ノベレコ通信【番外】 遂に有力仮説発見!データから考察するなろう短編有利の理由?
ここ数年のなろうランキングでは短編と異世界恋愛が強い
【Web小説サーチエンジン】ノベレコでは、月間単位で小説家になろうとカクヨムのランキングデータを取得している。
それによると、ここ数年で総合ランキングの短編比率が増大し、月刊ランキングの約半分ほどが短編になっているという。
そしてその大半が異世界恋愛短編であり、現在のなろうは女性向けロマンスサイトだ、と好意的にも批判的にも言われている。
二つのグラフを並べてみると、両者共に年々増えてきているのがわかるだろう。
二つのデータに相関があるかどうかを調べるには、散布図と相関係数を出してみるといいらしい。
その結果がこれである。
計算して出てきた相関係数は0.856。
ざっくりいうと相関係数が1に近いほどAが増えるとBも増えるので、
0.8あるのはなんとなくランキングの異世界恋愛率が上がるとランキングの短編率も上がると言えなくもない。
ランキングの異世界恋愛率と短編率に相関があるとわかった以上、気になるのは当然何故?である。
そこはこの数値からは解らない。
わかることは、ランキングに入っているということは、ポイントを入れた人がいるということである。
ポイントの特徴調査
小説家になろうのランキングシステムは単純である。
期間内に読者から集めたポイントがどれだけ溜まったかで多順ソートするシンプルな仕組みだ。
計算式もシンプルで、
ブックマークをすると2pt、
ユーザーが評価をすると2〜10pt、
読者一人当たり最大12ptを1作品に与えることができる。
ポイント入れた全員がブックマークと10点評価を行っている、という理想的な評価をしているならば、総合ポイントを12で割った数が評価者・ブクマ者になるだろう。
という訳で、今月(2024年6月1日付月刊)の各種ジャンルランキングの1位で調べてみた。
どれも評価者よりブクマ者の方が数倍多い。
どうも月刊ランキング最上位ともなると、評価する人よりもブックマークする人主体でポイントを稼いでいるようである。
……ところで、このジャンル月刊1位は全件長編である。
では、短編だけに絞った場合、月刊1位はどうなるか。
短編の月刊ジャンル1位、全てブックマーク者よりも評価者の方が多い!!
いやいやたまたまそういう作品が各ランキングの1位になってただけでは?という可能性も考慮して、ざっくりと複数ジャンルの全体で調べてみよう。
以下は2024年6月17日付の、各ジャンル月間ランキングの長編・短編上位100位までのデータから作った表である。
異世界恋愛(長編)
最大評価者数 :38026人(その時のブクマ者162814人)
最小評価者数 :35人(その時のブクマ者603人)
最大ブクマ者数:190519人(その時の評価者28149人)
最小ブクマ者数:318人(その時の評価者60人)
異世界恋愛(短編)
最大評価者数 :4368人(その時のブクマ者2639人)
最小評価者数 :736人(その時のブクマ者286人)
最大ブクマ者数:2655人(その時の評価者4356人)
最小ブクマ者数:217人(その時の評価者835人)
現代恋愛(長編)
最大評価者数 :17046人(その時のブクマ者125067人)
最小評価者数 :4人(その時のブクマ者69人)
最大ブクマ者数:125067人(その時の評価者17046人)
最小ブクマ者数:10人(その時の評価者11人)
現代恋愛(短編)
最大評価者数 :6287人(その時のブクマ者16174人)
最小評価者数 :12人(その時のブクマ者11人)
最大ブクマ者数:16174人(その時の評価者6287人)
最小ブクマ者数:4人(その時の評価者13人)
ハイファンタジー(長編)
最大評価者数 :43253人(その時のブクマ者137811人)
最小評価者数 :80人(その時のブクマ者508人)
最大ブクマ者数:250533人(その時の評価者42124人)
最小ブクマ者数:447人(その時の評価者104人)
ハイファンタジー(短編)
最大評価者数 :8685人(その時のブクマ者5003人)
最小評価者数 :34人(その時のブクマ者17人)
最大ブクマ者数:14801人(その時の評価者4377人)
最小ブクマ者数:10人(その時の評価者37人)
ローファンタジー(長編)
最大評価者数 :35992人(その時のブクマ者75036人)
最小評価者数 :22人(その時のブクマ者156人)
最大ブクマ者数:123617人(その時の評価者12814人)
最小ブクマ者数:130人(その時の評価者29人)
ローファンタジー(短編)
最大評価者数 :1892人(その時のブクマ者5270人)
最小評価者数 :3人(その時のブクマ者4人)
最大ブクマ者数:5270人(その時の評価者1892人)
最小ブクマ者数:0人(その時の評価者3人)
いやもう見事なまでに調査した主要4ジャンル全部で、
長編はブクマ者が、短編は評価者が、それぞれ反対極の数倍多いという傾向が出た。
ちょっと見やすくする為に、異世界恋愛とハイファンタジーを一つのグラフにまとめてみたものがこれだ。
異世界恋愛は評価者が7~8倍帯が飛び抜けて多い。
ブックマーク者よりも評価者の方が多い、それは言い換えれば、
ブックマークをせずとも評価を入れている人がいるということである。
上述の通り、ブックマークをするのと、評価の最大ポイントを入れるのとでは、後者の方が5倍のポイントを与えることができる。
つまり、ポイントランキングレースにおいて、評価を入れてくれる人1人は、最大でブクマだけする人5〜6人分の価値がある。
つまり、評価を入れてくれる人の方が多いジャンルになったからこそ、異世界恋愛短編は今なろうランキングレースにおいて、最大勢力を誇っているのだろう、という推測が成り立つ。
規模の調査:投稿量
以下は今までの画像と違い週間分のデータになる。
ノベレコで収集している小説家になろうの週間更新データなのだが、
異世界恋愛の更新量はローファンタジーとあまり大差ない。
ハイファンタジーと比べれば1/4程である。
更に異世界恋愛内部ではこうである。
異世界恋愛全体がポイントを満遍なくもらっているとかではなく、ごく一部の短編の部分の更にごく一部に大量にポイントが注がれていることが窺える。
規模の調査:ユニークユーザー量
小説家になろうでは、直近一週間分のユニークユーザー量を収集しているらしい。
それをジャンルごとに週間ユニークユーザー量上位100位まで収集し、ジャンルごとの読者規模を見てみよう。
異世界恋愛(長編)
異世界恋愛(短編)
現代恋愛(長編)
現代恋愛(短編)
ハイファンタジー(長編)
ハイファンタジー(短編)
ローファンタジー(長編)
ローファンタジー(短編)
ローファンタジー(短編)では59作品目で0が出ている。
作品個別のアクセス解析を見に行ったところ、0ではなかったので、
どうも仕様的に週間100ユニークアクセス未満は0になるらしい。
おまけ:推理(短編・長編総合)
1位は予想通り薬屋のひとりごとで、100位までの半分以上を締めている。
2位は6183なので20倍以上の差。
おまけ:空想科学(短編・長編総合)
おまけ:宇宙(短編・長編総合)
おまけ:VRゲーム(短編・長編総合)
SFの中でもやっぱりVRゲームが段違いで読まれているらしい。
このように、「読まれている」量だけならハイファンタジー長編の方が、異世界恋愛短編よりも多いと推定される。
つまり、ハイファンタジー長編よりも、異世界恋愛短編の方がランキング上位に上がってきている理由は、
「読まれている/いない」ではなく
「読んでポイントを入れてくれる人が多い」からである、と推測できる。
以上からの考察
ここまでの調査と考察をまとめると、こうなる。
では何故、読んでポイントを入れてくれる人が多くなると、短編優位になるのだろうか?
ランキングの特徴調査
今月1日の月間ランキングを見てみよう。
異世界恋愛
ハイファンタジー
これを見れば有力仮説は一目瞭然だ。
異世界恋愛では、ランクインしている作品の大半が1か月以内に投稿された作品で構成されている。
一方、ハイファンタジーでは半分以上が1年以上連載している作品で構成されており、ランキングの半分が先月と同じ顔ぶれで出来ている。
また、異世界恋愛では短編が6割超えなので当然分量も3万文字未満が多いのに対し、
ハイファンタジーでは50万文字超えもごろごろしている。
上述の通り、なろうのランキングは一人最大12ポイントまでを投入でき、
そしてそれが『期間内に』どれだけ貯まったかでランキングが決まる。
つまり、一時的にポイントが大量にやってこないとランキングに入れないし、次から次にポイントを入れる人がやってこないとランキングに居座り続けることは出来ないのである。
そして、長編のポイントはブックマークが主体で、短編のポイントは評価が主体である。
ここから推測できるのはこうだ。
ハイファンタジー等の長編主体のランキングは、ランキングに入った奴に継続的にブックマークが集まり続けることにより、流動性が比較的低いランキングを形成している。
異世界恋愛の短編主体のランキングは、評価を入れる層が一度に評価を入れランキングが出来、そしてその層がまた次の作品を読んで評価を入れるということで、流動性が高いランキングが形成されている。
非難している訳ではなく、原理的必然として、ブックマークを入れるという行為は「全てを読み切らなくとも」出来るものである。
数十万数百万文字あるような長編は、一気に読み終わることが出来るものではなく、従って、普通は序盤で気に入ったらブックマークして、読みすすめていって気にいることがあったり感動することがあったり、作者からせっつかれた時たまたまやってもいい気分になった時に評価を入れる、そのような受容のされ方をしているはずである。少なくとも記事筆者はそう。
その一方で短編は短編なのだから、即座に読み終わることが出来る。
そしてブックマークに保存して読み返しておきたい程のものではなくとも、読み終わった気分の良さから評価を入れることが出来る、評価を入れる習慣がある人間からはそのような受容のされ方をしているはずである。
つまり、「全て読んで」「評価を入れる」という行動を、当たり前に行える人が増えた結果、短編優位環境が出来たのではないか、という仮説が立つ。
全て読んで評価を入れる。そう文字にすると、なんとも理想的な話だ。
それが増えるということは、ランキングシステムが健全化されたと言っても過言ではないとさえ言えるだろう。
しかし大長編は原理的に全て読んで評価するを達成してもらうのは難しい。
流石に長編に対して全て読まない段階や始まったばかりの時点で期待票をガンガン入れることでランキングのジャンル多様性を取り戻そうなどと叫んでは、それこそランキングシステムの信頼性を崩壊させかねない話になってしまう。
幸い、今小説家になろうではランキングを「連載中」「完結済」「短編」で分離してチェックすることが出来る。
ジャンル別ランキングもちゃんと機能している。
総合ランキングとポイントだけが全てだと思わなければ、小説家になろうには広い世界が広がっているはずなのである。
スコップをしよう。
読んだ奴にはちゃんと評価を入れよう。
サイト内部だけで満足してないで、Twitter(現X)などで紹介とかもしよう。
そして、【Web小説サーチエンジン】ノベレコに、気に入った作品を登録し、レビュー等書いたりしてくれると嬉しいのである。
(結局最後は宣伝)
11月5日追記:何故2020年から短編優位環境にシフトしはじめたのか?
この記事では理由がわからないとしてデータをメインで扱ってきたが、
この記事の公開後、「2020年3月には評価用のUIの変更があったよ」という情報提供を受けた。
実際にデータを調べると、2020年3月と4月を境に、月刊総合100位に入る為に必要なポイント量が約5000ポイントも爆増しており、UIを変更したことで小説家になろうにおけるポイントの価値が変わってしまったことに疑いは最早存在しないだろう。
さて、その時に行われたUI変更とは具体的にどのようなものだったのか。
以上の記事から引用してくるとこのようなものであるらしい。
・作品閲覧中いつでも作品の評価をすることができるように
これはポイント数の爆増を直接的に説明できる。
それ以前は評価を入れるフォームは最新話の部分にしか置かれていなかったので、原理的に評価とはその最新部まで読んだ人が入れるものに偏っていたと思われる。
そうだったものが1話目から気に入ったりおねだりされたら入れられるものになったのなら、それは当然爆増するだろう。
しかしそれで得をするのは複数話読まないと評価を入れてもらえなかった長編である筈なのではないか。
何故最初から即座に評価を入れられる短編の方が優位になったのか?
・フォームから「評価」という語を完全に排除し、「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」のみへ
これが理由だと考えると、辻褄が合うのだ。
「評価」ではなく「応援」としてポイントが入るようになったと考えるなら。
筆者の体感の話ではあるが、短編はファンが作者につくものだ。
その作品一つを応援するよりも、新作を期待しています!になりやすい。
つまり、作品単体を「評価」するだけの基準はなくとも、
ポイントを入れて「作者を」「応援」する理由がある読者が
それが「評価」であることを意識せずに「応援」するようになったのなら、
短編の「作者が」「応援」されてポイントが入るようになったと考えられる。
つまり、今のランキングは「応援されるだけの人気がある」ものが上がってきている訳であり、
公式UIの宣言の時点で、「評価」のランキングではない訳だ。
この結果を以てあちこちで失敗だの衰退だの言われているが、私はそうは思わない。
正直な事を言うと上記の計算方法と機能で元から「評価」のランキングとはあまり感じていなかったので、
「応援」「人気」のランキングとして機能していると言うのは、むしろランキングとしては本意を果たした正常化であるとさえ言えるであろう。
強いて失敗したものがあるとするならば、ここ15年の間ずっと総合ランキングを最大の権威として扱ってきたこと自体であろうと筆者は思う。
再び言うが、総合ランキングとポイントだけが全てだと思わなければ、小説家になろうには広い世界が広がっているはずなのである。
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ランキングが権威として機能しなくなったとしても、人間は身近なところにもいる筈なのだから。
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