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田島 優『あて字の素姓/常用漢字表「付表」の辞典』

☆mediopos2917  2022.11.12

「あて字」とは
字の本体の用法や読み方などを無視して
「当座の用」のために代わりとなる字をあて
転用した漢字などを使った文字表現のこと
読み方だけを考慮して漢字をあてることが多い

ふりかえってみれば
万葉仮名というのはあて字の元祖のようなものだし
あて字という発想がなかったら
その後「ひらがな」や「カタカナ」なども含めた
日本語表記が展開されることもなかっただろう

日本語から「あて字」をなくしてしまったら
そのいわばルーツとなる表現の原点を
なくしてしまうことにもなりそうなのだが

戦後の日本では
昭和二十一年(一九四六年)に
「当用漢字表」が告示され

使用できる漢字の数が一八五〇字に制限され
「使用上の注意事項」として
「あて字は、かな書きにする」
「外国の地名・人名は、かな書きにする」
「外来語は、かな書きにする」
「動植物の名称は、かな書きにする」
「ふりがなは、原則として使わない」
とされたそうだ

戦後「ふりがな」付の本がなくなったのも
おそらく「ふりがなは、原則として使わない」
というご指導があったからなのだろう

ある意味でこれは
民主主義的な「言葉狩り」の原点のようだ

今も昔も「国語審議会」は
「国語」を豊かにする方向ではなく
貧しく統一化する方向に向かうためにあるようだ
たとえそこにある種の
言語を使いやすくしようといったような
「使命感」や「善意」のようなものがあったとしても
その多くの営為は錯誤している

その統一化というのは
生物の多様性を顧みないようなもので
言語表現が生まれてくる
試行錯誤の歴史を捨象することで
言語とともに思考を稚拙で貧しいものにしてしまう

地名や町名なども脱色された
つまらないものに変えられてしまうことも多いが
実際には慣用でしか読めない地名だとしても
それらすべてがかな書きにされてしまったらどうだろう

学校の国語の授業が面白くないことのひとつは
その学年で学ぶ漢字などが指定され
それを超えて使わないように指導されることだ
ほとんど「言葉狩り」であるといったほうがいい
「言葉狩り」は「思考狩り」にほかならない
そのことで子どもたちの思考は狭い場所に閉じ込められる

マスメディアもそうした
「言葉狩り」と「思考狩り」を続けてやまない

さすがにあて字が使えなくなると困るということで
昭和四十八年になって「付表」という形で
限定されてはいるものの
それが認められるようになったそうだが
その後も随時ということでなんともはやである

こうした○○審議会といった類いは
多かれ少なかれそういうあり方をしているようで
管理社会化を推進する向きとしては
時宜に適っているだろうが
それは結局のところ
人から思考の自由を剥奪してしまうことになる

■田島 優『あて字の素姓: 常用漢字表「付表」の辞典』
 (風媒社 2019/11)

(「はじめに」より)

「昭和二十一年(一九四六年)に告示された「当用漢字表」は、漢字の制限という方針からあて字の使用を認めなかった。
 しかし、日常の生活においては非常に多くのあて字が活用されていた。身の回りには「団扇(うちわ)」「剃刀(かみそり)」「白粉(おしろい)」「暖簾(のれん(」「独楽(こま)」などがあり、身体関係では「旋毛(つむじ)」「黒子(ほくろ)」「鳩尾(みぞおち)」などがある。また、食べ物では「蕎麦(そば)」「海苔(のり)」「天麩羅・天婦羅(てんぷら)」「心太(ところてん)」「麦酒(ビール)」などがあり、年中行事では「注連縄・七五三縄(しめなわ)」「巫女(みこ)」「熨斗(のし)」「神輿(みこし)」などがある。動植物名はあて字の宝庫である。「海豚(イルカ)」「栗鼠(リス)」「啄木鳥(キツツキ)」「木菟(ミミズク)」「秋刀魚(サンマ)」「章魚(タコ)」「蒲公英(タンポポ)」「向日葵(ヒマワリ)」などがある。
 このように我々の生活において、あて字は欠かせないものであった。そこで昭和四十八年(一九七三年)に告示されることになる「当用漢字改定音訓表」(告示の際に「当用漢字音訓表」に変更)の制定作業において、慣用の広く久しい熟字訓やあて字を「付表」という形で認める方向で進められた。そして、国民の前に「付表」という形で最初に示されたのは、昭和四十五年五月二十七日に、国語審議会漢字部会から第七十四回国語審議会へ提出された「当用漢字改定音訓表(案)」である。
 そこには一一一語が示されている。」

(「第一部 「付表」の成立と発展」より)

「昭和二十一年(一九四六年)十一月十六日に「当用漢字表」が内閣によって告示された。この「当用漢字表」は、日本語の文章を平易にするために、使用できる漢字の数を一八五〇字に制限するものであった。この表の「使用上の注意事項」において、
  へ、あて字は、かな書きにする。
と明記された。その他、あて字に関わるものとしては、
  ハ、外国(中華民国を除く)の地名・人名は、かな書きにする。
  ニ、外来語は、かな書きにする。
  ホ、動植物の名称は、かな書きにする。
  ト、ふりがなは、原則として使わない。
がある。このような「使用上の注意事項」が示されるということは、それ以前は、外国の地名や外国人の名前も、外来語も、動植物の名称も、漢字で書かれることが多かったのである。外国の地名や人名、外来語を漢字で表記したものは、当然のことながらあて字である。」

《目次》
第1部 「付表」の成立と発展(「当用漢字表」;
「当用漢字音訓表」の改定作業;「付表」の発展一(常用漢字表)「付表」の発展二(新常用漢字表))
第2部 あて字の素姓(「付表」の辞典)
(注記 各語の歴史に入るにあたって;あす“明日”;あずき(あづき)“小豆”・あま“海女・海士”・いおう“硫黄”・いくじ(いくぢ)“意気地” ほか)

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