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[ホロライブ同人小説]:『ホロゲート』第4章

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第4章 聖魔の妖刀

 フブキとミオは事件当日に音信不通となってしまったあやめを探すため、故郷である妖錬の里を訪れていた。妖錬の里は妖の血を持つ者が自分の中に眠る“邪悪な妖”に支配されないように幼少期より心・技・体を鍛える場所であった。妖の血はとても強力な力であった。しかし、これを制御することは容易ではなく、幼少期より血の支配を受けないように心・技・体を鍛えていた。また、それらの伝統や歴史を継承するのが里の役割であった。

 ミオ「目撃情報によるとあやめは里に帰って来てるんだよね?でも、なんで連絡くれないんだろう?」

 フブキ「多分、あやめも影響を受けてるんじゃないかな。もし、そうならあやめを取り押さえないといけないかも。」

 あやめを探しに来たフブキたちにもシオンによって、ちょこの安否確認の連絡が伝わっていた。

 ミオ「あやめは強いから うち、不安だよぉ。」

 フブキ「ミオ、弱音を吐かないで。ミオだってちゃんと里を卒業したんだから自信持って。」

 ミオとフブキは軽い談笑をしながら里へ着いた。里の掟で里に着いた2人は長老へ挨拶をすることとした。長老にあいさつを終え、ホロワールドでの事の一端を話した。また、長老によるとあやめは里に帰って来ているのを里の者が見たそうだ。ただ、掟である長老への挨拶はまだ来ていないという。

 ミオとフブキは休憩のため里で夕日が一番きれいに見える物見やぐらで夕日を見ながら休息を取っていた。

 ミオ「今日は里の大人たちがみんな出払ってるんだって。」

 フブキ「じゃあ、2人で探すしかないね。少し休憩したら行こう。」

 フブキは焦っていた。妖の血は夜の間が一番力を増す。あやめは自我を失っているため妖力に支配され、邪鬼になってしまう可能性があった。また、里の大人たちは事件を知らなかったため、明日行われる「妖酒の祭り」の準備で出払っていた。日が沈み数刻後の事だった。里の西側から光の柱が上がったのを物見やぐらにいた2人が気づいた。それと同時に2人は膨大な妖力を感じ取った。フブキとミオは同じことを思った。顔を見合わせ、すぐに光の柱へ向かった。2人は言葉を交わさなかったがお互いに確信をしていた。里の西側にある封魔結界が破られたことを悟っていた。

 物見やぐらから10分ほど走り、封魔結界がある里の西側に着いた。そこには禍々しい妖刀を持ったあやめの背中があった。

 ミオ「あやめ!封魔結界を破ったの!?その妖刀はもしかして…。」

 フブキ「実物は初めて見たけど、妖力で分かる。あれは『妖刀―邪鬼』(ようとう―じゃき)!」

 里から離れたところにある封魔結界はこの『妖刀―邪気』を封じ込めるための結界であった。『妖刀―邪気』は古来、妖力に支配されてしまった鬼が使用していたもので多くの命を奪った刀である。それゆえに多くの妖力を纏っているため里の者でも鞘から刃を抜くと妖力に支配されてしまうというものであった。そのため、容易に持ち出しができないように封魔結界が施されていたのである。あやめは歴代の里の卒業生の中でも屈指の実力者であり、“天才”と称されるほど逸材であった。そのためか、自我を失っていたあやめは封魔結界をたった一人で破ってしまったのである。

 フブキ「あやめ。その妖刀は危ないの。こっちに渡して。」

 ミオ「あやめ!」

 あやめはまだ妖刀を鞘に納めていた。あやめは2人に問いかけに対して反応を見せ、こちらにゆっくり振り返った。しかし、ニィっと笑ったかと思うと胸の前に鞘に収まった刀を水平に構え、右手で鍔を持ち、左手で鞘を持って抜刀の動作に入った。フブキは既にあやめの懐に入っていた。あやめに悟られることなく十数メートルの距離を一瞬で詰め居合の体制に入っていた。フブキのこの距離で放たれる居合はあやめが鞘から刀を抜くより早いことは明白であった。フブキは先天的に優秀ではなかった。優秀ではなかったフブキが“天才”と称される同期や後輩と対等でいるために習得したのが剣技である。この“神速”と謳われる剣技はフブキにしかできない唯一無二の技であった。あやめはこの“神速”を鞘に入った妖刀で受け止めた。透かさずフブキの“神速”に合わせあやめの背後に回っていたミオが抜刀を封じるように両手で鍔と鞘を押さえた。あやめは鞘から刀を抜こうと藻掻くが2人がかりで抑えていたためできなかった。フブキとミオは次にあやめの意識を奪うべくフブキが体勢を変えようとした。その時、あやめが狂気的な叫び声を上げた。その咆哮には妖力帯びた覇気が乗り、正面にいたフブキはその妖力をもろに受けた。フブキは一瞬だけ意識が遠くなり、足元がグラついた。その隙を見てあやめは正面で力を加えているフブキを蹴り飛ばした。フブキは数十メートル後方へ飛んだ。

 ミオ「フブキ!」

 ミオがフブキの身を案じた際にわずかながらに抑える力が緩んだ。あやめは後ろからホールドしていたミオを背負い投げのの要領で投げ飛ばした。ミオもまた、フブキと同様に投げ飛ばされた。

 フブキ「だ、大丈夫?ミオ?」

 みぞおちを蹴られたフブキが息を詰まらせながらミオに尋ねた。しかし、投げ飛ばされたミオはあやめの方を見ており、驚愕した様子であった。フブキもあやめの方へ目をやる。そこには妖刀の鞘を抜いたあやめが立っていた。その表情は笑っており、2人に恐怖を感じさせた。妖刀は百数十年前にも一度抜刀されたことがある。その時は里の大半が犠牲となった。当時、抜刀したのは里を卒業できなかった劣等生であった。妖力はとても強力な力ゆえに妖力を持って生まれた子供は幼少期より、この里へ入り妖力をコントロールする術を学ぶ。そして、妖力のコントロールができるようになり、一人前となった者は“卒業”として里を出ることが許された。しかし、その子は周りが卒業していく中で自分だけが卒業することができなかった。劣等感を抱えているある日、その子は妖刀の力を借りて卒業試験に挑むこととしたのだ。当時は封魔結界もなかったため、大人を巧みに騙して妖刀の場所を聞き出し、持ち出すことに成功した。妖刀を手にした子は妖刀に憑りつかれ、多くの死者を出した。もちろん、里の者は全員この話を知っている。今、その妖刀はあやめが所持している。あやめは歴代でも指折りの天才である。2人は全身に恐怖が走っていた。

 ミオ「フブキ、どうしよう。」

 フブキ「ここで止めるしかない。今は大人たちもいないし、里にはたくさんの子供たちがいる。私たちでやるしかないよ。」

 フブキはミオの心の揺らぎを感じた。未だにこの状況への決心のついていないミオに対してフブキは強い口調で続けた。

 フブキ「ミオ!あなたは私たち代の首席でしょ!妖刀―邪鬼が使われた以上、里の中であやめを止めるには “刀主”のミオが不可欠だよ!」

 ミオはフブキと同じ年の卒業生であった。また、里の中でもあやめやフブキとは違う“特別”な存在であった。『妖刀―邪鬼』(ようとう―じゃき)によって、殺戮の限りを尽くした鬼や数百年前に憑りつかれた子と戦う際に使われた対になる“妖刀”が存在する。その名を『妖刀―祓鬼』(ようとう―ばっき)。『妖刀―祓鬼』(ようとう―ばっき)は代々受け継がれ、使い手は儀式によって妖刀が選んでいた。その使い手に選ばれたの者を里では“刀主”と呼んでいたのである。現在、里の“刀主”はミオである。ミオもまた天才であった。妖力、剣術、体術など、どれを取っても秀才であった。ただ、自分への自身の無さから自己を過小評価することが多かった。

 フブキ「『妖刀―邪鬼』(ようとう―じゃき)と戦ったのは『妖刀―祓鬼』(ようとう―ばっき)とその使い手だった。ミオは私が努力しても追いつけなかった。今だって、祓鬼をすでに腰に差してるしね。」

 『妖刀―祓鬼』(ようとう―ばっき)は常に携帯が許されているわけではなかった。しかし、ミオの腰には既に封魔結界に封じられているはずの『妖刀―祓鬼』(ようとう―ばっき)があった。あやめの抜刀動作の前に最初に動いたのはフブキでは無くミオであった。フブキがあやめに放った“神速”の間にあやめの背後にあった櫓から『妖刀―祓鬼』(ようとう―ばっき)を持ち出し腰に差してからフブキの加勢に行ったのである。

 フブキ「ミオの機転にはいつもびっくりさせられるよ。こうなることも分かってたみたい。」

 ミオ「そういうわけじゃないけど、咄嗟のことで…。」

 ミオはフブキに勇気づけられた。ミオは『妖刀―祓鬼』(ようとう―ばっき)を抜刀した。先ほどまでの自信の無さは消え、目の前の状況を冷静に思考できるようになっていた。

 ミオ「うちがあやめと正面で打ちあう。フブキは隙があればあやめを気絶させられるような一撃を打ち込んでほしい。」

 フブキ「分かった。」

 先に仕掛けたのはあやめだった。あやめが抜刀された『妖刀―祓鬼』(ようとう―ばっき)の妖力に引き寄せられるかのように突進してきた。ミオはそれを正面で止め鍔迫り合いの状態となった。すかさず、フブキがみねうちで一太刀入れに行く。あやめはそれを腰に差していた自分の刀を半身だけ抜き、器用に防いで後方へ飛んで距離を取った。その距離を埋めるようにミオとフブキが左右から低い姿勢であやめとの距離を縮める。あやめは右から向かってくるミオを『妖刀―邪気』で防ぎ、左から向かってくるフブキの剣技を左手に持つ自分の刀で弾くとすぐさま蹴りを入れてフブキを飛ばし、続けてミオに左の刀で攻撃する。ミオは鍔迫り合いを解きあやめの追撃を刀で流し受け、追撃を加える。そこに飛ばされたフブキが体勢を立て直しあやめに攻撃を仕掛けていく。それらをすべてあやめは防いでいた。しかし、あやめは防戦一方で攻撃できる隙が無かった。また、フブキとミオにも仕留めるだけの隙を作ることができなかった。その止まぬ連撃は十数分続いた。最初に限界が来たのはフブキであった。フブキの“神速”は無呼吸状態で連撃を繰り出していたため足に酸素が回らず、よろめいて膝をついたのだ。

 ミオ「フブキ!」

 フブキは膝をつき下を向いたまま大きく荒い呼吸をしている。フブキの追撃がなくなり、あやめからの攻撃回数が増していく。二刀流から放たれる無数の連撃をミオは辛うじて捌ききっていたが、ミオからの攻撃は一切なくなった。あやめが纏う妖力量は増していった。攻撃の速度を上げ、一撃の重みが増していった。それらをミオはすべて捌ききって見せた。“その時”は一瞬であった。ミオがあやめの左手にあった刀を刀狩りで払い飛ばした。二刀流を封じる攻撃であったが、払い飛ばしの動作でミオの懐は開いてしまいあやめに隙を見せた。フブキは“神速”を繰り出す動作に入っていたが、それでは間に合わない距離だった。あやめの攻撃がミオに襲い掛かる。次の瞬間、あやめが気を失い地面に倒れ落ちた。あやめは腹部にみねうちをされ倒れたのだ。

 フブキ「ふぅ。何とか間に合った。出たとこ勝負だったけど使えたよ。“神速”の究極技、 “神成”。」

 フブキの一撃であやめは気を失った。酸欠で膝をついたフブキは大きく呼吸を繰り返し大量の酸素を取り込んだ。フブキは酸欠となった体をわずか数秒で回復させ、“神成”を繰り出したのだ。対するミオも闘いの中でフブキの増していく“神速”の速度から覚醒を感じ、あやめが“神成”を防げないように片手の刀を払い飛ばしていたのである。2人はへたり込んだ。

 ミオ「あぁ~もう。怖かったよぉ~。」

 フブキ「よく頑張った!えらい!」

 ミオは緊張が解け、いつもの少し自信の無いミオに戻った。それを姉御肌のフブキがおだてるいつもの光景となっていた。2人は『妖刀―邪鬼』(ようとう―じゃき)を鞘に納め、あやめを抱えて里に戻った。あやめを医務室へ寝かせてフブキが戦闘中の違和感を口にした。

 フブキ「あやめは妖刀に支配されてたのかな?」

 ミオ「いや、多分支配されてなかったと思う。」

 あやめはホロゲートの影響で自我を失っていたが『妖刀―邪鬼』(ようとう―じゃき)に支配されていなかった。それは『妖刀―邪鬼』(ようとう―じゃき)の妖力が昔に比べて衰えていることと、あやめの無尽蔵な妖力が妖刀の妖力よりも高かったことにある。落ち着いたところでフブキがみんなにあやめの無事を連絡した。

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