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note ドラマ | 僕は化け物になる

僕は化け物になる。
信じられないかもしれないけど、これは事実なんだ。
昼間の僕は普通の男子高校生。
学校では友達と笑い、授業を受け、部活動を楽しむ。
でも、太陽が沈むとともに、僕の身体は変わり始める。
爪は少し鋭くなり、牙が伸び、目は暗闇でもはっきりと見えるようになる。
そして何よりも、心が凶暴化していく。

その日、僕は家に帰るなり変身が始まった。
母親には「今日は早めに寝るよ」とだけ告げ、部屋に閉じこもった。
でも、忘れ物をしたことに気づいたんだ。
大事なノートを学校に置きっぱなしにしてしまった。明日のテストに使うノートだ。
取りに行かなければならないと思ったが、夜の僕はすでに変わり始めていた。

学校は静まり返っていた。誰もいないはずだと思った。
しかし、薄暗い廊下を歩いていると、微かに人の気配を感じた。
心臓がドキドキしていた。こんな時間に誰がいるんだ?気配の主を探るため、音を立てないように歩みを進めた。

教室のドアを静かに開けると、そこには同級生の前田裕子がいた。
机の上に広げたノートに夢中になっている彼女の姿があった。
裕子は、僕にとって特別な存在だった。昼間の僕は、彼女に対して何も言えない臆病者だが、夜の僕は違った。

「どうしたんだ?」と声をかけると、裕子は驚いたように顔を上げた。「誰もいないと思っていたのに、こんな夜中に何しているの?」と言いたげな表情だった。

「忘れ物を取りに来ただけさ」と僕は嘘をついた。裕子は僕を見つめ、少しの間沈黙が流れた。

僕と裕子はしばらくの間、教室の中で沈黙の時間を過ごした。
彼女はノートに目を戻し、僕もまた自分のノートを探し始めた。
静かな空間にペンの走る音だけが響いていた。ふと、裕子が口を開いた。

「君は、夜にいつも学校に来るの?」
その質問に僕は少し驚いた。

「いや、普段は来ないよ。でも今日は特別な事情があってね」
と、僕は歯切れ悪く答えた。
裕子は軽く笑った。

「そっか。私も今日は特別な事情でここに来てるんだ」と彼女は言った。
その言葉に僕は少し安心した。
同じ理由でここにいるなら、変に思われることもないだろう。

僕たちは再び沈黙に包まれた。
しかし、この沈黙は不快ではなかった。
むしろ、彼女と同じ空間にいることが心地よく感じられた。
化け物の姿はバレていなかったようだし、このまま裕子と一緒に過ごす時間は僕にとって特別なものだった。

そんなとき、突然、廊下から足音が聞こえてきた。
僕たちは一瞬で緊張感を取り戻した。足音はどんどん近づいてくる。ここで見つかれば大変なことになるかもしれない。
僕は裕子をかばうように、彼女の前に立った。

「誰かいるの?」足音の主はそう呼びかけた。
僕の心臓は激しく鼓動していた。しかし、裕子は冷静だった。彼女は静かに僕の手を握り、そっと囁いた。

「大丈夫、ここにいれば見つからないよ。」その言葉に僕は少しだけ安心し、彼女の手を握り返した。

やがて足音は遠ざかり、再び静寂が訪れた。
僕たちはしばらくそのままの姿勢でいたが、やがて裕子は微笑んで僕を見上げた。

「ありがとう。君って頼りになるんだね。」

その言葉に僕は少し照れくさくなったが、同時に嬉しくもあった。
昼間の僕ではこんなふうに彼女と話すことはできなかっただろう。
でも、夜の僕なら...。そんなことを考えながら、僕たちは教室を後にした。

校門を出ると、冷たい夜風が僕たちを包んだ。
裕子と並んで歩きながら、僕は彼女に対してますます興味を抱いた。
なぜこんな時間に学校にいたのか、尋ねてみることにした。

「裕子、どうして学校にいたの?君も忘れ物かい?」僕は軽く尋ねた。

裕子は一瞬考え込み、そして小さく頷いた。
「うん、そう。大切なノートを取りに来たんだ。明日の授業で使うものだから。」

僕は彼女の言葉に頷きながらも、何かが引っかかっていた。
しかし、あまり深入りするのも良くないと思い、それ以上の質問は控えた。

その後、僕たちはしばらく無言で歩き続けた。
裕子の存在が僕の中でどんどん大きくなっていくのを感じた。
昼間の僕では、こんなふうに彼女と自然に話すことはできなかっただろう。
でも、化け物の僕なら少しだけ勇気が出るんだ。

家の近くまで来たところで、裕子が立ち止まった。
「ここまで送ってくれてありがとう。君と一緒にいると、なんだか安心するよ。」

その言葉に僕は心の中で嬉しさが広がった。
「こちらこそ、裕子がいてくれて助かったよ。」と言いながら、僕は彼女に微笑んだ。

「また学校で会おうね。」裕子はそう言って、家の中に入っていった。
僕はその背中を見送りながら、心の中で決意した。昼間の僕も、もっと彼女に近づけるように努力しようと。

その夜、僕は初めて自分の化け物の姿が悪いことだけではないと思えるようになった。
何と言っても勇気も変化する。
裕子との特別な時間が、僕に少しだけ自信を与えてくれたのだ。

その後の数週間、僕と裕子は昼間の学校でも少しずつ話すようになった。
最初はぎこちなく、短い会話だけだったが、夜の出来事を思い出すたびに、僕の心は暖かくなった。

ある日の放課後、裕子が僕を呼び止めた。
「今日、少しだけ話せる?」彼女の声は少し緊張しているように聞こえた。

「もちろん、何かあった?」と僕は答え、彼女について行った。
学校の裏庭にあるベンチに腰を下ろし、裕子は静かに話し始めた。

「実は、あの夜から君のことをずっと考えていたの。君が変わってしまうこと、私には怖くなかった。
むしろ、その姿を見たことで、君の本当の強さを感じたんだ。」

その言葉に僕は驚いた。裕子は僕の秘密を知っていながら、それを受け入れてくれていたのだ。

「裕子、僕も君に話したいことがあるんだ。君と過ごしたあの夜から、僕もずっと君のことを考えていた。
昼間の僕は臆病で、君に何も言えなかったけど、夜の僕は君のおかげで変われたんだ。」

僕の言葉に裕子は微笑んだ。「なら、これからは昼間の君と夜の君、どちらの君も一緒に過ごしていきたい。」

その言葉に僕は胸が熱くなった。裕子が僕の手を握りしめると、僕の心は確かに彼女への想いで満たされた。
彼女の温かい手のひらが、僕に勇気を与えてくれた。

その日から、僕たちは昼間の学校生活でも、夜の秘密でも、お互いを支え合うことを誓った。
化け物の姿を持つ僕と、優しく強い心を持つ裕子。
二人で歩む未来が、どんなに厳しい道のりでも、一緒なら乗り越えていけると信じていた。

新たな日々が始まってから数週間が過ぎたある晩、僕は再び化け物に変わっていた。
しかし、心は穏やかだった。裕子が僕を受け入れてくれたことで、夜の姿にも慣れてきた。

その夜、学校にまた用事があって、夜の校舎に忍び込んだ。前回のように誰もいないはずの教室に足を踏み入れた。
すると、再び裕子の姿がそこにあった。しかし、彼女の様子が少し変わっていることに気づいた。

「裕子?」僕は彼女に声をかけた。

裕子はゆっくりと顔を上げ、僕に向かって微笑んだ。その瞳が、まるで僕のように鋭く輝いていた。僕は一瞬驚き、言葉を失った。

「実はね、私も君と同じなんだ。」裕子は静かに言った。
「昼間は普通の人間だけど、夜になると化け物になる。君に話す勇気がなかったけど、君が変わった姿を見たとき、ようやく勇気が出たの。」

僕は裕子の告白に驚きつつも、同時に強い連帯感を感じた。
「裕子、君もだったのか。ずっと一人で抱えていたのか。」

彼女はうなずき、少し寂しげな表情を見せた。
「でも、今は君がいるから。一人じゃないって思えるようになった。」

僕たちはお互いに秘密を打ち明け、同じ境遇にあることを知った。
それからは、夜の校舎で二人だけの時間を過ごすことが多くなった。裕子と一緒にいることで、僕は自分の姿を受け入れることができるようになった。

ある晩、満月が輝く中、僕たちは校庭で並んで座っていた。風が心地よく吹き抜ける中、僕は裕子に向かって静かに言った。「裕子、君と一緒にいると、本当に幸せだ。」

彼女は微笑みながら、僕の手を握り返した。
「私も。君がいるから、どんなに暗い夜でも怖くない。」

その言葉に僕の胸は温かくなった。昼間の僕も、夜の僕も、裕子がいてくれることで強くなれる。
二人でどんな困難も乗り越えていけると信じていた。

そして、僕たちは夜の校舎を後にし、新しい未来へと歩み始めた。


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