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世界中で誰一人死ぬことのない奇跡の数分間をご提供します(645字)
なんの映画かドラマかCMか知らないけれど、飛行機の乗客にとって、機内で過ごした時間は数時間ぐらいなのに、地上ではなんと5年が過ぎているという浦島太郎の実写版みたいな作品があるようで、
着陸後、乗客の帰りを待っていたのは家族ではなく、5年間の失踪の真実を探りにきたマスコミに囲まれるというなかなか面白い設定の作品なのだが、
多分その飛行機が飛んだ空はきっと、この日の阿佐ヶ谷みたいな空でありんして、まあ雲が本当に微動だにしない水彩画のような空で、水彩画の方が被写体が動きだしそうな臨場感で描けるよなと思えるぐらい時が止まったような空で、もうこのまま夕焼けのまま、流れる水道も、電車も、歩く人も、秒針すらも、構えるアサルトライフルも、飛び出す弾丸も、貫かれる心臓も、見える!見えるぞ!といわんばかりにゆっくりとスロウリイに動かれているんじゃないかと錯覚するほどに、
こんな景色を見てしまうと、悪いことは出来やしまへんなあ、世界まる見え世界からまる見え、世界中で犯罪が起きなかった奇跡の数分間、
ロシアもウクライナもパレスチナもガザもイスラエルも、誰一人死ぬことがなかった数分間、
この地上から見える数分間を、そのまま空に持ち上げて仕舞えば、数時間にも数年間にも、引き伸ばされそう、
その間に私はアメリカへのっそりと向かい、世界終末時計を作っとる会社に殴り込み、
終末まで89秒となった、その時計を、その終末を、「週末まで89秒」とし、
金曜日をワクワクと過ごし、
土日に飲みにいくんだいっ。
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