ロードオブザリング


大学時代、2年かけて研究した児童文学である「指輪物語」(ロードオブザリング)について、ちょっと語りたくなったのでお付き合いください。



ロードオブザリングは映画が有名ですが、元はイギリスの作家JRRトールキンという人が書いた児童向けの文学書で、三部作あります。


トールキンは、自作のお話を考えて自分の子どもの寝かしつけをしていて、その時に「ホビットの冒険」という、小人のホビットが竜やらと戦ったりゴブリンと仲良くなったりする楽しいお話を考えました。


で、それを本にしてみて、好評だったのと、このホビットが舞台のファンタジーを1から構築してみたいというトールキンのえげつない欲望が「指輪物語」創作に向かいます。



ホビットの冒険および指輪物語は「ハイ・ファンタジー」と呼ばれるジャンルになります。どんなものかというと、その世界自体が全てフィクションであって、空想の世界の中で繰り広げられる空想のお話ということです。
たとえば、不思議の国のアリスのように現実世界から穴に落ちて迷い込んで、空想世界に行く・行き来できるようなお話や、現実世界が舞台でそこに魔法が使える何かがやってきたりするお話は、ロー・ファンタジーと言います。


トールキンのすごいところは、このハイ・ファンタジーを言語、歴史レベルで作り上げたということです。


つまり指輪物語内に出てくる種族の言語(エルフ語、人間語、ドワーフ語、ホビット語など)はすべて会話可能な言語であり、すべてトールキンが作り出しました。(本当に指輪物語が好きなファン達はエルフ語を覚えて会話できるらしいです)



これってすごいことで、いうなれば、日本語とか英語とかドイツ語みたいなものを1から考えたということです。本当にすごい。


で、歴史はなんと神にまで遡ります。神様が世界を作り出して、人間やらエルフやらドワーフやらを作り出して、、、みたいなことや、堕天使が現れて、ドワーフを騙して悪い指輪を作らせたことやら、神とエルフの因縁、エルフとドワーフの因縁などなど、基本は聖書を元にしているのでしょうが、聖書のような出来事が山ほどあって、それをバックボーンとして考えながら、「指輪物語」を書いたのです。



「指輪物語」にはそこまで詳しいことは出てこないのですが、「シルマリルの物語」「終わらざりし物語」という分厚い辞書みたいな本がありまして、そちらにトールキンの考えた世界が山のように描かれています。


で、なぜこの指輪物語がすごいかというと、今あるハイ・ファンタジーは全て指輪物語の影響を受けているからであり、指輪物語なくしてファンタジーなし!みたいな状態だからです。


みんな大好きハリーポッターなんて、指輪物語を分かりやすく一般化して書きました!みたいな本です。指輪物語は作り込みすぎた故に分かりにくいという性質のため、敬遠されたりしますが、ハリーポッター好きを見つけると、毎回「それは指輪物語あってのだからね」と言いたくなります。



ハリーポッターでいう、最終対決のハリーvsヴォルデモート、ネビルvsヘビ(分霊箱)というのは、指輪物語の二層構造から着想を得てるとしかいいようがありません。


指輪物語では、火山に指輪を捨てることで敵を倒そうとする主人公(フロド)と敵陣に剣を持って直接対決をしかける王様(アラゴルン)の二層構造です。

指輪物語のおもしろいところは、力も強く王の血を引くアラゴルンが指輪を捨てにいけば万事解決なはずなのに、そこにフロドという何の力も持たない小人さんがいて、その小人さんが指輪を捨てる(=敵が消滅する)という特大任務を任されることです。


なぜこうなるのか。なぜこんな話を作ったのか。物語の中では、指輪は力のあるものが持つと、指輪の力に屈して邪悪に染まってしまうから。暗黒面に落ちてしまうのです。もしアラゴルンが指輪を持ってしまうと、アラゴルンごと敵になってしまうという具合です。


その点、何にも力のない非力な小さいヒトとして出てくるホビットさんは、指輪を持ったとしても大した力もないので影響がないのです。(実際には、指輪を長く持っていると味方を信じられなくなったり、不意に自分の意思とは違う行動をしてしまうなどの影響があるのですが)



これって現実世界で考えるとすごく面白くて、現実世界でも、力のある人が権力を手にした瞬間、一気に悪人になったりするじゃないですか。違法な何かで儲けようとする人たちって、ある程度の能力があって、他を欺ける話術なりなんなりを持っている。そういうのに染まってしまうということなんですね。


で、この指輪物語が書かれたのは第二次世界大戦中なので、おそらくいろんな悪事やら権力やらに屈した人間をたくさん見てきて、力のある人がそういう権力を手に入れることが正しいのか、というのを説いていると思うんです。



結局上司とかトップにいる人で「この人すごく良いなぁ」と思う人って、驕らない謙虚な人が多いじゃないですか。そういうことなんですよ。要は「あなたはホビットになれますか?」ということなんですね。



実際は周りを動かす力があったり、話術が優れていたりしたとしても、それをあたかも何も持たない人のように振る舞い、余裕を持ち、毎日を楽しく過ごしている。(ホビットは、毎日何かに理由をつけて誰かを祝ったり、プレゼントを送ったり、1日にご飯を5〜6回食べたりして楽しく過ごしている種族です笑)能ある鷹は爪を隠す的な。そういう人に本当に重要な任務を任せるべきであり、そういう人は誰かを裏切ったり、貶めたりしない。
あなたはそういう人間になれますか?


トールキンはそれを伝えたかったんだろうなと。私が指輪物語を研究していたのは10年弱前ですが、最近そんなことをふと感じました。


ここまで読んでくださって、ちょっと興味が湧いた人は、文学を読んだり分析するのに向いていると思います。なかなか奥が深いです。結局、文学作品を読むということは、今生きている自分を捉え直す作業なので。そしてある程度の文学作品を読むとわかるのですが、昔の人も今の人も同じ真理に辿り着いていると思います。悩んでいる議題も昔と今でそんなに変わらないです。今生きるのにしんどい人は、ぜひ何かを読むのに挑戦してみて欲しいなと思います。映像作品もありますが、個人的には文字で読むのがいいかと思います。読むのがしんどい分、伝わる重さも違います。



ここまで読んでくださり、ありがとうございました。大学時代の卒論発表の際、教授陣から「あなたの指輪物語研究はここでは終わらない。ライフワークだね」と言われた私なので、定期的にこの物語と向き合っていますが、まだまだ奥が深いです。。。



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