あの日食べたラーメンの味を僕たちは忘れない
神様が人間にくれた宝物は、忘れることができること。
これは一体誰の言葉だっただろう。
本の一文だったのか、映画のセリフだったか、全然別の何かか。
何にせよ、私の中でインパクトが大きかったので残っているのであろう。
実際、私たちは日々忘れてばかりだ。
おととい食べたお昼ごはん、何か思い出せる?
正直なところ、忘れていても構わないと感じる。
例えば私は完全体の凡人であり、色々な容量が少ない。
ミニマムなこと、おちょこの如し。
そのため、変によくばってたくさん持とうとすると容量不足に陥る。
そうなってしまうともうだめ。
自分でも気づかないうちに大切なデータが保存できていなかったりする。
なので、不要なことはすぐ忘れてしまうに限るのだ。
ご飯などはその極み。
しかし、そんな私にも忘れられないご飯がある。
あれはノビ夫とお付き合いして1か月くらい、2度目の車中泊デートのこと。
「綺麗な星を観にいこう」
というロマンティックが止まらない提案をもらい、
奈良県の山奥に行くことになった。
季節は11月の末、冬の始まりの山はとても寒い。
私とお付き合いする前から車中泊旅をしていたノビ夫は、山がひどく寒くなるのを知っていた。
あたたかい服や厚手のインナーなど、防寒のためのグッズはぬかりなし。
そんな中、それは密やかに積み込まれていた。
突然の情報だが、ノビ夫は食事に執着がない。
こだわりがある分、
“望まないものを食べるくらいなら食べない方がマシ”
というマインドでいる気がする。
そんな感じなので、
19時になったし夜ご飯の時間だ!などとソワソワすることがない。
そのように大騒ぎするのは圧倒的に私である。
この日も夕食を食べるそぶりもなく、
一人でおどるポンポコリン状態となった私はお菓子を摘み、しのいでいた。
付き合いたてでまだ少し遠慮があり、
「夜めし!夜めし!さっさと夜めし!」と騒ぎ立てるようなことができなかったのだ。
当時は遠距離恋愛だったので、集合して出発するのは自然と遅くなる。
無事山奥に着いたのは日が変わる直前。
コンビニもないこの場所では、狩り以外に食糧の調達などできそうにない。
今日の夕食を食べていないなんて気のせい!と事実を無理矢理ねじ曲げようとしている私に、ノビ夫が見せたもの。
それはインスタントの袋麺と、行平鍋と、カセットコンロだった。
「寒い中で食べるインスタント麺は、最高においしいよ」
そう言いながらさらに水のペットボトルと卵のパックを取り出すノビ夫。
コンロをセットし、鍋を火にかける。
火力が弱いので沸騰するのに時間がかかるけど、
夜空に雲が流れゆくさまを見ながら、それを待つ時間もなんだか贅沢。
やっと沸いたお湯に麺を入れ、ほぐす。
お皿はどうするんだろうと考えていると、なんと鍋から直接食べるという。
そんな経験は初めてでわくわくする。
付属のスープを入れ、卵を落として完成。
凛と冷えきった紺色の空気の中で、鍋から上がる湯気が白く揺れていた。
「いただきます!」
一口すする。熱さのあとに来る旨み。
さっきまで踊っていたのはポンポコリンだったのに、
その時、踊っていたのは心だった。
あいにく曇り気味で星はあまり見えなかったけど、雲間にのぞく少しの星と、時折光る月がきれいな空。
美味しいしか言えない私にノビ夫が満足そうに笑いかけた。
もし、忘れることが神様のくれた宝物だとしたら。
そうしようと思えばちゃんと覚えておくことができるのも、宝物だと思う。
あの日食べたチキンラーメンは、これからも私のメモリの中に残り続ける。
ノビ夫にとっても、そうであるといいな。
お読みいただきありがとうございました!
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