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アメリカの信用調査と過去の犯罪歴

人を採用するときには、必ず信用調査を行いましょう。信用調査を行わずに採用した人が万が一職場で犯罪を起こしたら、別の従業員から「雇用主がきちんと信用調査をせずに採用するから悪い」ということで雇用主が訴えられる可能性があります。

しかし、犯罪歴を調べるのにも限界があります。犯罪歴を調べるときは、調査会社がCounty(郡)の裁判所の記録を調べることが一般的ですが、この記録は通常7年しか保存されないからです。つまり、7年以上前の記録は信用調査をしてもレポートに載ってこないのです。
(参考文献:”Employee Criminal Records: How far back should you look?” by Ryan Howard on April 4, 2018 https://blog.verifirst.com/employee-criminal-records-how-far-back-should-you-look)

信用調査を行うにあたり、以下のようなステップを踏む必要があります。

先ずは、仕事のオファーを出してから信用調査を行うこと。
 信用調査をするには、生年月日などの本人のプライバシーに関する情報をもらう必要があります。この情報をもらったがために、「会社は私の年齢を知って不採用にした。年齢差別だ」などと、揚げ足を取られる危険があるためです。

次に、信用調査を行うという同意書とともに、本人に過去7年間の犯罪歴を自主的に書いてもらい、「ここに述べたことは全て本当です」と一筆取っておくことです。

信用レポートがもどってきて、犯罪歴があるから不採用にした、ということではなく、「うその申告をしたから」不採用にした、というように持っていく方が無難です。しかし、正直に自分の罪を開示している人を不採用にすることは難しいです。

信用調査で、何の犯罪歴も無かった従業員に、実は10年以上前に犯罪歴があった、という可能性もあります。しかし、アメリカの社会は「人生のやり直し」については、案外寛容なのです。

1995年に、Gina Grantという高校3年生の少女がハーバード大学に一度早期受付で合格になった後、合格を取り消された事件がありました。

Ginaは全ての成績がA、テニス部のキャプテンをやっていて、中学生に生物学の家庭教師をしている、という理想的な生徒だったのです。しかし、信用調査の末、ハーバード大学は、彼女が5年前にアルコール中毒でGinaを虐待していた母親を殺していたことを知りました。ハーバード大学は合格取り消し理由として、「Ginaが正直に自分が犯した罪を報告しなかった、つまり、虚偽の申告をしたための合格取り消しである。」と説明しました。

Ginaは、母親殺しの罪を、少年院に6ヶ月収監されることで法的に償っていました。その後、名前、住所も変えて、人生をやり直していました。
(参考文献:”Woman Who Killed Mother Denied Harvard Admission” by FOX BUTTERFIELDAPRIL 8, 1995 https://www.nytimes.com/1995/04/08/us/woman-who-killed-mother-denied-harvard-admission.html )

Ginaの合格取り消しは、世間一般だけでなく、ハーバード大学の内部でも賛否両論がありました。Ginaが正直に自分の犯罪歴を申請しなかったため、ハーバード大学は合格を取り消すことができました。Ginaの弁護士は、「未成年のときに犯した犯罪歴は開示する必要はない」と反論したそうですが・・・。なお、Ginaは別の大学に合格し、そちらを無事卒業したそうです。

別のケースでは、Michelle Jonesのケースが有名です。1992年にMichelleは、4歳の息子を殺したため、20年以上もインディアナの刑務所で服役していました。服役中にMichelleは大学にの授業を履修し、2004年にBall State大学の学士号を取得しました。その後、インディアナ大学の大学院レベルのコースを履修しました。アメリカの歴史の勉強を極め、論文を書くまでになり、いくつもの大学の博士課程から大学入学・研究のオファーをうけました。(参考文献:”From Prison to Ph.D.: The Redemption and Rejection of Michelle Jones” by Eli Hager on September 13, 2017. https://www.nytimes.com/2017/09/13/us/harvard-nyu-prison-michelle-jones.html

もちろん、アメリカでも過去の犯罪歴を気にする人もいます。また、大学の入学許可と一般企業の採用とは次元の違う話ではありますが、アメリカでは比較的、人生の「やり直し」に寛容です。

余談ですが、いくらアメリカで信用調査を行っても、その人が国外で犯した犯罪の記録はレポートには載ってきません。最も、アメリカの各種ビザを申請するときに、海外の犯罪歴など調査もされますから、グリーンカードなどを保持した人が海外で犯罪を犯した可能性は低いとは思いますが。

人を採用する際に、信用調査をすることは大切です。しかし、7年以上前の犯罪歴を手に入れることはできません。過去7年間何も犯罪歴のなかった人は、更正したとみなして、受け入れるしかないと思います。アメリカは社会としてやり直しを認めているのですから。

The Stellar Journal 2019年1月掲載
https://www.stellarrisk.com/ja/americainvestigationandcriminalbackgroundreport/?fbclid=IwY2xjawE9hOxleHRuA2FlbQIxMAABHUskz6lofT1YVu49geebQhU7qc6h7uJRdIuROSSeQ1FzWYR4Hi-TIvspoA_aem_K5hbi74uyDlVONoQ3Fb_vg

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