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貧しいから、豊かになれた。
コンプレックスの一つに”胸元の起伏が大変乏しい”というものがある。
それはずっとただの短所であり、私の中では恥ずかしいことだった。
* * *
その日、友人たちと高校時代の思い出話をしていた。
私の出身高校は体育祭で応援合戦を行い、各チームでその出来を競い合うというイベントがある。大体なんらかのジャンルのダンスが行われて、応援団はちょっと目立った振り付けで踊る。
私が高校3年生の時のチームでは、よさこいを踊ることになった。
当時の衣装係の子たちが気合を入れて選んだのは、上半身にサラシを巻いて、ボトムは黒のハーフパンツというスタイル。当日のみの衣装だ。シンプルでかっこいい。
私も応援団の一員だったので、サラシをまいてもらい、その非日常に浮かれていた。
いざ、本番。イントロが鳴り出す。
ダダダダ、ダン!
この最後のダン!のポーズを決めたとき、違和感を覚えた。
ん?と思ったが、音楽は止まらないので続ける。
ダダダダ、ダン、ダン!
ここではっきり違和感の正体がわかった。
サラシがゆるんでいる…!
私のささやかな胸元にまかれたサラシが、その凹凸のなだらかさにとどまる点を見つけられず、ずれてきていたのである。
かあさんがくれた、この胸元。
地球は周る、君を隠して…あーいや隠れてないよ、君は隠れてない。
脳内で忙しくボケとツッコミが錯綜する。
しかしこの応援がチームの得点対象となるため、踊るのをやめることはできない。
曲が盛り上がりを迎える。
ハレールヤー!ハレールヤー!
両手を広げ、天を仰ぐ壮大な振り付け。
1番ハレルヤなのは私の胸元だ。
とうとう引っかかるところを見つけられなかったサラシは、腰付近で情けなくとぐろを巻き、私は上半身下着姿で最後まで踊りきったのである。
最前列で。
踊り終わったあと、衣装係たちが意気消沈していたので謝ろうと歩み寄った。悪いのは私の胸元が至らないからだと伝えなくては…
声をかける直前、顔を赤くした担任の先生が鼻息荒く乗り込んでくる。
そして衣装係たちに向かって
「だからサラシはやめとけって言ったでしょう!」
と叫んだのである。
その勢いに言葉を失っていると、泣き出す衣装係たち。
「ごめんなさい…私たちがサラシって決めたから…」
些細な胸元が、人を泣かせる日がくるなんて。
普段から控えめな胸元が、ますます縮こまって消え入りそうだ。
「ごめんー!わたしの胸がないからー!」
と泣く私。現場は、カオスだった。
* * *
「高3の体育祭の思い出ってこんな感じ。
結局応援合戦で一位をとって、総合でも優勝したからよかったけどね!」
そう締めくくった私に、友人たちは大爆笑していた。
そんなに面白かったか?と自問自答していると
「いや、胸がないって表現が豊富すぎるでしょ」
…言われてみれば、胸がないという表現を言い換えることに関しては、驚くくらい機転がきくのだ。
それに気づいた私は、その後何かにつけては乏しい胸元をネタにするようになった。
「普通の人が山なら、私はなだらかな丘だよ!険しさは一切ない!蝶々でも飛ばしたいくらいの穏やかさ!」
「走って揺れる?ないない、無い袖は振れない、無い胸は揺れない。ゼロ・グラビティだね!Gのない世界!」
「もう少し主張してもいいと思うんだけどね、胸なんだから胸を張って。いじけてないで、さぁ!」
いずれも、実際に友人を崩れ落ちさせた言葉である。
もちろん誰にでも言えることではない。
打ち解けてきて"この人には言っても大丈夫、笑ってくれる"と思って初めて言えるネタだ。
仲の良い人が笑ってる姿って、見てて幸せだよね。
貧しい胸元があったから、笑いあえる豊かな時間が生まれた。
胸を必要以上に小さく追いやっていたのは、他でもない私だったのかもしれない。
* * *
自分自身が気にしているところって、
”拡大鏡が据えられてるのでは?”
と思ってしまうくらい、くっきり見えたりする。
でもコンプレックスに一番身近なのは間違いなく自分なので、近い距離で見えるのは当たり前なのだと思う。
そのコンプレックスが自分にとってマイナスな気持ちしか生まないのなら、目を逸らすのも悪くない。
我が夫、ノビ夫のことを好きになったキッカケの一つが
「長く生きたって人生はせいぜい90年くらいなんだし、逃げられることからは一生逃げ続けてもいいと思うよ」
という言葉をもらったことだった。
逃げてはいけない
向き合わなきゃいけない
乗り越えなきゃいけない
それは誰が決めて、誰に課したことだろう?
私の慎ましやかな胸元のように、楽しく付き合える方法が見つかればそれもよし。
手詰まりなら、無視してよし。
自分が一番楽なように、工夫して生きて良いのだ。
そう気づいたときに胸元にスッと風が吹き抜けたように感じたのは、きっと密な胸元を持っていないからではないはずだ。
お読みいただきありがとうございました!
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