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火星まで11分(544字)

 ぼんやりと5年前であって、それは中野駅と野方駅を直線で結んだときにちょうど真ん中に当たる地点で、そこには幼稚園があって、私と恋人はそこで、空に浮かぶ火星を見て、
 数十年ぶりに地球から見える火星を、この世界のどれほどの恋人たちが見て、その中のどれほどの数の恋人たちが、17年後も一緒に見れたらいいね、と言っていたのか分からないけれども、私たちはそれを誓い合って、恋人は涙を流して、そんなカップルたくさんいたのかもしれないけれども、その時には世界でたった一つだけの私たちにしかない誓いであって、
 その3年後の同じ場所で、あの幼稚園の前で、いままでありがとうと言って、恋人は涙を流して私たちは別れて、
 思い出。JR新宿駅は0:35の終電。阿佐ヶ谷駅まで11分。そんな火星のことを考えながら疲れた瞼が沈んでゆき、このまま眠り、目が覚めて仕舞えば、私は恋人のいる火星にたどり着いていればいいのにとか。そして終着駅には恋人が立って待っているのか、はたまた私が通ってきたこの道筋を同じように恋人が辿るのを私は待っているのか、
 2037年に火星がもう一度現れる。でも目を開けるとそこには予定されていた2025年の阿佐ヶ谷駅で、会う約束もないまま私はきっとまた夢の中の鈍行列車総武線で火星に向かいます。
 


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ざぶとんととんとろ
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