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農業とweb3の実証~Metagri研究所の挑戦と実績~

日本の農家は、高齢化や後継者不足、米価の下落など、昔から根深い課題を抱えています。頑張って作った野菜や果物を、十分な利益で売れずに歯がゆい思いをしている生産者も多い。それなのに、一方で消費者目線からすると「安さ重視」で流通の仕組みが動いている現実もあります。
そんな状況を変えたいと願い、活動を続ける農家支援コミュニティがMetagri研究所です。「ブロックチェーン」や「NFT」「DAO」というキーワードに行き着いたのは、ほんの3年ほど前のこと。海外では少しずつ注目され始めていた“web3技術”を農業に応用できないか──そんな問いがすべての始まりでした。


“FarmFi”という新しい旗印

Metagri研究所が掲げたコンセプトは、「農業×分散型金融」を意味する“FarmFi”。たとえばDeFi(分散型金融)の仕組みを使って、農家がシーズン前にNFTを発行し、それを買ってくれたホルダーに収穫期に実際の野菜や果物を送る。あるいは、コミュニティで独自トークンを発行し、農業関連のプロジェクトに資金を回していく。そうした動きが世界的に見てもほとんど前例がない状態だったからこそ、「面白いことになりそうだ!」と熱くなった人たちが集まりました。
2022年3月にスタートした小さな研究所でしたが、「農家を支援するためにブロックチェーンを活用しよう」というシンプルなアイデアに、エンジニアやデザイナー、そして農家自身も巻き込まれていきます。

MLTT(MetagriLabo Thanks Token)の誕生秘話

トークンエコノミーの中核となるのが「MetagriLabo Thanks Token(MLTT)」。名前が示す通り、コミュニティに貢献したり、農業を盛り上げる活動をした人に“感謝”を込めて配布するという位置づけです。週報の作成、SNSで農業関連ニュースをシェア、イベント企画の運営、イラスト制作など、大小さまざまな貢献を積み重ねれば積み重ねるほどMLTTを受け取れる仕組みが整備されました。

2023年開始当初は「本当にトークンって受け取って嬉しいの?」という懐疑的な声もありました。しかし研究所メンバーはこう考えました──“ありがとう”を経済的に可視化してみよう、と。つまり、お金ほどカチッとした価値にはならなくても、コミュニティ同士のつながりや「農家さんの野菜を手に入れたい」という気持ちが重なる場所であれば、トークンは“二次元のデータ”を超える価値を発揮するかもしれない、と。

2年間で1,000件超のトランザクション

実際にMLTTを運用してみると、思わぬほど早いペースでトランザクション(オンチェーン取引)が積み上がりました。最初のうちは1トランザクションずつ手動で付与していたのが、途中からDiscordのBotを活用し始め、毎週末に「Multicall」と呼ばれる一括送信を実施していました。2023年から2025年に至るまでの2年間で、オンチェーン取引はついに1,000件を突破しました。

小さなクリエイティブ作業で1トークン、イベント運営で5トークン、あるいは大きなコラボプロジェクト参加で100トークン……という具合に、多種多様なかたちでMLTTが配布されていったのです。そして、配布されたトークンを受け取った人たちが農産物NFTやオリジナルグッズへ交換するケースも続出しました。そうしてトランザクション数が着実に積み上がり、“コミュニティ内でMLTTが実際に回っている”状況が作られたわけです。

7,000トークン超がメンバーの手に

累計で7,000を超えるトークンがメンバーの手に渡ったという事実は、当初の運営メンバーですら驚くほどの数字でした。最初は「農家の方が興味を持ってくれるのか?」「テクノロジー好きの人しか集まらないんじゃないか?」と一抹の不安もありました。しかし蓋を開けてみると、農家の側からも「NFTを通じて自分の野菜を応援してくれるファンを増やしたい」「収穫体験イベントをやりたい」という声が上がり、エンジニアやクリエイターと組んで面白い企画が次々と生まれました。
MLTTを交換すると手に入れられるものは、たとえば「希少なトマトのセット」「収穫後、消費者が自由に価格を決められるマンゴー」「コミュニティ限定デザインのTシャツ」など実に多彩です。単なるデータ上のトークンではなく、リアルな農産物や体験、グッズに繋がるところが魅力となり、参加者の意欲を支える原動力になっているのです。

リアル農産物×NFTのインパクト

Metagri研究所が提示したもう一つの大きな価値は、NFTと実物の農産物を結び付ける仕組みでした。たとえば、NFTをコレクションとして所有するだけでなく「実際にそのブドウが収穫されたら送ってもらえる」となれば、従来の通信販売とは違うワクワク感があります。さらに、収穫状況をDiscordやメタバース農場で実況し、「いまちょうど花が咲き始めた」といった情報を共有しながら成長を見守る楽しさも生まれました。
NFTを通じて先行購入しているから、生産者としても「この分は確実に売れる」という安心があり、資金繰りが不安定になりにくいというメリットもある。まさに“FarmFi”を体現した仕組みだといえます。ここには、ブロックチェーン特有の「透明性」や「改ざん耐性」も活きてきます。取引の記録が残るから、消費者も安心して参加できるわけです。

新トークン「MLTT2025」への期待

2年間の実績を踏まえ、Metagri研究所は2025年に新トークン「MLTT2025」を発行する計画を打ち出しました。背景には、コミュニティ規模が1,100名を超えてきた今、さらに円滑にトークンを配布できる仕組みを整えたいという思いがあります。より使いやすいUIに改善して、Discord上でのメンションによる自動発行だけでなく、多様な外部サービスとも連携していくかもしれません。
同時に、ふるさと納税の仕組みとのコラボや、地方自治体の新規プロジェクトへMLTTを絡める動きも検討されています。「農業×web3」というとまだ敷居が高く感じるかもしれませんが、この2年で実証された成功体験がある以上、「web3は難しそう」という先入観を超えて参加してくれる農家や自治体が続々と現れる可能性を秘めています。

「コミュニティだからこそ」成し得たこと

Metagri研究所の面白いところは、あくまで「研究所」という立場を貫き、実験的なプロジェクトを次々に投入してきた点です。うまくいった事例は大々的に発表し、そうでもなかった企画は小さくクローズして再挑戦する。そんなフットワークの軽さが、結果的には1,000件を超えるトークン取引や7,000トークン超の配布へとつながりました。農家やエンジニア、デザイナー、ブロックチェーン技術者など、異なる背景を持つ人たちがコラボレーションできるのは「コミュニティだからこそ」。企業が単独で行うと「投資対効果が見えない」といった理由で企画倒れしがちな部分を、研究所という形態なら気兼ねなく試すことができたわけです。ここには、リスクを恐れず「まずは小さくやってみよう」という精神がしっかり宿っています。

これからの“農業×web3”が切り拓く未来

農業とweb3の掛け合わせは、まだまだ始まったばかりです。しかしながら、この2年間の足跡を振り返ると、消費者と生産者が直接つながる経済圏がリアルな形で動き始め、コミュニティメンバーの手で新しいビジネスモデルが次々と生まれていることがわかります。
農家さんは「買ってくれる人たちの顔が見えるから、やりがいが増した」と語り、トークンを集めるメンバーは「実際の農産物を受け取る喜びが想像以上だった」と嬉々として語る。そんな声がDiscordやSNS上を飛び交うのは、まさに“FarmFi”が機能している証拠でしょう。
今後もMetagri研究所は、“MLTT2025”を中心にさまざまな実験を繰り返しながら、実用性とワクワク感を両立させた仕組みを拡張していくといいます。2年間で積み上げた1000件超の取引や7000トークン以上の配布は、単なる通過点に過ぎないのかもしれません。そこには、「農業の常識を超越する」というキーワードそのままに、伝統的な産業を新しいテクノロジーの力で再構築しようとする、力強いモチベーションが感じられます。

“いくら美味しい作物を作っても、正当な対価を得られなければ続けられない”。

そんな農家のリアルな声がある一方、“テクノロジーを活用して応援したいし、新しい体験も楽しみたい”という都市部の消費者やブロックチェーン愛好家の声もある。両者を結びつける場所としてのMetagri研究所が、この先どんな農業体験を提供してくれるのか──。
2年間のトークンエコノミーによる成果はすでに明らかになりましたが、次の2年間にはもっと驚くようなアイデアが実装されるのかもしれません。
未来の農業が、ブロックチェーンとDAO文化によってどんな形に進化していくのか。そのリアルな実例を見たいのであれば、Metagri研究所のコミュニティをのぞいてみるのが一番早いでしょう。そこで行われる活発な議論とトークン配布、そして届くばかりの農作物やNFTとの交換風景が、「農業ってこんなにも新しく、面白い世界に変わろうとしているんだ」という実感を与えてくれるはずです。
ぜひ、Metagri研究所の取り組みに参加してみていただけると幸いです。

今回も最後までよろしくお願いしますありがとうございます。

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