[5分連載小説]賭博探偵-香港の100万ドルの夜景-
賭博探偵 -香港の100万ドルの夜景-
私の名前は、雨水雫。25歳の、女性探偵だ。予期せず、国のメインAIに、将来のカジノチャンピオンになると、預言され、カジノの味を覚え始めた、駆け出しの、プレイヤーだ。
私は、自分の事務所を、持って居ない。何時もの様に、EXCELCIOR CAFE®︎で過ごして居た。Mercari®︎で、ストレートアイロンを購入しようと、物色して居た。秋雨の季節は、癖が出てしまう。直毛に、憧れて居た。
私の元に、公営ギャンブル協会の漆黒会長より、messenger®︎で、連絡が来る。私は、LINE®︎をやって居ないので、SMSと共に、私の唯一の、連絡手段だ。
「虎ノ門病院で、君の助けを待つ依頼人が、居る。明日の、16:00時頃、私と共に、見舞いに行って欲しい」との事だった。
私は、会長に、「分かりました」と返信し、翌日、虎ノ門病院を訪ねる。
「待って居たよ。賭博探偵。」
会長が、病院フロントロビーで、私を、出迎える。
「賭博探偵と名乗った事は、ありません。お世話になっております。」
会長と私は、呼吸器内科の入院患者、霞氏を、訪ねる。会長が、「調子はどうかね。」と声を掛ける。霞氏は、「未だ暫く入院だよ。」と返す。
会長が、話し出す。
「依頼主は、この霞氏でね。彼は、三菱商事で、世界を、飛び回った、商社マンなんだが、引退して、肺炎を患ってしまった。」
「そこでだ。彼の、思い出の、香港の100万ドルの夜景を、君に、撮影して来て欲しい。」
日本では、総合商社が、産業スパイすれすれの、情報収集をして居る。JICAや、JETROと協力して、世界各国から、情報を集めて来るのだ。彼は、民間のインテリジェンスだったのだろうと、雨水は思う。
霞が、口を開く。
「香港は、旧イギリス領だ。先ず、情報収集の為に、今年、新しく、香港に作られた、高層カジノに行くと良い。」
今まで、香港には、カジノはなく、近隣のマカオが、世界一のカジノとして、名を馳せて居た。一国二制度の下、中国政府は、香港に、新たな娯楽地を建設した。それが、このカジノ、と言う訳だ。
会長が、口を挟む。
「君の、カジノ修行の、始まりになるだろう。合法カジノを、十分に、楽しんで来て欲しい。」
私は、会長と、アイコンタクトし、霞氏の手を取り、「任せて下さい」と言った。
カジノ修行も、楽しみだったが、今、目の前にいる病人に、少しでも、勇気と、元気を与えられるなら、私は、その為に働きたかった。
目の前にいる人を、大切に。私が、この仕事を始めて、一人、一人の、依頼人の、事案を解決する度に、強くして来た、人生観だ。
身の回りの人を、幸せにする事から、本当の利他と、共生が、生まれる。自分の欲望だけではなく、社会や、人々の役に立って居ると、実感して居たい。
私は思う。これからも、誰かの為に、生きていきたい。自分だけでは、この広い世界は、余りに、巨大で、空っぽだ。
2日後、私は、スーツケース片手に、成田空港に居た。成田発の、香港行きHK Express®︎旅客機に、搭乗する。
約5時間のフライトを経て、私は、香港国際空港に降り立った。
香港国際空港は、1998年に完成し、ノーマン・フォスター卿の設計によるもので、香港建設業協会に、20世紀の建設成果トップ10の1つに選ばれ、高速道路・鉄道・橋によって、香港都市部と、結ばれて居る。
カジノがある香港島へ、MTRエアポートエクスプレスで、30分掛けていく。
MGM Hong Kongという、世界有数のカジノ企業、アメリカのMGM社が、建設した摩天楼の様なビルは、1階の、カジノ・レストラン、2階から5階の、ショッピングモール、6階以上の、ホテルで構成されて居る。このビル一つで、飲食、宿泊から、カジノまで、丸ごと楽しめる、複合施設だ。
私は、カジノの横のバーで、景気付けの一杯を、貰う。カクテルの、マンハッタンを口に含む。マティーニが、カクテルの、王様なら、マンハッタンは、カクテルの、女王だ。
カジノフロアに赴くと、その巨大さと、監視カメラの数に、圧倒された。顔チェックのみと聞いて居たが、パスポート提示を、求められた。日本人の、私は、香港人から見ても、若く見えるのだ。
情報は、偏在する。有名所に、情報は集まる。私は、どっぷり太った常連と思われる、壮年男性の客に、このカジノ一番の有名人は誰か、尋ねた。
すると彼は「回転盤のスピナー、龍華麗は、世界一の、スピナーだ」と胸を張って、答えた。
龍は、私と、それ程、歳が変わらない27歳だが、その技術は、世界一と称され、彼女に勝てるプレイヤーは居ない、と言う。
私は、最も、人が集まって居る、ルーレットに近づいた。多くの歓声の中、louis vuitton®︎のスーツを着こなし、長髪を耳に掛けた、整った目鼻立ちの、女性が、スピナーをして居た。
私は、席に座り、英語で、問い掛けた。
「貴方が、龍華麗ですね。」
龍は、私を一瞥すると、待って居たかの様に、英語で、答えた。
「噂の、日本人ね。」
私は、問うた。
「噂とは?」
龍が、返す。
「日本のAIが、将来、カジノのチャンピオンになると、預言したと言う。面白い。私の台で、遊んでみない?」
「私は、100万ドルの夜景を、探して居るの。貴方は、ご存知?」
龍は、微笑する。
「貴方は、私に、絶対に、勝てない。その謎が、解けたら、教えてあげましょう。」
私は、宣言する。
「凄い自信ね。乗りましょう。」
ルーレットのルールは、次の通りだ。
カジノディーラーが、ルーレットのウィール(盤)を回し、ボールを投入する。
プレイヤーは、ボールの落ちる番号を予測し、賭け金(チップ)をテーブル上の数字などの、賭け枠に置く。
ボールが入った番号が、当選番号となり、外れたチップは回収され、当たったチップに、順次配当が付けられる。配当の倍率は、賭け方によって異なる。
第1ゲームが、始まる。
私はOdd(オッド)・Even(イーブン)で、Odd(奇数)の目が出る方に、300ドル賭ける。勝率は50%、配当は2倍だ。
お手並み拝見、そう言う様に、龍は、ルーレットを回した。
ボールの回転が、遅くなる。ルーレットのホイールは、1から36と、0の、計37個で形成されている。
ボールが更に、遅くなる。30...18...9...32...5と転がり、18で止まる。
赤の、18。
偶数だ。私の300ドルは、没収される。
龍が、微笑する。
「残念ね...口ほどにもない。」
第2ゲームが、始まる。
龍が、挑発する。
「当てずっぽうで私は倒せないわ...辞めた方が、良いわよ。」
私は、無視する。挑発に乗っては、いけない。
Dozen Bet (ダズンベッド)で1st 12(1~12の数字)、2nd 12(13~24の数字)、3rd 12(25~36の数字)のグループごとに賭ける方法で、1st 12(1~12の数字)に、300ドル賭ける。配当金は3倍。勝率は33.3%。
龍が、ルーレットを、スピンする。
先程よりも高速でボールが回り、急に、減速する。2...34...28...4...17と転がり、止まる。
黒の、15。
2nd 12(13~24の数字)だ。私の300ドルが、没収される。
確かに、此のスピナーは強い。まるで、数字を、避けて居る様に思える。
龍が、問い掛ける。
「まだ...続けますか?」
私は、答える。
「勿論。」
第3ゲームが、始まる
私は、保守的に、High(ハイ)・Low(ロー)で、賭ける。Highの数字(19~36)、Lowの数字(1~18)のどちらかに賭ける方法で、配当金は2倍。Highの数字(19~36)に、300ドル賭ける。勝率はまた50%。
「無駄よ...」
龍が、ルーレットを回す。
5...9...18...27...36と転がり、15で止まる。
黒の、15。私の300ドルは、また、没収される。
流石に、強すぎる。第3ゲームの、此処まで、龍が、無敗の確率は50%×33.3%×50%=8.3%だ。しかも、第2ゲームと、同じ、黒の、15だ。狙い通りとしたら、凄まじい、テクニックだ。
龍が、終幕を、告げる。
「サーカスは...楽しんで頂けましたか?」
CIAは、自分たちのことを会社、カンパニーという。サーカスとは、MI6の、隠語だ。
私は、呟く。
「MI6か...」
龍が、私と変わらない年齢で、世界一のスピナーまで、出世して居るのには、理由が、ある。実力が有るか、コネを持って居るか、その両方か、だ。
彼女は、確かな実力(スピナー技術)と、コネ(MI6の情報網)の、両方を、持って居る。世界一の、スピナーと、言われる訳だ。
私は、病室の、霞氏の顔を、思い浮かべる。元気にして、あげたい。勇気を、与えたい。絶対に、諦めない。
その時、霞氏の言った言葉を、思い出す。
「香港は、旧イギリス領だ。」
イギリス...MI6...100万ドルの夜景?
私は、答える。
「成る程ね。」
龍の眉毛が、一瞬、ピクッと動く。
第4ゲームが、始まる。
私はStraight Up (ストレートアップ)で、1つの数字に絞って、賭ける。配当金は36倍。勝率は1/36だ。
私は、宣言する。
「黒の、6に、所持金、1,100ドル、全て、賭けるわ。」
龍が、問い掛ける。
「正気、ですか...?」
私は、龍を、まっすぐ見て、頷く。
龍が、スピンする。
19...26...2...12...3と転がり、まだ、ルーレットは、回り続ける。
7...33...16...ルーレットが、徐々に減速し、止まる。
黒の、6。
私は、配当金39,600ドルを、受け取る。
龍が、呟く。
「1回だけ、なら...まぐれ。2回なら...実力。」
私は、答える。
「次のゲームは、黒の20、その次のゲームは、黒の15、その次は、赤の16よ。」
私は、続ける。
「貴方が、規則的に、ボールを止めて居る事が、分かった。そして、イギリス=英語で、気付いたのよ。此れは、アルファベットだ。ボールが止まった数字順に、並べると、18(第1ゲーム)、15(第2ゲーム)、15(第3ゲーム)、6(第4ゲーム)。これを、アルファベット順に、当てはめると、18=r、15=o、15=o、6=f。」
「roof=屋根と言う、意味になる。」
「その後に、これから続く、スペルは、t=20、o=15、p=16。rooftop(屋上)で、単語は、完成する。100万ドルの夜景は、此のビルの、屋上に有る、と言う事。」
「そして、貴方が、私は、絶対勝てないと言った謎は、貴方は『狙った所にボールを落とせる』から。貴方は、ルーレットを、思う様に、動かせるスピナー。だから、世界一の、スピナー。」
龍が、苦笑する。
「完敗だわ...英語の、スペルである事、私が、狙った所に、ボールを動かせる事に...気付いて居たのね。約束の夜景は、此のビルの、屋上にある。」
「今日は、其処まで...ついていらっしゃい。」
雫は、スマートフォンを片手に、ビルの屋上に、龍と、立つ。午後20時から13分間に渡り、九龍半島と、香港島の間の湾、ヴィクトリアハーバーが、光のショー、シンフォニー・オブ・ライツ(幻彩詠香江)で、ライトアップされる。雫は、100万ドルの夜景を、確かに、その手に、収めた。