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芳香族化合物の化学(4)「多環芳香族炭化水素と芳香族性」
有機化学の中でも芳香族化合物は構造,反応に特徴があります。
ここでは大学レベルの「芳香族化合物の化学」について解説していきます。
今回のテーマは「多環芳香族炭化水素と芳香族性」です。
【多環芳香族炭化水素】
概説
複数のベンゼン環が縮大しπ電子系が拡張した炭化水素を多環芳香族炭化水素(PAH; Polucyclic AromaticHydrocarbon)と呼ぶ。
IUPAC命名法による簡単な命名ができないため,慣用名を用いる。ナフタレン,アントラセン,テトラセンのように直線状に縮巻したものをアセンと呼ぶ。フェナントレンのように直線状でない縮環することをアンギュラー縮合と呼ぶ。
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この他にもたくさんの多環芳香族炭化水素が存在する。
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多環芳香族炭化水素の安定性
PAHは共鳴構造が多く書けるほど安定な異性体になる。例えばアントラセンとフェナントレンの共鳴構造はそれぞれ4,5つずつ書けるのでフェナントレンの方が安定である(具体的には約6 kcal/mol安定である)。
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【芳香族性と反芳香族性】
Hückel則
共役ポリエンにおいて,(CH)Nで示される化合物は[N]アヌレンと呼び,π電子の数から芳香族性を定義できる。
(4n+2): 芳香族性
4n: 反芳香族性
ただし,非平面分子は共鳴安定化の寄与が弱いため,非芳香族性となる。
芳香族性
ベンゼンの他に[14]アヌレン(ほぼ平面),[18]アヌレン(平面)なども芳香族性を示す。この他にもシクロペンタジエニルアニオン,シクロヘプタトリエニルカチオンも芳香族性を持つ。
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反芳香族性
1,3-シクロブタジエンは空気に不安定な反芳香族分子であり,二重結合が非局在化した構造は遷移状態に当たる。
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1,3-シクロブタジエンの他に[12]アヌレン,[16]アヌレンなどが反芳香族に含まれる。
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【参考図書】
ボルハルトショアー現代有機化学(下)
「芳香族化合物の化学」をまとめたpdf(power pointスライド)も作成しております。
ご希望の方がおられましたらコメントをよろしくお願いします。