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[5分連載小説]賭博探偵

あらすじ

探偵業を営む、25歳の女性、雨水雫うすいしずくは思って居た。何故、こんな仕事をして居るのだろう?
自分の事務所を持たず、カフェで、クライアントに面会する形態をとる、彼女の元に、1人の、紳士が現れる。
紳士は、裏カジノの実地調査のボディーガードに、雫になって欲しいと言うが...

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雨水雫

賭博探偵

私は、考えて居た。探偵なんて、怪しい商売だ。小説に登場するのは、何時も、ハンサムか、一癖も二癖もある、変わり者の探偵たちだった。
では何故、探偵をして居るのだろう。其処に物語性、つまりロマンがあるからだ。探偵は、セクシーだ。其処に独特の、雰囲気と、生き様がある。此れが、私が、探偵をして居る理由。
私の名前は、雨水雫うすいしずく。25歳女性。この世界に、足を踏み入れて、5年。色々な事が、あった。両親が離婚した子供を守る依頼から、昔生息して居た花を採取してくる依頼まで、様々な「雑用」が、私を、忙殺していった。
探偵とは、普通、自分の事務所を、持って居るものだ。だが私には、特定の事務所は、ない。その代わりDOUTOR®︎やEXCELCIOR CAFE®︎、CAFFE VELOCE®︎に駐在して居る。「会いに行ける、探偵」それが、私の、セールスコピーだ。
私は、自身のホームページに、行きつけのカフェを明記しており、Gucci®︎の高級スーツ姿で居る事を知らせ、依頼人は、其処で私を見付け、仕事を依頼するというシステムだ。
カフェは、良い。特に、安いチェーン店は、一杯でも、長く居られる。私の相棒、煙草のMarlboro®︎のブラックメンソール8mmを口に含み、喫煙ブースで、静かに、物思いに耽る。この時間は、誰にも邪魔出来ない、私だけの、時間だ。
自席に戻ると、1人の紳士が、客を探す様に辺りを、見回して居た。
私は、片手をあげる。紳士が、近付いて来る
「珈琲探偵さんだね。」
「その様に名乗った事は、ありません。通称です。探偵の、雨水です。」
紳士は、席に腰掛ける。短く切り揃えられたオールバックの髪、整えられた髭、鷲のような、高く大きな鼻、射抜かれるような大きな眼、身長はそれ程大きく無いが、黒い高級スーツを着こなし、圧倒的なオーラを放って居る。
私は一眼で、直感する。只者では、ない。

紳士が、口を開く。
「公営ギャンブル協会会長の、漆黒しつこくと言います。何というか、今回の依頼は、私の、ボディーガードのようなもので。」
「貴方の、ボディーガード?」
「我々は、銀座の有る高級時計店の地下に、国内最大級の裏カジノがある事を、突き止めて居ます。会長の私自ら、其処に赴き、実地調査をしようと考えて居る。貴方には、同行願いたいのです。」
「セキュリティーを雇えば良いのでは無いですか?」
「屈強なセキュリティーでは、店側は、直ぐに気付き、警戒してしまう。今日会って、確信した。比較的細身で女性の貴方が、威圧感も与えず、適任だ。」
「会長自ら、赴く程の山なのですか?」
「私は、現場主義でね。ただ今回の件は、協会内にも極秘だ。というのも、内部に虫が、いるかも知れなくてね。内通者に、気付かれたくないので、あくまでも非公式のプライベートでの訪問、という形をとる。」
「危険なのですか?」
「内部にも、内通者がいる点では、危険だが、ギャンブル自体は、命を賭す様なものではないと聞いている。大丈夫でしょう。」
私は、少し考える。私に、ギャンブルの経験はない。何故、私に依頼して来たのだろう。セキュリティーも、細身の威圧感を与えないボディーガードを選んで、手配すれば、良いだけだ。私は、疑問を呈する。
「何故、私に依頼して来たのですか?細身で威圧感を与えないだけ、ですか?」

漆黒は、言葉を選ぶ様に返答する。
「君は、他国のインテリジェンスとも、指しで向かい合った事があると聞く。その胆力が、必要なんだ。」
私は、仕事柄、他国の諜報機関とも、鉢合わせる事もあった。会長は私がCIA米国中央情報局FSBロシア連邦保安庁とも会った事が有る事を、知って居た。
「誰から、その話を?」
「警察から、だよ。我々は、警察当局とも、密接に連携して居る。」
それ以上、私は、その話を、したくなかった。本来、人に話す事ではない。
「分かりました...お引き受けしましょう。」
漆黒は、小さく「ありがとう」と言った。
私たちは、其処で別れて、帰宅後、私は、漆黒会長について、少し調べた。元々ディーラー上がりで、マカオや香港、ラスベガスでフロアマネージャーを務めた程の男だった。
だが、疑問が一つ、消えなかった。
何故、私なのか?
私は、考えるのを辞めた。この仕事には、謎は付きものなのだ。むしろ、謎が有るから、私の仕事がある。

3日後、私と、漆黒会長は、銀座のコリドー街で、落ち合った。
私は、彼のMercedes Benz®︎で、現場に行く。1階は、有名外資ラグジュアリー時計店で、地下に、会員制バーがあった。
会長は、白日はくじつという偽名で、同じく会員証を入手した私は、夕立ゆうたちの名で、祖父と孫の設定で、入店する。
店内は、高級酒が立ち並び、突き当たりのブースに、10数台のテーブルとディーラー、ゲームを嗜む客2〜30人が居た。
ゲームは、銀行賭戯バカラで、裏カジノの定番だ。私は、バカラの経験が無いので、会長が先ず、ゲームをする手筈だった。
バカラのルールは、シンプルだ。親(バンカー)が勝つか子(プレイヤー)が勝つか、賭けるだけ。イーブンになる事もあるが、勝率はプレイヤー44.62%、バンカー45.86%だ。基本的に、約50%の勝率だが、このシンプルなゲームに、世界中の富裕層は、熱中する。
「バンカーだな。」
テーブルに着くと同時に、会長は、親に賭けた。未だ1枚も、カードも、配られて居なかった。
私は何故?と会長に問いかけると、彼は、まぁ見ていなさいとだけ答えた。
カードが配られ、親が勝つ。会長は、2倍配当の400,000円を受け取る。
「バンカーだ。」
今度も、カードが配られる前に、会長が、告げる。私は、ゲームを見守る。

再び、親が勝つ。会長は、400,000円を、受け取る。
「私が、何をしているか、分かったか?」
私は、戸惑う。
「少しも、分からない。」
会長が、解説する。
「1ゲーム目、最初にどちらが勝つかは、運だ。でも、2ゲーム目で、再び親が勝つ確率は、50%×50%で25%だ。普通、次は子が勝つと、考える。素人は。だが、私たちは、大きな流れを、読む。今の流れは、ディーラーが親を勝たせようとしている流れだ。」
私は、質問する。
「25%の勝率なのに?」
会長は、即答する。
「それが、確率の罠だ。数字だけ見て居ても、分からない。例えばポーカーで、ロイヤルフラッシュが出る確率は1/360,000だが、出る時は出るんだ。やってみなさい。」
「どうやって?」
「それを考えるのが、君の、課題だ。」

ディーラーが、苦笑する。
「素晴らしい講義ですね。白日様。」
会長が、返答する。
「いや、彼女に、ギャンブルを教えようと、思ってね。習うより慣れよだよ。」
第3ゲームが始まる。私は、会長の様に即決は、しなかった。会長は、ディーラーが親を勝たせる流れがあると、言って居た。つまり、やはり、ディーラーはカードをコントロール出来る、という事だ。
私は、ミニマムベット100,000円だけ賭けた。ディーラーは、不服そうだったが、会長は、微笑んでいた。
「バンカーで。」
子が勝ち、私の100,000円は、没収された。
第4ゲームが始まる。再び、私は、ミニマムベット100,000円だけ賭けた。
「プレイヤーで。」
今度は、親が勝った。ディーラーは、満面の笑みだったが、会長は、何も言わなかった。私は、一呼吸して、静かに言った。
「成る程ね。」

ディーラーが、怪訝に、私を睨みつけた。警戒しているのだ。
私は2つのゲームで、ディーラーの癖を見て居た。カードの配り方・スピード・手の動きと速さ・呼吸の浅さと深さ、そして、僅かな汗の匂い。私は、自分の緊張と汗を、知られたく無いと思い、Dior®︎の香水を、左手首に吹きかけた。深呼吸する。
第5ゲーム、ディーラーが、カードを配る。私は、即答した。
「バンカーが、勝つわ。」
今までの4ゲームで、親が勝つ時、ディーラーは最初の親側のカードを、ゆっくり配っている様に見えた。まるで、肉食動物が、草食動物を、誘い込む時の様に。
親が勝ち、私は、400,000円を手にした。
徐に、会長が、呟いた。
「頃合いだな。私の所持金、全て、君の次のゲームに、預ける。」
ディーラーの耳元が、微かに動いたように、見えた。疑念が、確信に変わった表情をして居た。ディーラーが、肩をすくめる。
「私の癖を、読みましたね。」
私はまさか、とお世辞を言い、会長が渡した800,000円と第5ゲームの賞金400,000円を、全て賭ける。
第6ゲーム、ディーラーが、1枚目のカードを、配る。今度は、親・子同時に同じ強さ・スピードで、カードが、配られた。

私は、ディーラーに、宣言した。
「もう、カードを、コントロールして居ないわね。私が、読み取ったから。」
ディーラーが、感心する。
「大したお嬢さんだ。素質が、ある。運だけなら、如何なされますか?」
「バンカーが、勝つわ。」
カードが配られる。親の、勝ち。
ディーラーが、問い掛ける。
「何故、分かったのですか?貴方の、運が。」
私は、安堵し、応える。
「理由は2つ。1つ目は、2連続親勝ちが25%の勝率なら、普通は、子に賭ける。だから、反対に、親を貫いた。彼から、学んだの。もう1つは、貴方はコントロールを諦めても、癖が分からない様にカードを、誘導すると思った。その場合、ディーラーのプライドから、親が勝つ様に仕向ける。ディーラーは、親だから。この2つから、私は、親に賭けた。」
会長が、答える。
「素晴らしい。」

セキュリティーの男が、近付いて来て、告げる。
「公営ギャンブル協会会長の、漆黒様ですね。」
会長が返す。
「何時、気付いた?」
「我々の情報網は、警察を、上回る。奥の部屋に、来て貰います。」
会長が、告げる。
「この娘は無関係だ。彼女は、帰してやれ。」
会長は小一時間して、帰って来た。私を、庇ってくれた。後で知った事だけど、ハンドガンを、携帯して居たらしい。
私は、開口一番、謝った。
「貴方のボディーガードとしての役割を、果たせなくて、申し訳ございません。報酬は、受け取れません。」
会長は、口を開いた。
「良いんだよ。未来の、チャンピオンと、ゲームが出来た。」

「未来の、チャンピオン?」
会長は、説明する。
「国のメインAIが、君、雨水雫が、将来、カジノのチャンピオンになると、預言した。それで今日は、君の才能を、確かめに来たんだ。」
「AIが、そんな予想を?でも、何故?」
「何故かは、分からない。しかしAIは、言った。将来、その子は、歴代最強のチャンピオンになると。」
「それが...私ですか?私は、しがない唯の...探偵です。」
「今は、ね。ただし、是れから先は、分からない。公営ギャンブル協会の、チャンピオンシップ2025の招待状を送るから、興味があったら、いらっしゃい。」
私と会長は、別れた。
私は、自分の運命について、考えて居た。何故、私が、カジノのチャンピオンに、なるのだろう?才能と能力は、AIが、見抜いてしまうものなのだろうか?AIが言ったら、其れは、本当なのだろうか?
しかし、今日確かに、ギャンブルの楽しみを、私は、覚えて居た。適切に扱わなければ、身を滅ぼす。賭け事は、危険と、隣り合わせだ。
だが、自らの直感と、テクニックと、経験で、勝負を、切り開いていく。
私は、思った。ギャンブルは...面白い。秋風が、応援する様に、私の頬を、撫で過ぎ去って行った。

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