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芳香族化合物の化学(6)「置換基効果と配向性」
有機化学の中でも芳香族化合物は構造,反応に特徴があります。
ここでは大学レベルの「芳香族化合物の化学」について解説していきます。
今回のテーマは「置換基効果と配向性」です。
【置換基効果】
電子供与基と電子受容基
置換ベンゼンは置換基によって電子供与基と電子受容基に分類され,芳香族求電子反応の反応速度を変化させる。
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反応性を変化させることから,電子供与基は活性基,電子受容基は不活性基とも呼ばれる。これら置換基効果は誘起効果(σ結合),共鳴効果(π結合)の2つの影響の兼ね合いで決まる。
活性基の過剰反応
活性基の中でもニトロ基やヒドロキシ基はその高い活性から置換反応が過剰に進行する。
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誘起効果
σ結合において,結合する原子同士の電気陰性度の差により,電荷の偏り(=有機双極子モーメント)が生じる。この時,電子供与が働く場合を+I効果,電子求引が働く場合を−I効果と別の効果として分けて考えることもある。
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電気陰性度の一覧
C: 2.55, N: 3.04, O: 3.44, F: 3.96, Cl: 3.16, Br: 2.96, I: 2.66
アルキル基の置換基効果は誘起効果と記述されていることも多いが,厳密には超共役による影響である。
共鳴効果
電子供与基は置換基からベンゼン環へ電子が流れる共鳴安定化,電子受容基はベンゼン環の電子が置換基へ流れる共鳴安定化が働く。
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【配向性】
一置換ベンゼンの配向性
置換ベンゼンの求電子置換反応は置換基効果により反応の選択性(配向性)が存在する。電子供与基の場合はオルト・パラ配向性,電子受容基の場合はメタ配向性を示す。
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アルキル基を除く置換基の配向性は共鳴効果によって決まる。そのため,ハロゲン置換基は不活性基ではあるものの,共鳴効果では電子供与が働くため,オルト・パラ配向性を示す。
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オルト・パラ配向性
電子供与基は中間体の共鳴構造を考えた場合,置換基上に正電荷がのった構造(黄色ハイライト)がオクテット則を満たすため,他の構造よりも安定である。そのため,電子供与基は安定な中間体を経由するオルト・パラ配向性を示す。
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メタ配向性
一方,電子受容基の中間体を考えた場合,オルト・パラ位への求電子攻撃は正電荷同士が隣接する不安定な中間体が存在する。そのため,電子受容基は不安定な中間体を経由しないメタ配向性を示す。
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アルキルベンゼンの配向性
アルキルベンゼンの場合,オルト・パラ位への求電子攻撃はイプソ位に正電荷がのる中間体が存在する。この時,アルキル基の電子供与(超共役)が働くため,正電荷を安定化させる効果が働く。そのため,アルキルベンゼンは安定な中間体を経由するオルト・パラ配向性を示す。
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多置換ベンゼンの配向性
① 最も強力な活性基の配向性を優先される。
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② 実験に基づいて置換基の配向性の強さを三つの組に分類される。
-NR2>-OR>-R, -X>メタ配向性
③ 置換基効果が同程度である場合,嵩高い置換基のオルト位を避ける形で配向性が決まる。
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【参考図書】
ボルハルトショアー現代有機化学(下)
「芳香族化合物の化学」をまとめたpdf(power pointスライド)も作成しております。
ご希望の方がおられましたらコメントをよろしくお願いします。