夫婦別姓について
(2020年の)現大統領ドナルド・トランプ氏の娘の姓名はイヴァンカ・トランプ、彼女の夫の姓はクシュナーです。この度の選挙に勝利し、時期米国副大統領になるカマラ・ハリス氏の夫の姓はエムホムです。そうです、お二人とも夫婦別姓なのです。
アメリカでは、法律上夫婦別姓が認められています。というよりも、結婚届を提出しただけでは、自動的に姓は変更されません。アメリカには戸籍がないので、結婚届を提出したら、自動的に夫または妻の姓に戸籍が統一される、という制度はありません。姓を変更するためには、社会保障オフィス(Social Security Office)に結婚証明書を持って行って、ソーシャル・セキュリティー・カードの姓の変更を申請する必要があります。
とはいうものの、70%の女性は結婚と同時に夫の姓に改姓しています。(参考文献:”Why still women change their names?”: https://www.bbc.com/worklife/article/20200921-why-do-women-still-change-their-names#:~:text=In%20the%20US%2C%20most%20women,30%20still%20following%20the%20practice. )
逆にアメリカで男性が妻の姓に改姓した割合は同性婚を除いて「3%未満」です。日本の男性が妻の姓に改姓した割合は「4%」とのことです。日本は夫婦別姓が認められていないため、夫婦どちらかの姓に統一する必要があるので、単純比較はできませんが、アメリカで男性が妻の姓に改姓する割合は、日本より低いのです。
(参考文献:“Why Don’t More Men Take Their Wives’ Last Name?”:https://www.theatlantic.com/family/archive/2018/07/why-dont-more-men-take-their-wives-last-names/565898/ )
(参考文献:「夫婦別姓で社会はよくなるのか」自ら考え、性を選択することが日本社会のレベルを上げる):https://bungeishunju.com/n/nad35caf98a8c )
日本は封建的な考えもあり、昔から「婿養子」という制度がありました。娘に婿を取って婿が妻の姓に改姓する、という習慣があったため、アメリカよりかは男性の改姓が社会的に受け入れられているようにも思えます。
では、結婚している夫婦の子供の姓は、父の姓にする必要はあるでしょうか? 出生届も、親が姓、名、ミドルネームを記入して提出します。子供に父の姓をつける必要もありませんし、両親のどちらかと同じ姓にせず、新しい姓を作ることもできます。同じ両親から生まれた子供たちの名前を一つの姓に統一する必要もありません。(参考文献:”Why we’re giving our baby my wife’s last name?”: https://www.washingtonpost.com/lifestyle/2019/08/05/why-were-giving-our-baby-my-wifes-last-name/ )
余談になりますが、家庭の姓が無い国(文化)もあります。インドネシアの特にジャワ島では、姓がなく、名前(First Name)しかない人もたくさんいます。私の弟の元妻はインドネシア人でアメリカに外交官として来ていました。彼女も名前(First Name)しかありませんでした。でも、アメリカで「姓」を入れないと免許証などの申請時に面倒になり、仕方がないのでお父さんの名前(First Name)を自分の姓として登録しました。もともと姓がない人の子供たちは、父、または母の姓にすることもできないので、姓を無しにするか、新しい姓を作るしかありませんね。(参考文献:”The Uniquely Indonesian Pains of Having Only One Name”: https://www.vice.com/en/article/j5xmgp/the-uniquely-indonesian-pains-of-having-only-one-name )
日本で、私の両親は結婚した時に父が改姓しました。私はアメリカでは婚姻届けを提出してから、姓の変更届を出していません。つまり、私の姓は母の姓で、私たち夫婦は別姓です。そして、子供たちの姓には、私の姓を選びました。
法律上は夫婦別姓も子供の姓を決める自由も与えられている米国ですが、未だに「結婚したら女性が改姓して夫の姓を名乗り、子供は夫の姓を名乗らせる」という社会通念は根深く残っているようです。
以下は私が今まで経験したことです。(もちろん、「(結婚によって)何という苗字になるの(なったの)?」と聞かれたのは数えきれないくらいありました。)
労働ビザやグリーンカードを申請する時に、「母の旧姓(maiden name)」を書く欄があります。当然、私は「Takemoto」と書きました。弁護士事務から問い合わせがありました。
「あなたのお母さんは、結婚する前から『Takemoto』だったのですか?」
「私の両親は父が婚姻の時点で改姓したのです。父の『旧姓』が必要ですか?」と聞いたのですが、書類に父の旧姓を書く欄はありませんでした。
結婚する時には、まず役所に行って結婚ライセンスを申請する必要があります。結婚ライセンスを取った上で、メリッジ・コート(家庭裁判所のようなところ)、教会、寺院などに行って、公式な立会人の元で結婚の宣誓をして、立会人が結婚を承認をして、はじめて法律上結婚したことになります。
結婚ライセンスを取りに行った役所では、書類を私だけに手渡して言いました。
「ご結婚おめでとうございます。ここに改姓の方法が書いてあります。結婚した後、正式な結婚証明書を取り、それをソーシャル・セキュリティー・オフィスに持って行ってください」
(女性にだけ「改姓」について説明するなんて、男女差別ではありませんか?)
結婚して数年後にモーゲージ(住宅ローンのようなもの)の組み換えをするときに聞かれました。
「あなたたちは、最初にモーゲージを組んだ後、結婚しましたか?」
(私たち、最初にモーゲージを組んだ時から結婚してたのですけど・・・。)
独身の時から入っていた生命保険の受取人を結婚した時に夫に変更しました。
「結婚したので、あなたの姓も変更しなくてはいけないね」
というので、「私は夫の姓に変更していません」と言ったところ、聞かれました。
「あなたが姓を変えないのは、あなたの国の伝統ですか?」
子供が生まれた時に、出生届に子供のミドルネームは夫の姓、ラストネーム(姓)は私の姓で届けを出しました。数日後、役所から確認の電話がかかってきました。
「あなたたちは、本当に母親の姓を子供に名乗らせるのですか?」
以前働いていた会社で、子供に私の姓を名乗らせたと言った時に、驚いて私に聞いてきた人がいました。
「そんなことをして、もし離婚でもしたら、どうやって子供の父親を証明するの?」
どうも子供を私生児として届けなければ子供の姓が母の姓にならないと思ったらしいです。
子供が小さい時に、保育園から夫の職場に電話があったそうです。
「Mr. Takemoto(私の姓)、お宅のお子さんが熱を出しました」
(保育園には父の姓も母の姓も届けてあったのですけどね。)
日本は今だに選択制夫婦別姓が認められてもいません。しかし、国際結婚した人には、配偶者に日本の戸籍がない、という理由で半強制的に夫婦別姓を強いています。そもそも、源頼朝の妻は北条政子、足利義政の妻は日野富子、というように、日本でも武家の伝統は夫婦別姓だったそうですので、別に夫婦同姓が日本の伝統、というわけでもないと思います。
法律をひとつ変えたところで、社会通念が直ちに変わるとは思えませんが、様々な理由で改姓したくない女性もたくさんいますので、早く日本でも選択制夫婦別姓が法律上も認められて欲しいものです。
The Stellar Journal 2020年11月掲載
https://www.stellarrisk.com/ja/shouldmentaketheirwivessurname/?fbclid=IwY2xjawEh7wpleHRuA2FlbQIxMAABHYNwyBRddPhYrO82pe7PdErk-8ilwa-waPdfXZ0XxB_m5dT_3RIBkyV7_Q_aem_ZwdeDWprDa9YoJuAet44VA