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生成AI時代におけるセックスの意味とは
生成AIの飛躍的な発展は、私たちの生活のあらゆる側面に影響を及ぼしています。それは性生活においても例外ではありません。ある調査によれば、ChatGPTの最も一般的な利用方法は性的なロールプレイであると言われています。一方で、性行為は生身の人間同士が行う、最も根源的で大切なコミュニケーションの一つです。テクノロジーの進化と人間の性行為の間には、どのような違いがあり、どのような意味があるのでしょうか。ここでは、その違いと意義について考察してみます。
発展するテックとセックストイ
近年のテクノロジー産業の隆盛は、性産業にも大きな影響を及ぼしています。2024年1月に開催された世界最大のテック見本市「CES2024」では、最新のアダルト玩具メーカーが注目を集めました。
中国やノルウェーなど様々な国が開発したこれらのデバイスは、ユーザーが視聴しているビデオコンテンツと同期し、振動や動きを調整することができます。具体的には、機械学習を活用してコンテンツに応じた圧力や振動の周波数、動きのパターンを調整します。これにより、これまでにないリアルな体験を提供することが可能となっています。
AIボーイフレンド・AIガールフレンド
執筆者が全て大学教授などのアカデミック関係者であるニュースメディア「The Conversation」によると、ある AI コンパニオン サービスでは、すでに約3,000 万人のユーザーがカスタム デジタル ガールフレンド (またはボーイフレンド) を作成しているそうです。ユーザーは自分好みのパートナーをデザインし、対話や交流を楽しむことができます。このようなサービスは、人間関係の新しい形を提案しています。
さらに、セックスドール販売業者もデジタルやAIの技術を取り入れています。肌の色や体型をカスタマイズできるだけでなく、動きや加熱機能、さらにはAIによる「うめき声」や「会話」、そして「いちゃつき」までも完全に制御できるインタラクティブなリアルライフセックスボットを提供しています。これらの製品は、人間のパートナーとの関係を模倣し、より高度な体験を提供することを目指しています。
ロボットととの性的関係の未来
実際に人々は近い将来、ロボットと性交渉することになる未来を予想しているという調査も出ています。
未来像をつくる専門会社の未来予報株式会社が2021年に発表した「「性愛の未来」に関するレポート」では、2040年には人間以外とのセックスを楽しむ「オナ・シンギュラリティ」が起きると想定しました。
さらにカスタマーサービスやチャットボットを提供するTidioが2021年に実施した調査でも、「どのような状況でAI技術を歓迎するか」という問いで、男性回答者の48%が「性行為」と回答しています。
2024年10月時点では、バーチャルコンパニオンやAIセックスボットの市場はソーシャルメディアよりはるかに小さく、ユーザー数も数十億ではなく数百万人程度です。しかし、セックスとテクノロジーは常に進化してきました。今後、こうした産業が成長し、私たちの生活に深く入り込んでくることは十分考えられるでしょう。
The Conversationも「近い将来、追加料金を払えば、AI ガールフレンドとどんな性癖も満たせるようになるかもしれません。」と指摘します。さらには「AI 妻が厄介になったら、企業の支配者に彼女の嫉妬モジュールを無効にするよう依頼したり、彼女を削除して、好きなだけ AI 愛人と並行してやり直すこともでき」る未来が訪れると予想します。
倫理的な課題と社会への影響
ただ、こうした生活は私たちが望むものでしょうか?
オーストラリア放送協会(ABC)の調査によれば、女性のソーシャル メディア画像を操作して偽のインフルエンサーを作成するために生成 AI が使用されることがすでに広まっていることが明らかになりました。こうした画像には同意年齢に達していないように見える人物を描写しているものも多くあるようです。
孤独な生活が問題となる中で、セックスボットの需要はますます広がっていくことでしょう。
しかし、The Conversationは「有害な性行為を正常化することは、社会にとって悪いニュース」と、セックスボットの急速な普及に対する懸念を表明しています。具体的には、性的な暴力や小児性愛の助長につながる可能性が指摘されています。
「セックスボットの使用は、ギャンブルなど、潜在的に問題となる他の行動と同様に扱うべきです」との意見もあり、適切な規制や教育が求められています。
性行為の根源的な意味とは?
生成AIによって製作されたアダルトビデオが登場したり、前述したように生成AIによってこれまでよりもはるかにリアルに近い性的興奮が「ひとり」で「簡単」に味わえるようになった現在、私たちはなぜセックスを求めるのでしょうか?
このような状況の中、TENGA社でマーケティングディレクターを務める西野芙美さんは読売新聞に「ひとりエッチで満足できる時代にセックスの意味をAV男優と考える」というコラムを寄稿しました。
TENGA社のイベントで著名AV男優と対談した西野さんは「人間にとって性交渉はどんな意味を持つのか」という問いに向き合います。
西野さんは著名AV男優である森林原人さんが、性交渉について赤ちゃんが抱っこされると泣き止んだり笑ったりすることで安心することと同じであり、「『相手と体でつながること』が大事になる」と回答したことを取り上げます。
性交渉は心と体がつながること
こうした森林さんの回答から、西野さんは精神科医の中井久夫氏(2022年逝去)が提唱した「こらだ」という概念を示します。
「こらだ」という概念は、心と体の分離を疑問視し、両者が本来一体であることを強調する考え方です。この言葉は「こころ」と「からだ」を合わせた造語であり、人間の状態を「心身一如」として理解するアプローチを示します。
中井氏は心と体を分けるのは便宜的なものであり、特に精神疾患や不安などの状態では心身が一体化する「こらだ」状態が顕著になるとしています。たとえば、不安が高じるとお腹が痛くなったり、緊張で汗をかいたりする現象がその例です。
西野さんは臨床心理学者の東畑開人氏が「こらだ」について、「他者に開かれた『こらだ』は、実際に他者の『こらだ』を引き出す。その最たるものが性行為ではないか」と触れられていることを引用します。
つまり前述の『相手と体でつながること』とは単に体だけでなく心も同時につながることではないか、ということです。
一人よがりな性行為は相手にとっても心地よいものではありません。
そして、いくら知識を詰め込んだとしても相手への思いやりを伝えなければ、それが例えばワンナイトラブやセックスフレンドの相手であっても、満足のいく時間を過ごすことはできないでしょう。
孤独な人が増えている今だからこそ、生成AIでのポルノ作品ではなく、リアルな人との出会いが求められているのではないでしょうか。
テクノロジーと人間性のバランスを求めて
将来、愛を求める人々が、いつでも利用可能で自分の望むままの完璧な人工恋人を利用できるようになるかもしれません。しかし、心と体のつながりを求めるためには、生身のパートナーが必要です。テクノロジーは私たちの生活を便利にし、新しい可能性を開いてくれますが、人間同士の深いつながりや感情は、やはり人と人との間でしか生まれないものです。
私たちは今、テクノロジーの進化と人間性のバランスを見つめ直す時期に来ているのかもしれません。生成AIやセックスボットが広がる中で、人間が本当に求めているものは何なのか。便利さや快適さだけでなく、他者との深い関係性や心のつながりを大切にしていくことが、これからの時代に求められるのではないでしょうか。