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セックス・ポジティブとは?多様な性をオープンかつ前向きに表現・受容する効果

セックス・ポジティブとは、一言で言うと多様な性的指向や性的アイデンティティに対して、オープンかつ前向きに表現・受容することです。1900年代半ばに作り出された言葉であり、現代ではさまざまな業界、分野においてセックス・ポジティブの考え方が浸透してきています。

しかし、一見見慣れない言葉であることから「性にふしだら」といったネガティブな印象を持つ方もいるかもしれません。

そこでこの記事では、セックス・ポジティブの定義や対義語、歴史、現代におけるセックス・ポジティブの在り方、効果などについてまとめました。

セックス・ポジティブとは

まずはセックス・ポジティブの概要について見ていきましょう。以下では、セックス・ポジティブの定義や対義語について解説します。

セックス・ポジティブの定義

「セックス・ポジティブ」とは本来、人種差別を否定するという意味から、性的関心を肯定する動きまで、さまざまな意味で使われている言葉です。

セックス・ポジティブと似たような意味を持つ言葉としては、「プロセックス(pro-sex)」や「プロセクシュアリティ(pro-sexuality)」などが挙げられます。

特にセックス・ポジティブの根底にあるのは、多様な性的指向や性的アイデンティティ、性的関心に対してオープンかつ前向きな態度を持ち、表現することです。

BDSM(ボンデージ・ディシプリン・サディズム・マゾヒズム)やポリアモリー(特定複数の恋愛)など、他者の性的・恋愛的な取り組みに対して受容する態度を持つこともセックス・ポジティブの意味に含まれます。

また、性感染症(STI)や望まない妊娠を防ぎ、安全で合意に基づいたセックスの実践を重要視する考え方のことでもあります。

セックス・ポジティブの対義語

一方で、セックス・ポジティブではないことを「セックス・ネガティブ」と言い、主な特徴は次のとおりです。

  • 相手を評価したり、罪悪感を持たせる言動をしたりすること

  • 自分自身の性的アイデンティティや性的関心に恥ずかしさや申し訳なさを抱くこと

  • 自分自身の身体の性的側面を受け入れていない、後ろ向きであること


セックス・ポジティブの歴史

セックス・ポジティブの歴史は、大きく4つの年代に分類されます。以下では、それぞれの歴史の流れについて詳しく見ていきましょう。

1900年代

セックス・ポジティブという言葉の起源は、1900年代半ばまで遡ります。「セックスが人間の健全な側面である」という議論の一環として、オーストリアの精神分析医であるヴィルヘルム・ライヒ氏によって作り出された言葉がセックス・ポジティブです。

1960年代

その後セックス・ポジティブ運動は沈静化と復活を繰り返していましたが、ラブ&ピースが提唱されたヒッピー文化の中で自由恋愛が広がり、1960年には「セックスを否定的に捉えたり抑圧したりするべきではない」という意識が生まれました。

また、いわゆる「セクシャル・レボリューション」が起こったことをきっかけに、性的自由や個人の性的権利が主張されるようになっていきます。

1970年代

1970年代に入ると、フェミニズム運動が第二波に突入。女性の性的権利や性的自己決定権が重要なテーマとして取り上げられるようになりました。

この時期に登場したのが「セックス・ポジティブ・フェミニズム」です。女性が自らの性的欲望を持つことや、性的欲望について自由に表現する権利を主張する流れになっていきました。

また、この頃にはポルノグラフィやセックスワーカーの権利にまつわる議論も活発化していきました。

1980年代

1980年代に入るとセックス・ポジティブ運動がさらに拡大していく一方で、HIVの流行によってセックスが死と結びつき、否定的に捉える風潮も広がっていきました。

この頃になるとより安全なセックスの重要性が強調され、性的健康と責任を伴った性的行動が重要視されるようになっていきます。

現代のセックス・ポジティブ

セックス・ポジティブは、現代においてもさまざまな意味で使われている言葉です。

実際に「セラピーにおけるセックス・ポジティブの定義(Sex-Positivity in Therapy)」という論文によると「分野によっても分野内でも定義が異なる」とされています。文化によって慎み深さやコミュニケーションに対する価値観は異なるため、性に対してオープンになり、多様な性を受け入れるための姿勢が大切です。

以下では、現代におけるセックス・ポジティブの特徴について詳しく見ていきましょう。

「日本性科学会」とセックス・ポジティブ

日本では、日本セックス・カウンセラー・セラピスト協会が1979年に設立され、その後2023年10月に一般社団法人「日本性科学会」が設立されました。現在ではセックスセラピーやセックスカウンセリングにとどまらず、セクシャリティ全般を対象としており、社会的な意義を明確にしようと動き始めています。

一般企業とセックス・ポジティブ

TENGAが展開する女性向けブランド「iroha」を筆頭に、デザイン性の高いセルフプレジャーグッズを展開する一般企業が増加傾向にあります。セルフプレジャーグッズに対する「恥ずかしい」「隠すべき」といった従来のイメージが一新されつつあり、女性が性についてポジティブに捉えやすい風潮が生まれてきています。

性教育とセックス・ポジティブ

従来の性教育では、生殖にのみ焦点を当てることが多い傾向にありました。しかし現代では、性的快楽や感情的側面、性的同意、LGBTQ+に関する教育の重要性も認識されつつあります。

インターネットの普及に伴い、専門家や教育者による正確な性知識や情報にアクセスしやすくなっているのも現代の特徴です。

また、性的リスクを避けるための教育にとどまらず、一人ひとりが自立した人間として性に向き合うための知識やスキルを身に着けることを目的とした取り組みが重要視されるようになっています。

インターネットとセックス・ポジティブ

現代では、インターネットの普及によって性的な自己表現やコミュニケーションを図れる場が拡大しています。

特にLGBTQ+コミュニティをはじめとするさまざまな性的マイノリティが、SNSを通じて自分たちのアイデンティティを表現し、共通の経験を持つ人々と繋がることができるようになっています。

また、「#MeToo運動」や「#SexPositivity」といったハッシュタグを通じて、多くの人々が性に関する対話をしやすくなっているのも現代の特徴です。

ドラマや映画とセックス・ポジティブ

「ボーイフレンド」や「セックス・エデュケーション」が話題となるなど、昨今ではセックス・ポジティブな内容のドラマや映画も増加傾向にあります。

従来の性的タブーを打破し、性に対して健全で前向きな態度を描く作品が増えていることで、多様な性に対するオープンな対話の機会や理解を促す効果を果たしていると言えます。

ファッションや音楽などさまざまな業界に広がる「セックス・ポジティブ」

レザージャケットやスタッズなど、モダンファッションの世界にセックスの要素が取り入れられるようになったのは、1970年代のことだと言われています。

その約20年後にはドレスやビスチェにスタッズ付きの首輪やハーネスを取り入れるなど、BDSM(ボンデージ・ディシプリン・サディズム・マゾヒズム)にも注目が集まるようになりました。

また1980年代後半から1990年代にはムチや鎖、ハイヒール、全身ラテックスといったファッションも登場。性的タブーを打ち破る大きな役割を果たしており、今ではストリートウェアなどにもBDSMの要素が見受けられるようになりました。

さらに、MTVビデオ・ミュージック・アワードでラテックス製のマスクやレースアップのPVCドレスを着用しするシンガーも登場するなど、音楽業界においてもセックス・ポジティブな表現が広がっています。

そのほか、ジュリア・フォックスやジュリア・フォックスなど、セックス・ポジティブなファッションを支持するセレブたちも増加傾向にあり、さまざまな業界に広がっていることがわかります。

セックス・ポジティブの効果

セックス・ポジティブであることは、以下のようにさまざまな効果をもたらします。

  • 肉体的健康の向上

  • 精神的健康の向上

  • 性的健康の向上

  • パートナーシップの強化

  • LGBTQ+コミュニティへの偏見や差別の減少

ここからは、それぞれの効果について詳しく見ていきましょう。

肉体的健康の向上

セックス・ポジティブなアプローチは、肉体的健康の向上に効果的です。

セックスやセルフプレジャーといった性的行動は、心拍数が上がって血流が促進されるため、心血管系の健康を向上させる効果が期待できると言われています。

また、性的行動中には風邪や感染症に対する免疫力を高めるホルモンが分泌されるほか、ストレスホルモンであるコルチゾールの濃度が下がることで暴飲暴食を防ぐ効果も期待できます。

精神的健康の向上

セックスに対して肯定的な考えを持つことは、精神的健康の向上にも効果的だと考えられています。

性的満足は筋肉の緊張をほぐし、リラクゼーションを促進するため、ストレスや不安の軽減にもつながります。オキシトシンやエンドルフィンといった幸福感をもたらすホルモンが分泌されるため、うつ病や不安症状の軽減も期待でき、精神的安定が図れるでしょう。

また、自分自身の性的欲求やアイデンティティをポジティブに受け入れることで、性に対する罪悪感や恥が軽減され、自己肯定感や自己受容感が高まる効果も期待できます。

性的健康の向上

安全で合意に基づく性的行動を行うというセックス・ポジティブな考え方を持つことによって、性的健康の向上にもつながります。

特に、性感染症(STI)や望まない妊娠を防ぐための意識を持つことで、自身の身体を守るための知識が高まります。

また、性教育や情報発信の質が向上したり、オープンな対話の機会が増えたりすることで、性的リスクに対する理解が深まりやすくなるのもセックス・ポジティブの効果です。

パートナーシップの強化

セックス・ポジティブなアプローチは、パートナーとの関係性を強化する上でも重要です。

「どこをどのように触られたいか」「どのような頻度でセックスをしたいか」といったオープンなコミュニケーションを通じて、お互いの性的欲求や感情について理解し合うことができ、信頼関係が深まります。

健全な性的関係を持つことで精神的な絆が強化されるほか、マンネリ予防にも繋がるため、長期的なパートナーシップが築かれやすくなるでしょう。

LGBTQ+コミュニティへの偏見や差別の減少

セックス・ポジティブなアプローチには、LGBTQ+コミュニティに対する偏見や差別を減少させる効果も見込めます。

LGBTQ+の人々は、社会的な偏見や差別によってメンタルヘルスの問題を抱えるリスクが高いと考えられています。また、自身の性的指向やアイデンティティを周囲にカミングアウトすることを難しいと考える人が少なくないことも事実です。

偏見や誤解をなくすためのセックス・ポジティブな行動を心がけることで、一人ひとりが性的アイデンティティを自由に表現できる社会を目指せます。

セックス・ポジディブがより身近に

セックスや性的アイデンティティ、性的行動に対してオープンかつ前向きな姿勢を持つことをセックス・ポジティブと言います。「申し訳ない」「恥ずかしい」といったネガティブな感情を抱くことなく自信を持って対話をしたり、パートナーの性的アイデンティティについて受容したり、また正しい性の知識を追求したりといった活動もセックス・ポジティブの一環です。

一見見慣れない言葉かもしれません。しかし、昨今ではセックス・ポジティブな内容のメディアが増加傾向にあることや、SNSなどを通じて性的アイデンティティを表現しやすくなっていることもあり、身近にある考え方だと感じた方も多いのではないでしょうか。

セックス・ポジティブであることは、健康の向上やパートナーシップの強化、LGBTQ+コミュニティへの偏見や差別の減少など、多彩な効果をもたらしてくれます。まずは自分自身の性的側面に気づき、ポジティブに受け入れることから始めてみてはいかがでしょうか。

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