一人の娘が家族を崩壊させる—エスター—
≪概要≫
監督:ジャウム・コレット=セラ
製作:ジョエル・シルバー 、スーザン・ダウニー、ジェニファー・デイビソン・キローラン 、レオナルド・ディカプリオ
製作総指揮:スティーブ・リチャーズ 、ドン・カーモディ 、マイケル・アイルランド
≪あらすじ≫
赤ん坊を死産で失い、悲しみに暮れていた夫婦ケイトとジョンは、養子を迎えようとある孤児院を訪れる。そこで出会った少女エスターに強く惹きつけられた2人は、彼女を引き取ることに。しかし、日に日にエスカレートするエスターの不気味な言動に、ケイトは不安を覚え始める。(1)
© 2009 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
© 2009 Dark Castle Holdings, LLC. All rights reserved.
≪はじめに≫
矢島晶子氏がこの作品の主演エスターの吹き替えをしているのがこの作品を手に取った主な理由である。矢島晶子氏と言えばクレヨンしんちゃんの初代野原しんのすけの声優である。この野原しんのすけ役に引っ張られる人が多いだろうが声優としては一流で『ホーム・アローン』のケビンも彼女が吹き替えている。そんな彼女が少女、しかも極悪そうな役となっては見ないわけにはいかないと思い手に取った次第である。
≪独自性≫
【終始描かれるエスターの狂気】
物語は終始エスターの異常性に重き置かれている。エスターは笑顔でいるが素面になると冷徹で何処か超然的な仕草を行う。それが不気味で嫌味っぽく、時々何を考えているのか分からない気味の悪さが上手く演出しており、彼女が自分で腕を折るシーンなど迫真である。
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【家族間の溝】
この作品はエスターと言う闖入者が家庭を壊す話であるがその過程が自然描かれる。彼ら家族(主に両親)が抱える不満や古傷をエスターが露出させ、不安と抑圧に転じさせ、破滅へと導く。その過程が見ているこちらにも分かる様に度々回想や会話で出されるそれがわざとらしいと感じる。
≪技術力≫
【エスターの設定周り】
この作品の様な闖入者が家庭に入り込む話ではその闖入者を恐ろしくもありながら魅力的に描写することが最も重要なことだがこの作品は見事それを成し遂げている。特にエスターが描く絵の仕掛けはこの作品の目玉だと言っても過言ではない。
エスターがロシア系でいつも聖書を持ち歩いており、フリルが付いた運動に適さない洋服を好んで着ることなど彼女のミステリアスさが増すいい仕掛けになっている。
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≪構成≫
【細かな点での齟齬】
前述のとおりエスターの設定が良く練られているがそこを魅力的に披露するまでの繋ぎの描写が不十分になっている時がある。
特に義母周りの描写が違和感ばかり生じている。そもそも彼女は主人公のケイトの家に寝泊まりしているのか?来る日が決まっているのか?彼女の存在があるのせいでエスターが怪しい動きをする度にこの時義母は何をしていのかと脳裏に過ぎりご都合展開なのではと苦言したくなる。
他にもエスターの事を危険だと思いながらもエスターが盗み聞きできる場所でエスターの話をしていたり、用心をしないで娘を一人車の中に置いて行くケイトにも違和感を覚える。
【強い母像を描きたいのか】
エスターの狂気に気が付いてのは主人公でもあり、母親でもあるケイトでエスターに立ち向かったのもケイトであり父親であるジョンは彼女の話を聞きいれもせずケイトを責め、最後には殺されてしまう。
父親として子供に分け隔てもなく愛情を注ぎ養子であるエスターにも我が子と同等の扱いをし、家庭環境が変わった養子の少し怪し態度に許容するのは素晴らしいが妻への対応が間違っている。ケイトが元アルコール依存症であるのならなおさら冷たい態度をせず、彼女と寄り添わなければならないだろう。
エスターが家族の中にもともとあった不破を増大化させたというのが描きたいことなのだろうがもう少し家族間――特にこの二人の描写をもっと練った方が良いと感じた。
≪おわりに≫
私的にエスターのゴシックの雰囲気と超然的な態度が気に入ったが映画としては腑に落ちない事が多々ありご都合展開である事が否めなかった。
最後に自分が好きなシーンを上げるとエスターがピアノを弾くシーンだろう。あそこでの超然的な態度と選んだ楽曲センスがとても良かった。
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≪註≫
(1)以下から引用
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