スマート・テロワール: 100の自立経済圏で地域活性化と持続可能な未来を実現
「日本が100の村から成り立つ社会になったらどうなるか?」
今回は そんな社会の実現を提唱する書籍「スマート・テロワール」をもとに紹介します。
スマート・テロワールとは、地域の特性を活かしながら、持続可能な未来を目指す新たな概念です。その背景には、日本の農村部における自立圏の創造と、経済活性化の推進があります。そのために、私たちは日本全体を約100~150の経済圏、すなわちスマート・テロワールへと区分けしようと考えています。
「スマート・テロワール」とは
「スマート・テロワール」は、「賢い」や「ムダのない」を意味する「スマート」と、その地域特有の風土や景観、品種、栽培法などが育む「特徴ある地域」を表現するフランス語の「テロワール」を組み合わせた造語です。その目指すところは、各地域が自給自足の圏を築くこと。つまり、食料、住宅(木材)、電力といった物質は地産地消が原則で、地域内での物質循環、産業循環、経済循環が可能な単位となるのです。
この概念を実現するために、各地域が自立した経済圏となるような方針が本書では紹介されています。そのためには、一つのテロワールが10万人程度から最大70万人という人口規模をもつように区画を設け、住民たちが一体感を持つことが重要です。これにより、各テロワールは将来の目標を戦略的に選択し、独自の自給率目標を立てることが可能となります。
「農村は稼げない」という固定観念からの脱却
今までの考え方では、「都市は『かせぎ』の場、農村は『つとめ』の場」となっていました。しかし、スマート・テロワールの考え方では、この視点が大きく変わります。都市と農村はお互いに協力し、美味しい食べ物や美しい風景、楽しい暮らしを共有する場となるのです。
さて、具体的な例でスマート・テロワールの概念をご理解いただきましょう。一つの村があると想像してください。その村では、リンゴを栽培し、リンゴから作ったジュースやジャムを作っています。そして、リンゴの木の葉は豚の飼料とし、豚から得られる肥料は再びリンゴの栽培に役立てられます。そして豚肉は村で加工し、地元の人々に販売します。このようにして村は物質と経済の循環を実現し、自己経済圏として独立しているのです。これこそがスマート・テロワールの理念、そして実践です。
スマート・テロワールの具体的な実践: 山形県庄内地域
スマート・テロワールの発表後、この本で述べた農村自給圏の実現に向けて研究会も立ち上げられました。その第一歩を踏み出したのが山形大学農学部を中心とした山形県庄内地域でした。大学では2016年4月より、「食糧自給圏スマート・テロワール形成講座」が開設され、5年計画でモデル作りが始められました。農学部付属の農場ではジャガイモ、大豆、トウモロコシ、ソバの畑作輪作と、豚の肥育が開始されました。畑作と畜産の耕畜連携を図り、収穫物は高品質なものを食用に、規格外品や加工残滓は豚の餌にして、豚の糞尿は肥料として活用し、豚肉は地元で加工して、地域内流通させることを目指しています。
最後に
スマート・テロワールは、農村部が広域連合を形成し、経済圏ごとの政策を立て、地域色に合わせ独自の自給率目標を立てることができるようなシステムを提案しています。このビジョンの実現は、日本全国に広がる農村部の再生と、持続可能な未来の創造に寄与することでしょう。
経済活性化、環境保全、地域の魅力再発見、そして人々の結束力強化。スマート・テロワールは、これら全てを可能にします。農村の消滅論から一転、自立と活性化の大転換を遂げる未来を描いてみませんか。その一歩を踏み出すことで、私たち全てが豊かな未来を手にすることができるのです。
今回も最後までお読みいただきありがとうございます。