ゆかいなアリか、かしこいキリギリスか
アリとキリギリスがいました。
アリは、暑い夏の日も悪天候の日も、毎日毎日冬に備えてせっせと食料を蓄えました。今は大変だけど後で楽ができるから。
キリギリスは、遊んでばかりいました。冬になって食べ物がなくなり、アリの家に行って、食べ物を乞いました。アリは言いました。「私は、夏にせっせと働いていた時、君に笑われたアリです。君は遊び呆けて何の備えもしなかったから、こうなったのですよ」
それを見ていたフクロウは思いました。
アリはいつも不機嫌そうだな。毎日毎日、嫌なことを我慢して。でもその目的は、後で自分が楽をするため。楽をするって何だろう? 食べ物に困らないこと? お金に困らないこと? 何事もなく時間が過ぎていくこと?
キリギリスはバカだな。毎日毎日、遊んでばかり。自分のことしか考えずに、他人をバカにしたりもする。だから自分がピンチになった時、誰も手を差し伸べてくれない。
さらにフクロウは思いました。これってどこかで見たことあるな。
「宿題だ、受験だ、就活だ、出世だ・・・嫌なことを耐えるのは将来楽するため。そう思って頑張って、いざ壁を突破すると、次の壁が見えてくる。いつまで耐えなきゃならないの? もう楽をしたいよ」
だからいつも不機嫌です。そしてちょっと意地悪です。
「俺はあんなに頑張って今の地位を獲得したんだ。努力をしてこなかった奴らは、もっと苦しまなきゃダメだ」
その地位にふさわしい能力があるのなら、その能力を発揮した方がいいのではないかな? できる人が楽をして、できない人が苦労するのが当たり前と思うのは、ちょっとおかしくないかな?
ある日、フクロウは変わったアリを見かけました。
夏の暑い日に、せっせと食料を集めています。しかし、そのアリはとても機嫌良く、楽しそうに食べ物を運んでいます。小さな花を見つけ、鳥の声を聞き、風の匂いを感じ、友と語らい、長い間、夜空を見上げています。雨の日は部屋の片付けをしながら昔の写真を見つけ、好きだった本を読み返し、今日の食事にはどんな工夫をしようかと考え、誰が片付けをするかをゲームで決め、でも結局みんなでおしゃべりしながら皿を洗っています。何をするにも、自分なりの楽しみを見つけ、楽しみ方を見つけること自体がまた楽しくなって・・・
また別の日に、ちょっと変わったキリギリスを見かけました。
そのキリギリスも一生懸命ヴァイオリンを弾いています。しかしいろんなことを考えています。ヴァイオリンのおかげで、聴覚が発達したのでしょうか。ある日、みんなには聞こえないちょっとした異音に気づきます。それは嵐の予兆でした。キリギリスのおかげでみんなは嵐の備えができました。また、ヴァイオリンの練習を通じて、右手と左手を別々にリズムをとって動かすことが上手になりました。この能力は、機織りにも役立てることができそうだぞ。次の日からキリギリスは機織りもすることにしました。機織りを頑張ることで、バイオリンの技術上達にも役立ちそうです。
かしこいキリギリスはさらに、ヴァイオリンの演奏を通じて、どんな人が、どんな時に、どんな音楽を聴くと喜ぶのか、ということも学んでいきました。
冬がやってきました。雪が積もっています。
かしこいキリギリスも食べ物がなくなりました。アリは狭い地下の家の中で、じっと春が訪れるのを待っています。来る日も来る日も、狭い家の中でじっとしているので、さすがのゆかいなアリも辛くなってきました。
コンコンコン
誰かがドアをノックしています。こんな雪の日に誰だろう?
ドアを開けるとかしこいキリギリスがいました。
「みなさん、Stay Home も大変だよね。だんだん気が滅入ってくるよね。こんな時はみんなで歌おう。僕が演奏するよ」
アリたちは大歓迎です。そしてみんなで歌いました。
それはアリたちが大大大好きな曲でした。
気持ちが明るくなる曲でした。
春の希望を感じさせる曲でした。
少し踊りたくなるような曲でした。
「歌って踊ってお腹も空いたので、みんなで食事にしましょう。キリギリスさんもぜひご一緒にどうぞ。本当にありがとう」
フクロウは思いました。
このお話を人間の子どもたちにも聞いてもらおう。
将来に備えながらも、目の前のこと、身の回りのことの中に、自分なりの楽しさを見つけるようにしていると、何があってもゆかいに暮らせるね。
好きなことに真剣に打ち込みながらも、その過程で身についた技能や知識を、他の場面で用いると、そして人を喜ばせることを考えていると、かしこくなるね。
「君はゆかいなアリ? それとも、かしこいキリギリス?」
そしてこれから新しい楽しい話をつくっていきましょうね。