量子力学を概観する(2)「量子力学の誕生」
量子力学は古典力学と並ぶ物理学の2本柱の一つです。
これらはミクロ/マクロの物理学として区別され,量子力学はミクロ=原子などの微粒子の運動を表すことができます。
本連載では,数式の導入などは行わず,量子力学とは何かを概観していきます。
学問の勉強というよりは手軽に読んでいただけるような読み物を目指していきます。
今回のテーマは「量子力学の誕生」です。
前置き
今回の内容ですが,タイトルの通り,量子力学の誕生についてお話します。
かなりかいつまんでお話していきますが,膨大な量になっています。
古典力学の限界
前回に簡単にお話ししましたが,量子力学発見のきっかけは古典力学の限界,即ち古典力学では表現できない物理現象が発見されたことです。
まずは古典力学の限界を示した物理現象をいくつか紹介していきます。
黒体輻射
黒体輻射を説明する前にまずは「黒体」について説明していきます。
一般的な物体は特定の波長のみを放射,吸収します。
例えば,赤いリンゴは緑色の光を吸収することで,補色の赤色が我々の目で視認することができます。
一方,全ての波長の光を吸収すると黒色になります。
理論上,完全に全ての波長の光を吸収する物体のことを「黒体」と言います。
この黒体は全ての波長の光を吸収しますが,その吸収具合は温度によって変化します。
高温になると短波長,即ち青い光を吸収する割合が増えます。
この現象を「黒体輻射」と言います。
横軸に波長,縦軸にエネルギー分布(≒吸収する光の割合)でプロットするとその温度依存性がわかりやすくなります。
この黒体輻射を古典力学で記述したのがRayleigh–Jeansの法則です。
数式から見れる通り,エネルギー分布は波長の4乗に反比例します。
つまり長波長になるほどエネルギー分布は小さくなります(全ての光を吸収することから0にはならない)。
一方でRayleigh–Jeansの法則の場合,短波長側になるとエネルギー分布は増大し,実際の黒体輻射のエネルギープロットと矛盾します。
これを「紫外部破綻」と言います。
一方,Wienの変位則(一応数式を下に示します)も黒体輻射を記述していますが,こちらは長波長側の記述に矛盾が生じます。
光電効果
高校の物理でも学習する光電効果は,金属に光を照射することで電子が放出する現象です。
この光電効果について詳しく見ていきましょう。
光電効果の実験上の特徴は大きく3つ挙げられます。
① 放射線の振動数が,その金属に特有の閾値を超えない限り,その光の強度に関わらず電子は放出されない。
② 放出された電子のエネルギーは,入射した放射線の振動数に比例して増大する。
③ 一方で光の強度には電子の放出やそのエネルギーには一切関係がない。
ではなぜ光電効果が古典力学の限界なのでしょうか?
それは波動(光)と粒子(電子)が相互に関与する現象だからです。
(註:古典力学では電子=粒子と解釈しています。)
これは光電効果の数式を見るとわかりやすいです。
この式の真ん中は電子(粒子)の運動エネルギー,右辺が光に関する式になります。
なお,hはプランク定数(詳細は後述),Wは仕事関数です。
プランク定数は量子力学にまつわる定数ですが,ここでは単純な定数と考えてください。
古典力学では,運動エネルギーを波の式で書くことはできません。
つまり,古典力学で光電効果を説明することができないのです。
量子論の導入
古典力学の限界で生まれた問題点を解決するために,さまざまな量子論の考え方が導入されます。
各事例について量子論の導入と解決について見ていきましょう。
黒体輻射の解決:プランク定数の誕生
プランクは「黒体輻射におけるエネルギー(エネルギー分布ではないので注意!)が離散的な値に限定され,任意の値に変化することができない」という今でいう量子仮説を提唱しました。
これにより,エネルギーは次のように示される。
ここで登場した定数hはプランク定数と呼ばれ,量子力学を語る上で最も重要な定数と言っても過言ではありません。
このプランク定数を用いることで,新たにプランク分布と呼ばれるエネルギー分布を算出する数式を導きました。
プランク分布は長波長になるとRayleigh–Jeansの法則,短波長になるとWienの変位則へ近似できます。
つまり,黒体輻射を全ての波長で記述することができます。
光量子仮説:光電効果の解釈
光電効果を初めて物理的に説明したのはアインシュタインの「光量子仮説」です。
光量子仮説を一言で言うと,「光は波であると同時に粒子でもある」というものです。
つまり,光電効果は粒子(電子,中性子など)を当てることで,金属中の自由電子が押し出されると解釈できます。
この光量子仮説は光電効果に限らず,物理現象の一種である回折(波の通り道にある物体(≒粒子)により干渉する現象のこと→波と粒子が関係する物理現象)を説明することもできます。
少し話がややこしいかもしれないので簡単にまとめます。
光量子仮説では,従来の古典力学とは異なる解釈をすることによって,古典力学では解決できなかった物理現象を説明することができます。
光電効果→古典力学で波として扱う光が粒子でもあると解釈できる。
・・・電磁放射線の粒子性
回折→古典力学では粒子である電子が干渉(=波特有の物理現象)を引き起こすと解釈できる。
・・・粒子の波動性
つまり,波は粒子であり,粒子は波であるという波-粒子二重性という量子論の考え方が誕生しました。
物質波という概念の誕生
ここまで古典力学では別物と解釈していた波と粒子は,実は同じものであるという考え方についてお話してきました。
では,我々の身近にある物体について考えてみてください。
この物体の最小単位とは何でしょう?
どこまで小さくするかにもよりますが,分子,原子,陽子と電子など粒子にたどり着きます。
物体は粒子の集まりと考えられます。
それであれば,物体も波と考えることができるのでは?
これを真面目に言い始めたのが,ルイ・ド・ブロイです。
ルイ・ド・ブロイは波-粒子二重性を物体,物質に拡大解釈し,物質でとらえる波のことを物質波(ド・ブロイ波)と名付けました。
極論,我々のまわりにあるものは全て波である,ということです。ちょっと何言ってるかわかんないです。
物質波について数式化すると,波長と運動量が1つの式でつながることになります。
量子論の誕生
ここまでの話をまとめます。
古典力学で説明できない物理現象がいくつか発見され,これらは新たな考え方(概念)を適用することで説明してきました。
黒体輻射(=光の吸収に関する現象)のエネルギーが離散的である,波-粒子二重性です。
これらの考え方を一つにまとめると次のようになります(間のもろもろは省略)。
粒子は波の性質を併せ持ち,そのエネルギーは連続ではなく離散的な値しかとり得ない。
これが量子論の考え方です。
1900年頃からこの考え方は誕生し,従来の古典力学とは全く異なる解釈,考え方が誕生したと言えます。
量子論の発展,量子力学へ
この量子論がその後発展していき,新たな学問「量子力学」が誕生します。
つまり,量子論の誕生が量子力学の誕生とも言えます。
量子力学の基礎の基礎となるお話はこの量子論の考え方です。
まとめ(と次回以降の予定)
一般的に(前期)量子論と呼ばれるお話は電子線の発見などこの数倍のトピックはあるのですが,本連載では掘り下げません。
(まあ,他に詳しく解説している人がたくさんいますしね・・・)
と,今回は教科書のようなお話になってしまいました。
量子力学について解説する連載であれば,その後の量子力学の歴史について取り上げると思うますが,のうむの連載ではそんなことしません。
量子力学の各論なんてせず,1つのトピック,話題について取り上げていきます。
イメージとしてはオムニバス形式で進めていこうと思います(今回はその基礎となるお話をまとめてみました)。
必要となる基礎知識は要所で解説していきますので,気が向いたときに興味のある記事から見ていただけると嬉しいです。
それでは,また。
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