攻めよ。勝ちたいなら。
日本プロ野球の一番を決める戦い、SMBC日本シリーズ。今年のマッチアップは福岡ソフトバンクホークスVS横浜DeNAベイスターズという2017年以来の対戦カードとなった。パリーグのペナントレースを圧倒的な力で勝ち上がった王者ホークス。対するベイスターズはセリーグ3位からの下剋上日本一を狙うという、シチュエーションも何もかもがあの2017年と同じである。(ペナント上位3チームはCSというステージに進むことができ、ここを勝ち抜いたチームが日本シリーズへ進出できる)
下馬評ではプロ野球OB、ファン共にホークスが圧倒的に優勢であると囁かれていた。4勝を先に挙げた方が勝ちのシリーズで2チームの勝敗予想では4勝1敗、4タテもあるのではないかと大多数に言われる程度にはホークスが圧勝するというふうに見られていた。
事実、今年のホークスは最強に近いチームだったとホークスファン歴19年の私から見てもそう思う。投打共にリーグ最上位の指標を叩き出し、守備走塁の面においても抜かりなし、勝ちへの執念や意識においても他のチームと比べて一線を画していたように思えた。スタメンが強いのは勿論のこと、控えの選手ですら他チームのスタメンと比べても見劣りしないようなレベルの選手が何人もいた。実力、選手層、威圧感の全てにおいて今シーズンのパ王者であったことに文句を言う人間はいないだろう。
対するベイスターズはどうだろうか。当然の話だが、セリーグ3位のチームということもあり弱いどころか強いチームであると思う。しかし、ホークスには無い穴が彼らにはいくつかあったように思えた。最たる例が守備だろう。ベイス☆ボールと蔑称が付けられてしまう程のお粗末な守備が極稀に飛び出してしまうことがDeNA野球の風物詩だ。守備繋がりで言えば、投手陣にも少しばかりの不安が見えていた。チーム防御率はセリーグ5位であり、お世辞にも投手が良いとは言えないだろう。それでも3位に彼らが食い込めた理由はなんと言っても失点を補って余りある程の打撃力だろう。打線の顔ぶれを見る限りではパリーグ最強のホークス打線と同等、それ以上の破壊力を秘めた素晴らしい選手達が打線に名を連ねている。総括するならば、ホークスは走・攻・守揃った総合力のチームで、ベイスターズは破壊力に特化した剛のチームだと言えよう。
〇流れを握るのは?
だが今回の日本シリーズではそんな下馬評、チームカラーの全てをベイスターズが実力で覆している。
横浜で行われた第1戦、第2戦。ホークスは有原とモイネロという左右のエース格2枚を投入してDeNAに勝利した。1戦目では先発の有原が7回無失点、打線も5点を奪い、9回に3失点こそ許してしまったが勝利。第2戦でもモイネロが7回途中3失点で援護も噛み合っての快勝を収め、DeNAの本拠地で2連勝を飾った。敵地での思わぬ連勝に加えて3、4、5戦目はホームの福岡で戦えること、負傷によりスタメンを外れていた首位打者の近藤健介が復活するという好材料もあって、我々ファンも世間も"ホークスがこのまま福岡で日本一を決める"そう思っていただろう。しかし、結果としてホークスはホームで3連敗を喫してしまった。それもこれはただの3連敗ではない。選手の、ファンの心をバキバキにへし折ってしまう程の圧倒的な力負けを喫したのだ。
〇ホークス優勝?
戦いの舞台を福岡に移した3戦目。ホークスは今シーズン急成長を遂げたスチュワートJrをマウンドに送り出した。イニングこそ稼げなかったが最低限の役割は果たしてくれたように思う。だが、後続の大津が誤算だった。DeNA打線に対して1アウトしか奪えず、2失点で降板、打線も復帰した近藤のタイムリーのみで、こちらも復帰したばかりのDeNAエース東投手の前にほぼ無抵抗に終わり、シリーズ初の敗北を喫した。このゲームはまだ「まあ普通に負けただけやな。明日明日!!」と切り替えることができた。問題はこの後の2試合なのだ。
第4戦目、ホークスは2020年2冠の石川柊太をマウンドに送った。球数こそ要したが、彼も5.2回1失点と十分に大役を果たしてくれた。だがDeNA先発のケイ投手の前に打線は沈黙してしまった。155kmストレートに一塁から投げきたんちゃうかと見間違えるほどのキレを誇るスライダー。たまに来るチェンジアップとストレート狙いを潰すツーシーム。はっきり言って、4番手に出てくる外国人選手の投球ではないだろと思った(DeNAファンの方々すみません)。全く歯が立たずホークス打線は完封されてしまった。一方のベイスターズ打線は1点リードで迎えた7回にホークス2番手で登板した尾形を攻め立て、4点を追加し、そのままゲームセット。1イニング限定の尾形を回跨ぎさせた首脳陣の采配に疑問を感じながらも、今後の投手運用の事を考えて口から出そうになったお小言をグッと我慢し、「まだ2勝2敗のタイになっただけ…!こっからこっから!!」と無理やりにでも気持ちを切り替えるように努めた
第5戦、福岡ではシリーズ最後となるゲームだ。単刀直入に言えばこの試合を見た私は「ああ…DeNAにはどうやっても勝てないんだな…」と理解せられた。
ホークスの先発は怪我明けでのぶっつけ本番となった大関。対するDeNAは1戦目に先発したジャクソンを再びマウンドに送ってきた。怪我明けの大関が大したイニングを投げられないことは皆理解していただろう。事実、彼は初回から制球に苦しみ、2回途中にピンチを招いたことから1失点でマウンドを降りている。ここで2番手として松本晴が投入された。彼は立派に火消しとしての役割を果たし、ホークスはピンチを脱した。ピンチの後にはチャンスあり。その裏の攻撃では先頭バッターの周東が出塁し、盗塁を決めた。しかし、後続が続かずあっという間に攻撃が終わってしまった。そしてこのゲームの勝敗を決定づける悪夢の4回、投手を前田純にスイッチし、流れを手繰り寄せたいホークスだったが、1番桑原、2番梶原の2人にショート真横をギリギリ抜ける不運とも言えるような悔しい内野安打を許してしまう。ノーアウト一二塁で迎えたDeNAのキャプテンこと牧に痛恨の3ランホームランを打たれてしまう。この時すでに点差は0-4。ここまで20イニング無得点のホークス打線にはあまりにも痛すぎる4点だ。最後まで戦う姿勢こそ見せたホークス打線だったが、最終的にこの試合も完封。無失点記録は26イニングに延び、その間にもDeNAは得点を挙げて0-7というスコアでこの試合は終わった。パリーグ最恐を誇ったホークス打線が26イニング無得点、誰を投げさせても打たれる試合展開は誰が予想できただろうか。この日は選手たちがプレーの最中にグラウンドで悔しさを爆発させる場面を何度も見た。また、本拠地3連敗はペナント中に一度もなく、本拠地勝率7割という数字が見事なまでにフラグと化してしまった事実に目を背けようとも背けることができない。はっきり言ってこの3試合は思い出したくもないが、敗因をしっかりと分析しないことには次へと進むわけにはいかないだろう。
〇この展開に陥ったのは何故か
ここでは敗因の分析(にはなってない)を個人的にしていきたいと思う。分析と言っても私は全くの野球素人であり、ここで挙げた項目はほぼ全て便所の書き殴りと同等だと解釈してもらいたい。
前提として私は首脳陣批判が基本的に嫌いだ。当たり前だが、元プロ選手だけで構成されたプロチームの首脳陣達は私の何百倍も野球について詳しい。そんな彼らに対して素人の私が考えつく意見や批判などはすべて織り込み済みなはずだろう。そして、そんな野球に精通したプロフェッショナルの彼らが毎日直々に選手を見て判断している。9人のスタメンを決める裏側にはデータやその時の調子だけでなく、選手の心理状態なども考慮されることがあるだろう。選手と向き合い、時には1:1で話し合ってスタメンを出す。それを考えると、とてもじゃないが素人の我々が思いつきで批判していいものじゃない。
これらの前提を踏まえた上で、今回の日本シリーズにおける首脳陣の動きはクソだと思った。それはもうボロカスに言いたいくらいにはクソであると思う。それでは敗因の分析に移ろう。
1.村上コーチの言葉
第3戦が始まる前、ホークスで一軍打撃コーチを務める村上コーチに対してこの日のDeNA先発、東投手の印象についての取材があった。普通は相手チームの選手を立てるような言葉か、当たり障りのない様なことを言って終わるだろう。しかしこのアホはジョークのつもりだったのだろうがとんでもねえことをのたまいやがったのである。その言葉が次である。
村上のアホ「宮城の方が全然いい」
宮城とはホークスと同じパリーグに所属するオリックスバファローズのエースのことだ。その彼と比べて東投手は大したことないと侮辱するような発言。これに対して当然、ファンは怒り狂った。DeNAファンのみならず、彼と戦っていたセリーグ他ファン、挙句の果てにホークスや他パファンからも非難の嵐だった。そんな状況になってしまうと、当の本人である東投手の耳にもその言葉が入ってきてしまう。この日登板を終えた東投手は取材にて「宮城投手は参考にさせてもらってます」という旨の発言をしており、少なからず彼に怒りの感情を持たせてしまっただろう。同じようにDeNAの選手達も試合前にこの記事を読み、東投手の感情が伝播し、「ホークスにだけは絶対負けられない」というような雰囲気を作る手助けをしてしまったのだろう。
2.桑原将志選手の存在
ベイスターズ不動の中堅手である桑原選手は陽キャ集団横浜DeNAベイスターズの中でもかなり上位の明るい性格をしている。そんな彼は現在31歳であり、2017年の日本シリーズを経験したDeNAに残る数少ない選手だ。そんな彼がホークスに2連敗した横浜の夜、チーム全員の前でチームを激励し鼓舞した。
桑原「今の雰囲気ではソフトバンクに勝てない。勝ち負けだけじゃなく、そういう雰囲気がやっていて腹立たしい。負けて悔しくないんか?」
この言葉がDeNAの選手たちが持っていた甘さを消し去ったように思える。事実として敗北した3試合全てで、彼らの守備はほぼ完璧であり、強かった打線はそのままに投手陣まで奮闘し始めた。桑原本人もここまで打率は約4割、6打点というMVP級の活躍を見せている。守備においても球際の強さを活かして幾度となくチームの危機を救う攻守を披露した。元々実力のある彼には失礼な言葉かもしれないが、ラッキーボーイというに相応しい働きをグラウンドの内外で見せている。彼の活躍がチームに新たな勢いを呼び、それに乗せられるように彼自身の勢いも増している。
桑原選手とは関係ないが、第5戦、7回DeNAの攻撃中に筒香選手の打球が三塁のベースに当たり出塁。ホークスにとっては不運な内野安打となった。こういった部分もその勢いがゆえなのかと思ってしまう程、流れは向こうに行ってるのだと思い知らされた。
そしてこの勢いは彼らの実力に裏打ちされたものであるということが一番恐ろしいものだ。
3.ホークス首脳陣
最初に述べたが私は首脳陣を批判することは嫌いだ。思っていても口には出さず、グッとこらえ続けてきた。しかし、第5戦を観戦してついに堪忍袋の緒が切れてしまった。
日本シリーズは短期決戦と呼ばれ、短期決戦には短期決戦なりの戦い方がある。その戦い方とはペナントレースのような長期にわたる戦いだからこそ出来たやり方や活用できたデータなどを捨て、その時の勢いや調子などの根性論を重視するやり方とデータを組み合わせたやり方を混ぜ合わせたやり方である。ペナント中であれば不調に陥った選手を根気よく使い続けて復調を待つ、前日打たれた中継ぎ投手にリベンジの場を与える、など長期的な視点で戦いを進めていかなくてはならない。だが短期決戦ともなれば話は別だ。調子の悪い選手は例え、タイトルホルダーだろうが実績のあるベテランだろうがスタメンから外すか打順を下げるなどの措置をとる、打たれた投手にリベンジの場は与えず、チーム事情によっては別の投手と交代させるなどといった"非情"ともいえる采配をしなくてはならない。その点において、2代前の工藤監督は非常にシビアで天才的な将だった。そんな彼の采配をずっと見てきただけに、現監督や首脳陣の戦い方にはすごく不満を覚えてしまうのだ。その一つが打順だ。
シーズン中に1、2番や下位打線を動かすことはあれど、打線の核となる中軸だけは故障による離脱を除いて大きく動かすということはしてこなかった。大きな波も小さな波もあったが、結果としてこの打線のままでリーグ優勝を果たすことができた。しかしそれはペナントだからこと出来た戦い方だ。打線の4番を務める山川の調子が福岡に帰って著しく落ちている。山川は今期、本塁打と打点の2冠王であり、外すという選択肢はないだろう。それでも今の打線の繋がりを欠いている張本人であることに間違いは無い。短期決戦中は調子の良い選手を上位に並べ、その後ろに山川を持ってくることが最善かのように私は思える。しかし、ここで注意すべきなのが博打をしすぎてしまうことだ。短期決戦では普段やらないことをやると上手くハマることもあるが、やりすぎてしまうとかえってチームの調子を落としてしまうことに繋がる。ましてや、経験も能力もあまりない若手にその役を担わせてしまうと自信を喪失し、今後に悪影響を及ぼすかもしれない。ペナント中は主に下位で起用していた笹川を1番で使うという博打に打って出ていたが、私は愚策だと思ってしまった。奇策と博打は違う。それを本当に彼らは理解しているのだろうか。
投手起用についても疑問が残る。先発投手については大関を起用したことについて「うーん…」とは思ったがこれに関しては分からなくもないため、ここでは置いておく。問題は中継ぎの起用についてだ。1イニングしか行けない投手を回跨ぎで引っ張り、逆にイニング跨ぎ可能なリリーフを火消しで使ったという点がすごく引っかかった。
今シリーズで回跨ぎをした中継ぎは杉山、尾形、津森、前田の4人。この内、前田以外の3人はペナントにおいて1イニング限定の中継ぎとして活躍していた。そんな彼らをいきなり回跨ぎ要因として使ったのだから乱調し、失点するのは当然だろう。そしてその失点は全て敗北を決定づける手痛い失点となっている。もちろん結果論ではある為、ロングリリーフ要因の大津や前田、松本が投げていても打たれたかもしれない。(事実、前2人は打たれた)
だったとしても、この起用には根拠がまるで見当たらない。日本シリーズではかつて、ホークスの絶対的抑えのサファテが掟破りの3イニング跨ぎを披露し、チームを優勝に導く活躍を見せた。(これがトドメで股関節を故障し引退)
しかしそれはサファテが他とは1枚も2枚も格が違う投手だったから、誰よりも勝利への執念に燃える熱い男だったからこそ成せたものだ。先発、ロングリリーフのショートイニング投入については短期決戦ならではの作戦でどんどんやるべきだと思うが、その逆はやるべきではないと思う。もし、これが効果的な作戦だと思っていたのであれば、今の首脳陣は工藤ホークスの何を見ていたのだろうか。
〇今後の展望
第6戦、第7戦は横浜に舞台を戻して戦う。ホークスは再び2枚看板の有原・モイネロを擁して殴り込むだろう。この2人であれば打たれて負けてもしょうがない、そう思わせてくれるだけの働きをペナント中に見せてくれた。選手はまだ諦めていない。三振してバットを放り投げる山川、凡退してヘルメットを投げ捨てる周東、幾度となく好機を潰してしまい打席から立ち上がれなくなる甲斐、彼らのこういった態度は本来なら非難を浴びる対象なのかもしれない。しかしファンとしては、「ああ。まだ彼らは諦めていないんだな。」とまだ希望を持たせてくれる彼らに感謝をしている。ペナントシーズンの楽しさを、CSでの熱い競り合いを、彼らは我々ホークスファンに沢山の歓喜を与えてくれた。そんな2024シーズンの締めがこのような形であっては監督の言う「美しさ」を意識し続けた年に相応しくない。今こそホークスの「美しい野球」を。勝利の女神は細部に宿る。王座奪還を目標に始まったシーズン、ペナント制覇だけが終わりではない。真の王座である日本一を獲り、4年にも渡る屈辱を晴らすまでホークスは終われない。頑張れ福岡ソフトバンクホークス!
最後に球団オーナーである孫正義氏の言葉で締めくくりたいと思います
攻めよ。勝ちたいなら。
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