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魂がふるえる
塩田千春展、「魂がふるえる」。
糸が多い。
白い空間全体を侵食するような糸だ。
赤と黒と白。人間がまず知覚する原初的な色だ。
ヒトの魂というものがあるのなら、生物としての記憶があるならば、その色がまだそこに染み付いているのだろうかと思ってしまう。
糸を使った空間展示は、作者の代表的なインスタレーションであるらしい。
こういった、代表作の、大規模展示。一度は見ておいて損はないと、経験上知っている。
焼けたピアノや空の船、それに絡みつくようにある糸の存在の不確かさが、展示室という空間を覆っているのだ。
展示を一つ一つ区切らずに、空間全体を使う展示は珍しくはない。だが、地続きで全てが同じ展示に見えるようになるのは、あまりない。タイトルやキャプションも控えめで、曖昧な空間を不確かな足取りで進むと、その糸に絡め取られてしまいそうになる。
統一された色と空間は、不確かさを保ちながらも安定している。それはきっと、空間全体の白さにあるのだろう。
キャンパスのように思える。
舞台美術も手がけているとのことで、そちらの展示もあった。
そちらはどちらかというと、かなり色も強く、あらゆるものを使うといったように思えた。
わたしは非常に好ましく感じられるデザインが多く、作者の多才さと、何かのコンセプトに沿ってそれを作り上げる才能を感じることができる展示だ。
繊細な感性のもとで作り上げられた展示だと思う。人を不安にさせるような暴力的なまでに感性を殴りつけるようなものではない。
それこそ、「あるはずのない」「魂」のようなものが、わずかに震えるような。
そんな機微を感じることのできる展示であった。