矛盾に関してちょっとしんどさがある記事はこちら「57話矢代の状況」、
ひとつ前のゆるめの記事はこちら「56話感想」や「どめき感想」です。
最新の「57話どめき感想」はこちら。
(引用元:ヨネダコウ,『囀る鳥は羽ばたかない』,大洋図書)