アメリカには赤ちゃんポストはない?
日本で唯一、親が育てられない赤ちゃんを匿名で預けることができる熊本市の慈恵病院の赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)が開設して10年になったそうですね。この10年間、125人の赤ちゃんが預けられたそうです。(出典:「出自知る権利、対応は現場任せ 母子の孤立や貧困・・・『赤ちゃんポスト』開設10年」2017年5月10日西日本新聞)
赤ちゃんポストとは、母親が何らかの理由で生まれた赤ちゃんを育てられないため、匿名で赤ちゃんを預けられるところです。慈恵病院では、病院の一角に保育器が設置されており、そこに赤ちゃんを寝かせて扉を閉めると、病院内にブザーがなり、スタッフが駆けつけることになっています。赤ちゃんは医師の診断を受けたのち、病院は「児童相談所」および「警察署(刑事課)」に連絡します。その後、赤ちゃんは乳児院などに移され、親が引き取る場合を除き、児童養護施設、里親、特別養子縁組などに出されるそうです。
(出典:熊本の慈恵病院の「SOSお母さんと赤ちゃんの妊娠相談」
http://ninshin-sos.jp/yurikago_top/)
赤ちゃんを捨てることは、決して許されることではありませんが、望まない妊娠をしたため赤ちゃんを育てられず、ぎりぎりの選択をせまられた母親が赤ちゃんを預ける場所があるのは評価すべきです。そもそも、妊娠には男性もかかわっているにも拘わらず、女性のみ非難され責任を問われる、というのは私は納得できません。妊娠中絶も賛否両論ですが、なんらかの理由で妊娠を継続し、育てられない、ということなら、日本は少子化で悩んでいるのですし、この母親を助けてあげるべきです。
しかし、初めての赤ちゃんポストが熊本にできてからもう10年になるにも拘わらず、日本では第二の赤ちゃんポストが開設しません。読売新聞によると、NPO法人「こうのとりのゆりかごin関西」では、神戸市の助産院に赤ちゃんポストを開設しようとしましたが、実現しなかったそうです。「医師が常駐していないことを理由に市が難色を示したためだった」そうです。(出典:「赤ちゃんポスト10年」(4)、読売新聞 2017年5月18日)
関東から熊本は遠いです。私の出身地の東京から熊本に行くには、東海道新幹線、山陽新幹線、九州新幹線を乗り継ぐ必要があります。グーグルで調べたところ、東京駅から熊本駅まで時間は5時間39分、料金は26,720円となっています(2017年7月時点)。飛行機なら羽田空港から熊本空港へは約1時間半ですが、JALの普通運賃では44,890円です(2017年7月時点)。望まない妊娠で子供を育てるお金のない女性が乳飲み子を連れて移動するには、お金も時間もかかりすぎです。現に、平成19年から21年の三年間で預けられた赤ちゃん51人中、わかっているだけではありますが、親が東京よりさらに熊本から遠い、東北や北海道に住んでいたという件数はゼロだそうです。(出典:「こうのとりのゆりかご」が問いかけるもの P.9、平成21年11月26日 こうのとりのゆりかご検証会議(事務局:熊本県少子化対策課))
他方、当然のことですが、赤ちゃんポストの運営には費用がかかります。熊本の慈恵病院での設置費用は、「建物の改修関係および機会設備の費用が約450万円程度で、維持と医療費の一部等にかかる費用が年間350万円程度」です。この他に、人権費が「年間約800万円程度」かかっています。つまり、開設した後ですら運営をするために年間1,150万円が必要なのです。(出典:「こうのとりのゆりかご」が問いかけるもの P.6、平成21年11月26日 こうのとりのゆりかご検証会議(事務局:熊本県少子化対策課))
そもそも、なぜ赤ちゃんポストの運営を民間のみに委ね、次の赤ちゃんポストも民間が作ってくれるのを待っているのでしょうか?
アメリカの赤ちゃんポストの事情は、と申しますと、私の住んでいるイリノイ州に赤ちゃんポストはありません。しかし、イリノイ州の法律では赤ちゃんを育てられない場合には、総合病院、消防署、警察署、医療機関のER(エマージェンシー・ルームの略。救急処置室)に生後30日以内であれば赤ちゃんを匿名で預けることができます(出典:Baby Safe Haven Laws Illinois Compiled Statutes Ch. 325, 2/10; 2/20-2/40)。他の州も大体同じです。
日本もイリノイ州のように、既存の施設で匿名で赤ちゃんを預ける制度を作れば、「赤ちゃんポスト」をわざわざ設置せずとも、救える命を救うことができます。第一、消防署や警察署であれば、わざわざ電車や飛行機に乗って遠くまで行かなくても近くにありますよね。民間が施設を設置・運営・資金を捻出するのを待っているのではなく、法整備をして、望まない妊娠をした母親がお金も時間もかけずに行ける範囲で赤ちゃんを預ける場所を提供するべきだと思います。
(The Stellar Journal 2017年7月掲載)