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【読んだ】2024年12月の本たち

2024年12月に読んだ本たち。これらの本を読んだ感想をまとめる。

世界でもっとも強力な9のアルゴリズム/ジョン・マコーミック

情報工学の知識がない人でも、アルゴリズムの面白さがわかるように説明している本。小難しい話はほぼなくて、

1. 普通のコンピューターユーザーが毎日使っている
2. 現実世界の具体的な問題を解決する
3. コンピュータ科学理論に関係があって一般性を備えている

の条件に当てはまるアルゴリズムをピックアップして説明している。
この本はスキルを会得するための専門書ではなくて、読者がコンピューター的な機械を使うときに、そのアイデアの素晴らしさを面白がれるように書かれているので、読み物として面白い。ひとつひとつの仕組みはシンプルなのに、便利な仕組みをつくれるところに美しさを感じる。

犬のかたちをしているもの/高瀬隼子

主人公が、恋人から妊娠した別の女性を紹介され、その子供を引き取るよう提案されるところから始まる。本の帯に書かれた「恋人と自分以外の人との間に生まれた子どもを愛せるか」という文章に興味をひかれて手に取った。結構突飛な設定だが、主人公の視点で話が展開していくので、他人の人生を疑似体験した気分になった。
子どもがいる友人が、子どもが生まれた時点では特に特別な愛情はなくて、ずっと見て育てることで生まれる感情だと言っていたことを思い出した。

ものがわかるということ/養老孟司

解剖学者の著者が、「わかる」とは何かを多角的に探求した本。「わかる」ことの本質について考察している。
著者は、自然のなかで過ごしたり実際に五感で体験することを大切にしていて、自分自身の感覚が抜けた人たちは、思考の全てが言葉から始まってしまう、と言っていた。これは自分にもすごく覚えがあって、他人が体験して文章化したものを読むと、知ったつもりになってしまいがちである。しかし、実際には体験していないので、自分の中に何も残らない恐怖があるなと思った。この本を読んで、言葉ではなく感覚で体験できるように、フットワークを軽くしようと思う。

厚利少売 薄利多売から抜け出す思考・行動様式/菅原健一

会社の読書会に参加するために購入。厚利少売とは「少なく作って高く売る」という意味で、従来の「安く大量に生産する」から脱却しようという内容である。現代はモノが世に溢れていて、簡単にモノが手に入る時代なので、大量生産の恩恵が少なくなっている。
読書会では、書籍内で取り上げられていた「本質価値と付加価値」に関する話し合いが盛り上がった。本質価値とは、商品やサービスそのものが持つ基本的な役割や機能(つまり顧客がその商品を買う理由そのもの)、付加価値とは、本質価値にプラスして提供される、顧客の購買意欲を高める要素(つまり顧客がその商品を選びたくなる理由)だそう。
先日友人へのクリスマスプレゼントとして、ちょっと高めの化粧水(ipsa)を選んだ。保湿するという機能だけであれば、大容量のハトムギ化粧水とかをバシャバシャ使うほうがよさそうだが、ipsaのシンプルかつミニマルなデザインとか、「ipsaの化粧水を持っている」という認識そのものとか、「自分では気軽に買いづらいもの」という価値を求めて購入したんだろうなと思った。ドラッグストアで数千円の化粧水があっても絶対に買わない。

HUNTER×HUNTER 1~10/冨樫義博

いろんな人から、世界で一番面白い漫画だと勧められたのでついに読み始めた。
序章では、ハンターになるための試験を進めていく話が中心だった。試験内容が単なる力試しではなくて、知略や判断力も問われる点が作り込まれていて面白いなと思った。すべてのシーンに意味があるのがすごい。

【漫画】えれほん/うめざわしゅん

現代社会を風刺的に描いたブラックSFっぽい短編集です。
「リア充やルッキズム逆差別社会のディストピア」「知的所有権, 著作権の極端な保護」「臍の緒を切られると死ぬ病気」など設定がとにかく面白くて、リアリティがあるのがいい。SFは自分で世界観やルールを設定できるので、書きやすいジャンルだと思っていたが、この作品を読んで、全くそんなことはないと思った。世界観の設定も、その世界に生きるキャラクターの発言も鋭くて、何度もハッとした。かなり面白い。

【漫画】ハチミツとクローバー 1~10/羽海野チカ

この漫画のキャッチコピーが「登場人物全員片思い」なので、王道少女漫画だと思って読んだが、「誰が誰を好き」とかでははなくて、いろいろな人がそれぞれ大切にしているものが描かれているのがよかった。一般的な、共感を呼ぶよくある人間関係じゃなくて。だから共感できなくても心がじわーんとなった。あとは風景の描写が鋭くて、においや温度が伝わってくるので、こちらまでハチクロの世界にいる気持ちになった。
10巻で真山というキャラクターが「僕は僕なりにこの6年間先生とつきあってきた」というセリフがあるのですが、誰もが、誰かなりに人と向き合っていて、その全てがほんとうなのだよな〜というところがよかった。
アニメも漫画も全部観たら、12月が一瞬で終わった…

【漫画】スキップとローファー 11/高松美咲

いつも読んでいる漫画の続編が1年ぶりに出たので買った。
学園ものだが、社会生活においてそれぞれの立場の人にそれぞれの苦悩や悩みがあって、それを細やかに描いているところがとても素敵だと感じる。
11巻では、顔がよくて生きるのが上手そうに見える主人公の男の子が、胸の内に留めている思考がより細かく描かれているのがよかった。いくら仲が良くても、伝わらないことがたくさんあって、伝えようとする気持ちを持って話すのが大事だと思った。

【書籍】詩的私的ジャック/森博嗣

人気のミステリシリーズ4作目で、人気歌手の楽曲の歌詞通りに人が殺されていく話。
あとがきがよかった。自分が知っているミステリ小説では、動機を細かく描写して、犯罪者への共感を誘ったりする印象があるが、森博嗣作品ではそこは語らせず事件だけを描くのがよい。人の気持ちや動機は本当には理解できないからである。
「言葉にしないと伝わらないよ」というフレーズが良かった。言葉にしていないことを読み取る大事さもわかるけど、やっぱり言葉にして伝え合わないといけないと思った。
森博嗣の小説は理系小説とか言われているが、そのアンチテーゼとして、文系助教授があとがきを書いていた。「森作品では日本語の誤用がない、クリアな頭脳はクリアな日本語を操るから、ますます文系の出る幕はない」と言っていて、文系の真髄という気がしてよかった。

【書籍】世界の適切な保存/永井玲衣

上司に「この本が好きそう」と言われたので読んだ。永井さんの書籍は「水中の哲学者たち」だけ読んだことがある。
永井さんの文章は、手触りがあるところが好きだ。体験の表層をさらったような言葉ではなくて、五感を使って身体全体で受け取って何度も咀嚼したからこそ出てくる言葉が好きだ。普段見ないふりしているところをグサグサ刺してくるというか。そこが素敵だなと思う。たとえば、

「次に行くってどういうことなんでしょうね、どういう感じですか、もっと知りたい」(p192)

と永井さんが話している相手にきく描写がある。次に行く、とかすごくわかりそうな感覚だが、「自分の感覚としてはなんとなく知ってる」で終わらせるんのではなく、相手の言葉で理解(?)しようとしているのかなと、だからこんな文章が書けるのかなぁと思った。相手が相手の感覚を言葉にして、それを永井さんが自分の言葉で「これってこういう感じ?」ときいて、それをお互いに何回も繰り返して互いにわかろうという試みをしているのかしら。

伝えるということは、わたしがあなたのところまで歩いていくことである。いや、あなたの中にまで入り込んで、じたばたすることである

私から切り離された何かに情報を載せるのではなく、わたしをわたしから削り取って、あなたの中にまで入り込もうとする

人と話すのも、入り込まれるのも、入り込んでこちらが迷子になってしまう気がするのもとてもこわい、が「わかる」とか「伝わる」をやろうとすること自体が痛みを伴うものだから、そこを怖がっててはいけないな、、と思った。

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