真夜中の植物園 蜜子 1


 太一と出会ったのはその植物園だった。中華街で地下鉄を降りると、海の近くにあるガラス張りの小さなドームが『横浜中華植物園』だ。

 そこは誰も見向きもしない街の端っこでいつ行っても中はがらんとしている。私は半年くらい前に仕事でそこを通りがかった時から気になり入ってみた。そこはドームの天井を境に、小さなジャングルができているようで、見たこともない形の木やカラフルな花たちが小さいドームの中にところ狭しとひしめいているように見えた。温度調節のためか外よりも湿度と気温が若干高くて、私はワイシャツの袖をおりながら、時間を忘れてみて回った。それから毎日、仕事が終わると『横浜中華植物園』に通った。40手前の女が一人で植物園に通うなんて、と周りからは静かに冷ややかな目で見られたけれど私は特に気になかった。他人の目なんて気にするだけ時間の無駄。私は私いつもそうして生きてきた。これからだってそう。あの日まではそう思っていた。

 あの日は、少し仕事の内容で上司とチームとぶつかった。特に大きな問題ではなかったけれど、もうそろそろ仕事を後輩に譲れよ、というような無言の空気を感じて私はなんだか悲しくなってしまった。私が仕切ってきたチーム、私が育て上げてきた後輩たち、私がまとめ上げた案件、私を認めてくれているはずだった上司たち。それらすべてに裏切られたようで、仕事が終わると缶ビールを買い、あの植物園で一人呑んでいた。

「そんなところで寝ていると風邪ひきますよ」「え?」とうっすら目を開けるとそこには男が私を見下ろしていた。あぁいつの間にかここで眠ってしまったんだ。座っていた芝生の感触が気持ちよくて横になるとそのまま目を閉じてしまったようだ。「すみません」あわてて転がっていた缶ビールたちをかき集める。

「いや、大丈夫ですよ。あまりに気持ちよく寝ていたので起こそうか迷ってました。」その人は缶を集めてくれながら言う。という事はしばらく私の寝顔を見ていたのか。恥ずかしいと思いながらも、なんだか馬鹿にされたようで腹が立ってきた。「すみません。怒らせてしまったようですね。」ふにゃっと笑顔を作りながらその男は言った。よく見ると私よりもだいぶ若い男で、二十歳そこそこのようにも見えた。すこし癖のある髪にかわいげがある。スーツを着ているのもポイントだ。なんて馬鹿なことを考えているうちに、相当悪酔いしてしまったのか、少しこの男をからかってやろうと思った。本当に酔っていたんだろう「あっ」と言いながら、缶ビールを抱えて立ちあがった時に、すでに立っていたその男にもたれてみた。「大丈夫ですか?」華奢だと思っていた胸が意外に厚く、細いと思っていた腕が意外にたくましかった。私は不意にドキッとしてしまい、そのことを悟られないように顔を下に向けて「ありがとう、もう平気」といった瞬間、その男が私の顔を無理やり身長の高い自分の方に向けさせた。

私は見上げるように男の顔を見るとすぐに唇を奪われた。濃厚なお酒、また特別に濃いチョコレートを食べたときのように、くらくらする衝撃が突然体中に押し寄せた。私の身体は徐々に力が入らなくなり、徐々に入ってくるその舌はとても熱く、まるで秘部に男根を挿入されたかのようなぞくぞくする快感が渦巻いた。長いようで実際は短かったのかもしれないキスを終えると彼は「名前は?」と聞いた。

荒く息を吸いながら私は「ミツコ」とかろうじで答えた。それを聞くと彼は目を細めて「どおりでおいしい蜜の味がすると思った。」といいもう一度、キスをした。今度は私も彼の身体に腕を回し、きつく抱きしめた。しかし、彼は私を片手で抱きしめると、もう一方の手をスカートの中に入れ始めた。「いや、ダメ」と唇を離しそういうと彼は「さっきから良い蜜の匂いがするんだ」とからかうように言った。指が徐々に下着の中に入り、私の中に指が一本侵入してくる。たった一本入れられただけなのに腰から崩れ落ちそうなくらいの快感が私を貫いていく。的確にまたゆっくりと愛撫するために動く指。必死に彼のワイシャツをつかみ悶えた。「蜜がいっぱいだね。でももっと出てくると思うな。」というと彼はいきなり乱暴に指を2本入れ、あたりに音が響くほどかき回した。「や、やめてっっ。うっぅ」唇を嚙み、必死に身をよじらせて、押し寄せてくる絶頂の波から逃れようとすると、彼は少し笑いながら、「わかった。」といい指を抜いた。その瞬間、私の女としての一気に声が漏れた。もう何の理性も働きそうもなく、ただ彼のモノがほしいとばかりに願った。すると彼はいきなりしゃがみ、私のスカートに中に頭を入れた。「ちょっとそれだけはやめて!誰かに、み、見られたら、うぅ」言っているそばから、彼は私の蜜でべとべべとに汚れた、足の根本あたりを舐め回した。立っているのが辛くなり、腰を逃げるようしていると、彼は私の腰をがっしりとつかみ、下着越しに舌をゆっくり動かした「はぁん。。。!」声が大きく漏れてしまい、とっさに片手で強く口を押えた。彼は私のスカートから頭を出し、私を見つめてほほ笑んだ。口元が月に照らされて光っている。

その時、私たちを邪魔するようにチャイムが鳴った。「まもなく閉園のお時間です。本日のご利用ありがとうございました。」とスピーカーから放送が響いた。かれは何事もなかったかのように立ち去ろうとしていた。私はとっさにすがるように、「待って」と口に出してしまっていた。理性などとっくに流されてしまっていた。彼は私の方を振り向き、にっこりともう一度ほほ笑んだ。「待って」もう一度私は言った。情けなく、まるで彼のペットのような気分になり、私は彼が行ってしまうのが寂しかったし、嫌だった。彼また、ほほ笑み続けながら私の腕をとり、そのまま近くのホテルへ連れ込んだ。

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