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時代劇風朗読台本「彼の地に咲く花ー我は還らんー」(4話/4話)5分
「朗読」としてありますが、会話の部分を複数人でやっていただいても構いません。また短編小説としてもお楽しみいただけます。
使用上のルール
・語尾変OK
・使用の際には下にコメントを残していただき、使用先で「(台本のタイトル)」 と「作者まつかほ」を明記してください。この記事のURLも併記してくださると嬉しいです。
・使用場所のリンク等をコメント欄に貼ってくださると私も聞きに行けるので助かります!
・BGMはご自由につけていただいて構いませんが、BGM作者様がいる場合には許可を取ってからつけてください。
・読めない漢字はご自分でお調べください。
原作「和風朗読台本 彼の地に咲く花(90秒)」を全4話 にしてお届けする、朗読用「彼の地に咲く花」の第4話「我は還らん」
第4話では、仇である島田とついに相見えた時政。
腕の立つ弟子たちを連れて戦いに臨むが、予想だにしない敵兵の出現に行手を阻まれる。
我は還らん・・・・・・私は(いつかあなたの元へ)還るだろう。
人物紹介
田山時政長秀:たやま ときまさ ながひで。戦の鬼と呼ばれるほどの剣術の達人。師匠である香月が亡くなった後、吉川の右腕として活躍する。いち姫の目付役もこなす。
吉川新九郎秀秋:よしかわ しんくろう ひであき。香月が仕えている領主。家族や家臣達をとても大事にしており、特に子供に甘い。慈愛の新九郎と呼ばれている。
香月藤次郎晴久:かづき とうじろう はるひさ。吉川の右腕。剣術、戦術ともに秀でており、他の家臣にも慕われている。少々変わり者。
奥方:本名は鶴。吉川の正室であり、いち姫の母。病弱だがその人柄で侍女や家臣達からの人望も厚い。物怖じせずに吉川に苦言を呈することもある。
いち姫:吉川と鶴の間に生まれた一人娘。人見知り気味だが、母の気の強さを引き継いでおり、時折侍女達を困らせる。好奇心旺盛。
島田勝三朗義光:しまだ かつさぶろう よしみつ。木村領攻略が思うように進まず、数々の非道な手を使う領主。恐怖での支配を好み、赤子だろうと平気で切り捨てる。
木村与一郎元忠:きむら よいちろう もとただ。かなりの策略家で、島田による侵略を最小限の力ではじき返す名領主。剣術の腕も立ち、領民からも慕われている。
以下本文
明朝、姫様が起きる前に俺たちは城を出た。腕の立つ弟子達を駕籠者に変装させる。誰も乗っていない乗物が2台。
俺はその横を走る。
襲ってくるとしたら途中にある竹林であろうと当たりはついていた。昼間でも薄暗く、人通りはほぼ無い。
竹林を半ばまで行ったところで、突然多くの殺気に囲まれた。みな、足を止め、空気が動くのを待つ。
「お主が鬼の時政か」
陰から現れたのは、俺の家族を切り捨てた島田だった。よほど雇った者達の技量に自信があるのか、隠れる気も無い。
「お主の話はわしもよく聞く。どうじゃ? わしの家臣にならぬか? 褒美は好きなだけ取らせるぞ?」
あの時と同じように、不気味に笑う。答えるより先に目の前に何かが飛んできた。すんでの所で躱す。後ろの竹に刺さったのは、手裏剣だった。
「忍びか」
島田が勝ったと言わんばかりに満足そうに言う。
「鬼を屠るにはこれくらいせんとな。お主を始末しておけばそこのいち姫もわしに従順になるだろうて」
俺の中で何かが弾けた。島田に向かって刀を抜くと同時に、理性で抑えてきた憎しみも刃に込める。
島田の陰にいた忍びどもが一斉に攻撃を仕掛けてきた。
ざっと数えて50の忍び。対してこちらは9人。
幸いだったのは、雇われている忍びに脅威を感じなかったことか。
金を惜しんだのか、手練れと言うにはまだ戦闘慣れしていないようだった。
これなら、弟子達でも十分に戦える。
しかし、やはり相手は忍び。いつもと違う戦い方に、みな苦戦しているようだった。
気づくと竹の間を月がゆき、立っているのは俺と島田、5人の忍びだけだった。近くでひとりの弟子が、息も絶え絶えに膝をついている。俺の一番弟子だった。
「私が隙を作る。その間にそなたは城へ戻るのだ」
小声で言った俺をはっと見上げた弟子に、笑顔で言う。
「今日からそなたが姫様の目付役だ。しっかりと、お守りするんだぞ」
返事を待たずに島田と距離を一気に詰める。忍びどもが応戦してきたが、あちらも息が上がっているようで既に戦意はほとんど無く、あっという間に切り捨てる。
しかし最後の忍びを切る瞬間、相手の忍刀(にんとう)が腹に突き刺さってしまった。急所は避けたものの、疲れで踏み込みが甘くなってしまった。着物が真っ赤に染まる。
腹から忍刀を抜き、刀を持った島田と対峙する。この傷ではどちらにしろ助かるまい。
最後の気力をすべて刀に注ぐ。
体が熱くなる。ざわざわと竹が揺れた。島田が一歩引く。
「き、貴様は人のなりをした鬼じゃ・・・・・・! 鬼は・・・・・・退治してくれる!!」
声を上擦らせた島田が突っ込んできた。その震える刀は俺に触れることなく、地面に落ちた。
島田の腹から横一文に血が噴き出す。
「・・・・・・家族の仇、この田山時政長秀が、今、討ち申した・・・・・・」
どさりと膝をつくと、一気に汗が噴き出した。息ができなくなり、地面に倒れる。
あやつは城へ戻れただろうか。
少しは香月殿のような武士に、なれただろうか。
姫様はお怒りになるだろうな。
できれば、姫様のお顔をもう一度・・・・・・見たかった。
優しく頬を撫でた風に懐かしい匂いがした。
重くなった目をうっすらと開けると、薄紅色の大樹が頭上に広がっている。
花の間を三日月がすり抜けてゆく。
竹は1本も見当たらず、俺と大樹しかその場にはなかった。
鬼と呼ばれ、多くの命を奪った俺にとって、なんと誉れ高い最期だろうか。
こんな俺でも、あなたを守ったひとりの人として、最期はいられただろうか。
桜が大好きな姫様のおそばへ、できることなら、還りたいものだ・・・・・・。
血のついた花びらが強い風に吹かれて、天高く舞い上がる。
城で、無事逃げ帰った弟子から事のあらましを聞いていた殿様と姫様の元に、数枚の花びらが舞い降りた。
「時政!」と叫ぶ声が、月夜に溶けた。
(終わり)
台本解説
鬼として戦い、人として散った第4話。その魂は、どこへ還るのか。すべては月のみぞ知る。
全4話に渡りお届けした時代劇風朗読台本『彼の地に咲く花』
お楽しみいただけたでしょうか。
お時間ありましたら感想をコメント欄にて教えてください。
時政の最期のシーンはこちらの90秒版にて、より詳細な台本になっております⬇️
時政といち姫の最期の会話はこちらの台本から⬇️
戦国豆知識
時代劇などでよく見る駕籠。
大名など身分の高い人が乗る、装飾が施され引き戸のついたものは乗物と呼ばれた。
また、何人で担ぐかによっても呼び名が変わり、担ぐ人は駕籠者と呼ばれた。
庶民の駕籠は、装飾や引き戸がついていない物で、町駕籠などと呼ばれ、担ぐ人は駕籠舁と呼ばれた。
背の高い西洋人が日本に来るようになって、椅子駕籠というのが考案されたが、それでも不満は多く、後に駕籠は人力車に取って代わられ廃れていった。
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